回顧録

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3/24/2024, 1:58:35 AM

習慣とは恐ろしいという話をします。

人に寝顔を見られたくない俺は、人前で寝られません。寝落ちてもちょっとの物音で起きてまうし、寝起きドッキリなんかも向いてないです。ドアガチャの音で目が覚めます。

でもあなたは知ってるでしょう。
例外があるということを。
なんてことはありません。若い頃、金もなくて一人一部屋なんて用意されてなかった俺たちはひとつのベッドで寝るしか無かっただけです。
それが毎日続いたので、睡魔に負けて寝るしかなかったからです。それだけです。そりゃ目の前で無防備に気持ちよさそうに寝てるあなたを見たら安心出来るってのもあったんでしょうけど、大した理由じゃありません。ただ、隣があなたやっただけです。他の誰が隣だとしてもいずれは眠れたでしょう。
別に特別じゃない。

でも頭がそれを勘違いして何を思ったのか、寝ているあなたが隣に居ればどんなに眠れない夜も眠れると解釈しはじめて、深酒したあと気ぃついたらおたくの家に居る、みたいなことが頻繁に発生しました。
お前もお前やぞ、アポ無しで来た奴をホイホイと家に入れんなや!ベッドを明け渡すな。じゃ、俺ソファーで寝るわとちゃうねん。お前がおらんと意味ないねん。

「お前の寝顔見に来たんやぞ、俺は」

目の前の顔が驚いたように目を見開く。
モノローグがつい言葉に出てしまった。
出てしまったものは仕方ない、とはいえ恥ずかしいは恥ずかしいので誤魔化すために言葉を連ねる。

「お前の寝顔みたら眠なれんねん。ええからはよ寝るぞ来いや」
「……あんた、寝られへんかったん?やから来たん?」
「そうや言うてるやろ、はよ隣で寝ろや」
「無茶苦茶言いはる……まだ俺は平気なん?」
「おかげで彼女の横でも寝られへんわ。なんでお前隣やってん」
「若い頃の話?そらあんたが俺隣おらんかったら機嫌損ねるからやんか」

今も損ねてはるけどと苦笑するコイツに決まりが悪くなって顔を背けた。

「やから隣に来たやんか、機嫌直してよ」

特別じゃないなんて言っておいて、最初から最後まで全部自分発信だった。こいつが隣にいる理由は俺がそう望んだからだ。

お前だけが特別だった。


『特別な存在』


作者の自我コーナー
いつもの
本当はもっと長かったんですけど、投稿せずに寝落ちしたらデータが飛んでしまって突貫工事で作り上げたものです。
心が折れましたね。3時投稿はやめようと思います。
グレてしまったので全くぼかしていません。

3/22/2024, 5:33:49 PM

なぁ、お前とアイツって付き合ってんの?
肘を付いた親友の突拍子ない一言に、コーラを吹いた。

「っげほっ……いきなりなんやねん!んなわけあるか」
「アイツしか言ってないのに、誰のこと思い出したのかなーゆうくーん?思い浮かんだ相手が君の好きな人でーす」

俺にはニヤニヤしているようにしか見えないが、
女子には王子様スマイルに見えるらしい。
黄色い歓声が聴こえてげんなりする。

「お前らがようしょうもないこと言うからやろが!」
「何の話?」
「俺とヒナが付き合ってるって言うバカみたいな話やんけ。関西人がバカ使うんは相当救えへんバカやぞお前」
「へー、僕ときみくん付き合ってるん?」
「そう、ヒナのこと好きなんだって」
「僕もきみくんのこと好き。付き合えるかは……わからんけど」
「あ、きみくん振られちゃったね、ドンマイ」
「黙れタキ」
「あっ、きみくん傷心中?ヒナ向こう行っとこっか」

ヒナの手を握って瀧が席を立つ。
このウザイやつがアホほどモテるなんて世も末だ。
あぁホンマに世の中って顔が良ければええんやな。

「ヒナだけ置いて、二度と戻ってくんな!」
「2人っきりにさせてあげるから素直になりなよきみくん」
「うるさい喋んな」

大体食堂で2人きりな訳がない。こんなバカみたいなやり取りを他に人がいる時にしたことが今になって後を引いてくる。置いてかれちゃった、と呟いたヒナがさっきタキが座っていた席に着いた。

