彼の左胸で輝く金色の輝きに至るまでの過程を想像したら、自然と涙が溢れた。
もう消えないであろう頬の傷、あの時よりも引き締まった身体、迷いのない強い眼差し。
彼らの元を離れざるを得なくなって、どれだけの月日が経ったかわからない。
本当はずっと還りたかった。
どこを旅してもずっと彼らとの思い出がずっと付き纏って離れなかった。
『俺の命が続く限り、もう貴女には冬眠も家出も脱退もさせません』
『914に帰ってきてください』
『あわよくば、俺の側にいてください』
『貴女の残りの人生を、俺にください』
やっと迎えに来てくれた。
───ここがわたしの、終着駅なのかもしれない。
理屈じゃうまくいかないこともあるのは
重々わかっていたけれど。
強者の前ではどうにもならなかった。
それどころか後半は何も指揮できなかった…不甲斐ない。
『mirinが呼んでくれたから助けに来たのです』
とPoは言っていたし、
結果、彼のおかげで実験要塞はJPFで占拠できた。
同盟本部の夜風が吹く屋上でモヤモヤする頭を冷やしていると、背後からほろ苦い煙草の匂いがして振り返った。
「眠れませんか」
ゆらゆらとチャコールグレーのポニーテールと紫煙を揺らして、やや指揮官服を着崩した盟主の姿がそこにあった。
「……占拠できて嬉しいのに、ちゃんと指揮、できなかったんで………感情ぐちゃぐちゃというか…」
「おや」
この終末でもきちんと整えられた顎鬚に触れながら、彼は言った。
「Poを呼んできたのはみりんさんのお手柄ですよ。あのじゃじゃ馬を手懐けた。彼も言っていましたね。“mirinに呼ばれたから助けに来た”、“mirinのためならいつでも助けに来る”、と」
「…っ…」
不意に骨張った手が頭の上に乗り、ぽんぽん、と子をあやすように撫ぜられた。
「大丈夫ですよ。伸び代は大きければ大きいほどいい」
彼が燻らせる紫煙が、人工で作られたホログラムの星空にすうっと消えていく。
無茶振りしてきた割りにミスってもフォローしてくれるなんて、ずるすぎる。
「言ったでしょう。首都で貴女を拾ってから、ずっと期待している、と」
「もう…あの人絶対鬼だよ〜!!」
ブリーフィングルームのデスクに突っ伏して、ブーブーと文句を垂れる同僚は13歳も年下の女の子。
「こないだオアシスの指揮やったばっかりで…今度は要塞……」
「…“家出”の代償かもしれませんね」
と揶揄うように言うと、机に押し付けたままの額をこちらに向けて、あからさまに嫌な顔をする。
重力に従って、むに、と押し付けられたほっぺが拗ねた顔にマッチして可愛らしいだなんて(セクハラだ、と言われそうで)死んでも言えないけど。
「……これが私なりの『蝶よ花よ』、なんですけどね」
「へっ、あっ、ご、GONさん?!」
ほろ苦い珈琲豆の匂いをさせながら背後から現れた長髪の盟主の声に、飛び上がるくらいの勢いで彼女が起き上がった。
かと思えば髪を整えてみたり、顔を真っ赤にして不自然な咳払いをしてみたり。忙しいな。
「期待してますよ」
と、切れ長のダークグレーの目を細めて彼女に笑いかければ、ほら単純。
「…が、がんばり、ます」
って、合わせられない視線のままはにかむから。
(だからほっとけないんだろうなぁ…)
あの時、アンデッドにならなかったのは。
何か大切なことがあるたびに雷雨に見舞われていたのは。
太陽に嫌われていたからではなく、
この力のためだったのかもしれない。
コントロールできない怒りに
身体の奥底から湧き上がる雷の息吹。
故郷の海の色のような光を宿した眼。
最初からこうなるって、決まっていたのだ。
決して日に焼けない白い肌も、風に揺れるホワイトブロンドの短い髪も、宝石のように澄んだヘーゼル色の眼も、その全てがこの終末の世界を照らすように輝きを放っている。
この娘が共に戦う仲間になってしばらくして、かの有名な歌姫だったと聞かされて合点がいった。
そりゃ、オーラが違うわけだ。
俺には眩しすぎるな、なんて目をそらそうとしたところでずっと輝き続けるもんだから、うちの盟主が放っておけないのは仕方ないことなんだろうな。
と快晴の空の下、荒野で自転車を漕いだ。