回顧録

Open App
3/18/2024, 6:26:42 PM

色んなことがあった嬉しいことや辛いこと、しんどいこと。
これまでを振り返れば、ほとんどが後者だった気がする。
夢を叶えられただけで十分と欲のない彼奴なら言いそうだが俺はそうは思えない。その夢だって望んだ形ではなかった。
何かを切り捨てなきゃダメなら俺は、叶わなくなって良かったんだ。

この世界に身を置いている立場で言えることではないが。

何度も辞めることが頭をよぎった。
もしあそこで働いていたら、あの時あの子と結婚していたら。ーーこの世界から身を引いていれば。
大それた夢なんてなくたって、それなりに幸せに暮らせていただろう。

でもその度に俺は彼奴を思い出す。
決して弱音を吐かずに、俺たちに発破をかける彼奴。
でも2人になると一緒に愚痴を吐いて、最後には必ず「大きくなってアイツら見返してやろう」と誓った日の彼奴。
涙を流さなくなった彼奴。
共に泥水を啜ってきた、俺の……なんやろうな、相方になるのか?
最早長い間一緒に居すぎて言葉では表せない。そんな奴。

俺がその手を離してしまうと、きっと彼奴は俺を責めることなくそれを受け入れてしまう。
それがどうしようもなく癇に障るから、
俺はこの不条理な世界を選んでしまうのだ。

幸せなんかより、お前を。

『不条理』


作者の自我コーナー
いつもの2人。お前と書いて不条理と読みます。
相手のことなんて気にしませんみたいなスタンスのくせに、相手に気にされなかったら切れるのもなかなかに不条理(理不尽)だと思います。
でもその相方さんもそんな理不尽な方を選ぶんだろうなぁ。

3/17/2024, 6:08:24 PM

彼と俺は正反対らしい。自覚はないけれども。
繊細な彼、ガサツな俺。
インドアな彼、アウトドアな俺。
人見知りでシャイな彼、物怖じせずに誰とでも話せる俺。
泣かない彼と泣き虫な俺。

今はもうお互い大分と涙腺が緩くなって、ベタに家族とかスポーツのドキュメントとかで感動してしまうけど。

「二人って泣く場所も真逆やん!おもろ」

人にそう言われたことがある。確かに、言われてみれば。
単純に琴線が彼と俺は違うということもあるのだと思う。
俺が泣いた時、そんなぶっさいくな顔で泣かれたら、泣くに泣けないと呆れながら慰めてくれていたことを思い出す。
あの頃の俺は自分のことしか見えてなくて、
辛いしんどい苦しいとよく泣いていた。
そんな俺を受け止めてくれていた彼が俺にはお兄さんのように見えていた。今では俺もすっかり可愛げのない同い年のおっさんになってしまったが。
それはつまりあの頃の彼だって同じように泣きたかったことがあったということだ。俺ほど泣き虫で腐ってはいなかったと思うが。彼にだって零したかった弱音があったはずなのだ。俺が泣いていたせいでそれを飲み込むしかなかったが。

だから罪滅ぼしという訳でもないが俺が泣いてしまった分、彼にはいっぱい泣いてほしい。
『ええかっこしい』だから素直に泣いてくれないだろうけど泣くに泣けない状況にはならないと思うので、俺はもう

『泣かないよ』


作者の自我コーナー
またもやモデルがいる話。
多分これからもですが連動してます。
時々出てくる方言の匂わせは多目に見てください。
正反対でお互いの背中を預けていても、進む方向は同じ二人が好きです。

3/16/2024, 4:15:55 PM

夜になると寂しがりで怖がりな君は枕を持って
ひとりじゃねれない、って僕の部屋を訪ねてくる。
可愛い妹が自分を頼ってくれることが嬉しかったけど
仕方ないなって顔して、僕は彼女を布団に招いた。
背中をとんとんとたたいてやっていると、
穏やかな寝息が聞こえてくる。僕だけの時間だった。

君は今日も変わらずに、
『お兄ちゃんと一緒じゃなきゃ眠れない』
と言って、ベッドに潜り込んでくる。
本当はもうひとりで眠れるのに、
まったく甘え上手な、妹だ。

かわいい、いもうと。
そんな君に触れるのが、俺はとても、こわい。

『怖がり』



作者の自我コーナー
僕と俺を使い分ける人が好きです。
助詞とか句読点の位置にかなりこだわりがあります。

3/15/2024, 3:34:28 PM

その瞳が好きだった。
真昼の木漏れ日、練習場の切れかかった蛍光灯、
帰りに寄った公園の街灯、カーテンから差し込む朝日。
僅かな光を反射してキラキラと輝く小さな宇宙。

まっさらなシーツを纏って、
声変わりしたばかりの掠れた声で不安げに俺の名前を呼ぶ。

きっと、あいつから見て世界はとても綺麗なんだろう。
たとえそれが仮初だったとしても、俺は守りたかった。
無菌室に閉じ込めてでも俺はあいつを大事にしたかった。

でもあいつは俺に守られてはくれなかった。
ぽろぽろと涙を流しながら、強くなった。

もうあいつは泣かない。

涙腺なんてもう枯れてしまった、と
あいつが煙草でガサガサになった声で笑った。

力強い真っ黒な目はただ現実を見据えていた。

『星が溢れる』



作者の自我コーナー
お察しの通りモデルが居ます
この二人の言葉では言い表せない強い関係性が好きです