「俺とヒナが付き合ってるってアホちゃうかアイツ!なんで男友達そういう目で見なアカンねん!」
「タキやって本気で思ってないってそんなこと」
「確かにヒナは女子に間違われるくらい可愛いけど、そういうんとちゃうやん!確かに?天然なとこも助けてやりたくなるけど、それは見てられへんからやし」
「天然ちゃうもん」
「いや天然やわ、男でもんって言うんは天然やわ」

そんなことない、もんと続けそうになってヒナは口を噤んだ。拗ねると口をぷくっと膨らませよる。
そういうとこも天然だ。こういう時はあざといだろって?
アホ言えアホ、あのヒナにそんな計算高いことが出来るわけが無い。
だからこそ幼なじみとして、ヒヤヒヤしているのだ。
さっきのいけ好かない男と違ってヒナは生き物にモテる。
老若男女問わず、種族も問わずモテる。幼い頃、道を歩くだけで両手いっぱいのお菓子をもらい、近所のおばちゃんに気にいられ家に招かれそうになった(俺が阻止した)
ただヒナは動物が苦手で子犬でもビビり、きみくんと目をチワワのようにうるうるさせて俺に助けを求めるのだ。
未だにあの目を超える可愛い目に俺は出会った事がない。

「きみくんだって天然やん……」
「は?どこがやねん」
「きみくんこないだ女の子に告白されてたやろ…?」

うわ、当然のように上目遣い。
そういうことするから男なんかに告白されるんだ。

「ヒナやって後輩に告白されとったやんけ、まゆみくんやったっけ?」
「なんで知ってるん!?見てたん?」
「俺の教室の真下でされたからな、いい度胸しとんでアイツ」

宣戦布告か?お前なんかにヒナは勿体ない。
真っ当に女子と恋愛しやがれ。

「その告白された子、なんて断った?」
「『恋人より友人を優先する男なんて嫌でしょ?俺、ヒナが最優先やねん』」
「なんで?」
「え?」
「なんで僕が最優先なん?」
「そ、そりゃどこで天然やらかすか心配やからな」
「なんで心配なん?別にそれできみくんに迷惑かけてへんよ?」
「俺に迷惑とかはどうでもいい。お前がそれで傷ついたり、泣いたりすんのが嫌やねん。そこに真っ先に駆け付けんのは俺でありたいねん」
「なんで?」
「なんでって……さっきからそればっかやな、何でも知りたがる幼稚園児か」

ヒナの目が真っ直ぐ俺を見つめる。なんで?
なんでやろ、大事やから。いつでもお前が頼るのが俺であってほしいから。
この世で1番可愛い目を俺だけに向けてほしいから。

…………そんな『バカみたい』な話、あったな



作者の自我コーナー
お察しの通り作者は西の生まれなので、バカという言葉に馴染みがなく苦戦しました『アホちゃうか』と同じニュアンスで使ってるんですけど合ってるんでしょうか?
攻めが無自覚にフィルター掛けてるだけで実は攻めよりもしっかりしている受けが好きです。

3/21/2024, 6:29:27 PM

いつも一人だった。人との関わり方が分からなくて。
目つきが悪く口下手だった俺に話しかける奴なんか居なくて。
それでいいと思っていた。音楽があるから孤独じゃない。

――よし、誰もいない。

辺りを見渡し誰も居ないことを確認して音楽室から持ち出したギターを掻き鳴らす。楽譜に起こさないから、二度と歌えないその日限りの俺の歌。

「〜〜♪」

観客の居ないリサイタルを終えると、どこからか拍手が聞こえた。

「自分、歌上手いなぁ!なんて曲なん?」

ぽやぽやと笑いながら話しかけてくる人懐っこい奴。
まん丸い目をした女顔のそいつには見覚えがあった。
転校してきてその日にクラスに馴染んだ
いつも能天気にアホみたいに笑ってる奴。
上級生にもタメ口で接する怖いもの知らず。
俺とは住む世界が違う奴。

