回顧録

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いつも一人だった。人との関わり方が分からなくて。
目つきが悪く口下手だった俺に話しかける奴なんか居なくて。
それでいいと思っていた。音楽があるから孤独じゃない。

――よし、誰もいない。

辺りを見渡し誰も居ないことを確認して音楽室から持ち出したギターを掻き鳴らす。楽譜に起こさないから、二度と歌えないその日限りの俺の歌。

「〜〜♪」

観客の居ないリサイタルを終えると、どこからか拍手が聞こえた。

「自分、歌上手いなぁ!なんて曲なん?」

ぽやぽやと笑いながら話しかけてくる人懐っこい奴。
まん丸い目をした女顔のそいつには見覚えがあった。
転校してきてその日にクラスに馴染んだ
いつも能天気にアホみたいに笑ってる奴。
上級生にもタメ口で接する怖いもの知らず。
俺とは住む世界が違う奴。

「…ない、俺がつくったから」
「そうなん!すごいなぁ」

話しかけられるのが久々で声が上擦る。
いつからお前はここにいる。なんで気づかなかったんだ俺は。

「ぼく音楽苦手やねん。やから羨ましいわぁ!」
「どーも」

話を切り上げたくて単語で言葉を終わらす俺にそいつが笑った。

「なんですか?」
「いや自分コワイって聞いたけど、全然怖ないなぁ」
「はぁ?」
「やって人見知りなだけやろ?友達おらんの」

何コイツ。怖いもんなしどころかデリカシー0やんけ。

「お前に関係ねぇだろうが」
「関係あるよ」

ぼく全校生徒と友達になりたいねん、ニカッと笑ってそいつは言った。

「無理だろ」

友だち百人出来ないことは小学生の頃に知っている。
それなのにこいつはそんな馬鹿げたことを言うのか。

「わからんやん!」
「クラス全員も出来ねえよ」
「出来たやん」
「は?」
「やってもう友達やろ?俺たち」
「なんでやねん」
「あっ、やっぱり関西やったな自分。自己紹介の時に怪しい思っててん。イントネーションがときどき標準語とちゃうから」
「そんなんどうでもいいわ!なんで俺とお前が友だちやねん!」
「やっておたくがこんな喋ってるところ見た事ないで?こんな言い合いできるん友だちやろ〜?」

なんだその理論。ポジティブ過ぎて気が抜ける。

「……それやったら喋った奴みんな友達なんか」
「うん」
「そんな訳ないやろ……」
「でも言葉交わさな友達になれへんで?」
「お前がそう思ってるだけかも知らんやんけ」
「俺がそう思ってたらええやん。相手がどう思ってようが喋ってる事に変わりないやん」
「無茶苦茶や……名前も知らん奴が友達な訳ない」
「天谷君、やろ?自己紹介で言うてたやん」

さっきから自己紹介って言ってるが、俺の自己紹介なんて
『天谷ほくと、帰宅部……よろしく』位だ。
それがこいつの記憶には残ったっていうのか。

「父親が転勤族やからしょっちゅう学校変わるんよぼく。やから初速速するために人の名前1回聞いたら忘れん頭になってもうてん」

未だに担任の名前すら出てこない俺と雲泥の差だ。
こいつもこいつなりに苦労してんねんな。
だからって友達になるつもりはないが。

「よろしくって言ってたやん。やから勝手によろしくさせてもらうで」

よろしくなぁと手を差し出してくる。
その手は掴まずに、勝手にしろと吐き捨てると、
そいつはまん丸い目をにっこりと細めて
「ほな、勝手にさせてもらうわ」と笑った。

その日から俺の『一人ぼっち』の空間にあいつがやって来た。


『二人ぼっち』




作者の自我コーナー
関西弁が書きたかっただけ。
いつもの2人に二人ぼっちが解釈違いすぎたため、いつものじゃないです。めちゃくちゃ難産でした。
天谷くんからすると自分の世界に自分以外の人間が初めて入ってきたから『二人ぼっち』なんですけど、よりにもよって人懐っこい彼が入ってきたせいですぐに二人ぼっちじゃなくなります。その話もいずれ書きたい……。お題次第ですね。

3/21/2024, 6:29:27 PM