つぶやくゆうき

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桜も咲いた三月中旬。学校を卒業し次のステージに胸踊る先輩もいれば、高校という場所に期待も不安も持つ新たな後輩もいるなか、
1年から2年に変わるだけの自分は、特に思うことも無く短い春休みを満喫するだけであった。

それでも多少の義務はありまして、いつも通りの音楽を聴きながらいつもより空いている電車に乗っていた。
車内は外の陽気と比例して家族やカップルが多く見えたが、それは男の子特有の僻みかもしれない。だが制服の自分が車内で浮いている気がするという閉塞感が僻みを加速させたのは間違いない。

そんな車内でも、いつも通りに感じることがある。
ドア付近に立って外を眺めている女の子だ。学校がある日だと同じ時刻の電車によく乗っているので顔はよく知っている。もちろん話すことも無ければ名前もクラスも知らない。同じ学校の制服を着てなければ記憶にも残らないだろう。流石に約1年も一緒の電車に乗っていれば顔ぐらいは覚えるものだが、

だが、今日はいつもとは違う。丁度、車内から桜並木が見えたのだ。外を彩るやや薄めのピンクが視界を埋める。思わず視線を上げたのだが思わず魅了された。
窓の外の桜を眺めにこやかに笑う君。髪を耳にかけたのでイヤホンで何かを聴いているのが分かる。少し頬が赤く見えるのは桜のせいだろうか。
綺麗だった。背景と相まってとても美しく見えたのだ。
その日から女の子に縁遠い自分が彼女を目で追うようになってしまった。
気持ち悪いと思われたくないのでそっと見るだけではあるが、

僕の初恋が始まった。

『春爛漫』

4/10/2023, 11:52:52 PM