「…ない、俺がつくったから」
「そうなん!すごいなぁ」

話しかけられるのが久々で声が上擦る。
いつからお前はここにいる。なんで気づかなかったんだ俺は。

「ぼく音楽苦手やねん。やから羨ましいわぁ!」
「どーも」

話を切り上げたくて単語で言葉を終わらす俺にそいつが笑った。

「なんですか?」
「いや自分コワイって聞いたけど、全然怖ないなぁ」
「はぁ?」
「やって人見知りなだけやろ?友達おらんの」

何コイツ。怖いもんなしどころかデリカシー0やんけ。

「お前に関係ねぇだろうが」
「関係あるよ」

ぼく全校生徒と友達になりたいねん、ニカッと笑ってそいつは言った。

「無理だろ」

友だち百人出来ないことは小学生の頃に知っている。
それなのにこいつはそんな馬鹿げたことを言うのか。

「わからんやん!」
「クラス全員も出来ねえよ」
「出来たやん」
「は?」
「やってもう友達やろ?俺たち」
「なんでやねん」
「あっ、やっぱり関西やったな自分。自己紹介の時に怪しい思っててん。イントネーションがときどき標準語とちゃうから」
「そんなんどうでもいいわ!なんで俺とお前が友だちやねん!」
「やっておたくがこんな喋ってるところ見た事ないで?こんな言い合いできるん友だちやろ〜?」

なんだその理論。ポジティブ過ぎて気が抜ける。

「……それやったら喋った奴みんな友達なんか」
「うん」
「そんな訳ないやろ……」
「でも言葉交わさな友達になれへんで?」
「お前がそう思ってるだけかも知らんやんけ」
「俺がそう思ってたらええやん。相手がどう思ってようが喋ってる事に変わりないやん」
「無茶苦茶や……名前も知らん奴が友達な訳ない」
「天谷君、やろ?自己紹介で言うてたやん」

さっきから自己紹介って言ってるが、俺の自己紹介なんて
『天谷ほくと、帰宅部……よろしく』位だ。
それがこいつの記憶には残ったっていうのか。

「父親が転勤族やからしょっちゅう学校変わるんよぼく。やから初速速するために人の名前1回聞いたら忘れん頭になってもうてん」

未だに担任の名前すら出てこない俺と雲泥の差だ。
こいつもこいつなりに苦労してんねんな。
だからって友達になるつもりはないが。

「よろしくって言ってたやん。やから勝手によろしくさせてもらうで」

よろしくなぁと手を差し出してくる。
その手は掴まずに、勝手にしろと吐き捨てると、
そいつはまん丸い目をにっこりと細めて
「ほな、勝手にさせてもらうわ」と笑った。

その日から俺の『一人ぼっち』の空間にあいつがやって来た。


『二人ぼっち』




作者の自我コーナー
関西弁が書きたかっただけ。
いつもの2人に二人ぼっちが解釈違いすぎたため、いつものじゃないです。めちゃくちゃ難産でした。
天谷くんからすると自分の世界に自分以外の人間が初めて入ってきたから『二人ぼっち』なんですけど、よりにもよって人懐っこい彼が入ってきたせいですぐに二人ぼっちじゃなくなります。その話もいずれ書きたい……。お題次第ですね。

3/20/2024, 5:20:25 PM

眠っているとおい、と名前を呼ばれた。
最近は名字にさん付けというかなり他人行儀な呼び方なのに珍しいこともあるものだと目を開けると逆さまになった黒髪の男が俺の顔を覗き込んでいた。

ここで合点が行く。これは夢だ。
今の彼は髪をキラキラとした金に染めている。
顔も整っているからどこかの王子のようだ。柄は悪いのに。

「なに寝ぼけとんねん」
「ん…?やっぱり黒でもカッコイイなぁ思て」
「いきなりなんやねん!」

彼の顔が一瞬で赤くなる。
夢の中でもこの人はトゥーシャイシャイボーイだ。
これ以上褒めると(イジると?)拗ねてしまうのでいつもならここで留めておくのだが、今回は夢である。
俺の夢、明晰夢。つまり好きにしてもいいのだ。

「金髪もキラキラしてて好きやけど、黒のあんたもええなぁ」

うわ、耳まで真っ赤だ。彼の顔を下から覗き込む。
彼は俯いて手で顔を覆い隠した。
そういう反応するから余計に弄りたくなるのだが。

「あ、茶髪も好きやで?銀も似合ってたな」
「おっ前マジで黙ってくれ……」
「照れんなって〜」

手を退けさせようとしたら、逆に手首を掴まれた。
調子に乗りすぎた?夢の中でもこの力関係は覆せないのか。
ぐいと引っ張られて、すっかり赤みが引いた彼の顔が真正面に来る。この距離平気なの?いつもなら目を逸らすくせに。
夢の中だからか。なら今すぐに醒めてほしい気分だ。
なんせ俺はこの綺麗な顔に弱い。

「おたくはいつまでも、可愛いですね。
……ふ、ははっ、照れんなって〜」

腹の立つドヤ顔。挙句意趣返し。でも何も言い返せない。
いつもと違う距離と言葉にさっきまでの手のひらを返して、もうちょっとこの夢を満喫していたいと思ってしまう。
別に可愛いと言われたかった訳ではないけど、可愛がられていた幼い頃が恋しくなることはある訳で。
懐かしいなぁと同時にもう夢でしか聞けないと思うと、
切なくなった。

「お、おい!なんで泣くねん!泣くなって!」

ぽろぽろと涙を流す俺をおろおろとしながら彼が慰めようとする。情けない声で懐かしい名を呼ぶ彼にまた涙が溢れ出した。

『夢が醒める前に』










蛇足

「おはよぉー、え何この状況」
「分からん、急に泣き出してん……」
「どないしたん?」
「ゆめ、さめんとってほしっ……て」
「夢?なんの事?なんか知ってる横山君」
「知らん。急に俺の事かっこいいって言い出して…」
「えっ、急に惚気て来たこの人」
「ちゃうわ!!」
「あれ、……たつくんめがね、…これゆめ、ちゃうん?」
「夢とちゃうよ。ほっぺたつねってみる?」
「かわいいって、いわれたん現実?」
「そんなんいうたん?……やるやん横山君」
「もう黙っとけ!!」




作者の自我コーナー
いつもの2人。
夢が醒める前に(現実だと気づく前に)
黒髪さんは見た目が全く変わらないので、金から黒にしたことを知らない泣き虫ちゃんが夢だと勘違いした設定です。
泣き虫ちゃんが説明した通りいつもだったら弄り過ぎないところを(夢だと勘違いして)弄りまくったので、黒髪さんがキャパオーバーして吹っ切れてしまった故の意趣返し。

解釈は委ねたいと思っているのですが!でも僕の考えも知ってほしいと思ってしまう複雑な作者心……

3/19/2024, 5:31:20 PM

いつも雛鳥のように俺の後ろを付いて歩いたあの子。
隣できみは凄いなぁと目を輝かせていたあの子。
目が合ってはニコッと笑ってくれるあの子。
俺の事を無条件に信じては、くだらない嘘に引っかかり泣いていたあの子。
かわいいかわいい俺の雛。

幼い頃からの刷り込みのせいで、未だにお前は俺の事を凄いと思っているし、何度裏切っても無条件に俺の事を信じる。
水分量の多い銀河のような瞳から、星屑がキラキラと溢れ落ちてもそれでもお前は従順で。

そんなお前に対して俺は、俺だけがお前を好きに扱える優越感と独占欲にいつの間にか支配されるようになった。
他の人間をお前が賞賛するとドス黒い感情が湧き上がる。
その度に俺はお前に無理難題を突きつけては困らせる。

今だって、困った顔をして、ああ、目が潤んでいる。
泣きそうだな、目が零れてしまいそうだ。
でもお前はきっとーー

『胸が高鳴る』

かわいいかわいい俺だけの雛




作者の自我コーナー
いつもの(定期)

胸が高鳴るって期待や希望で興奮する様子を表す言葉なんですけど、それでこんな仄暗い期待の話を書いた自分に引いています。

彼は自分だけが雛鳥を好き勝手していいと思ってるし、
どこまで自分に従順かを定期的に試していると思います。
それで一線越えちゃってそうですよね。
彼らのことを好きな人間から見ても引くことがある関係性。

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