たーくん。

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7/11/2025, 10:56:22 PM

扉を開けた先に広がる、美しい花畑。
私の心の中にある場所だ。
心だけ逃避行したい時は、ここへ来ている。
今日は仕事でミスをして、課長に呼ばれ、注意されて怒られている最中に花畑へ逃げ込んだ。
今は夏だからか、花畑にはひまわりが沢山咲いている。
私は麦わら帽子を被り、ひまわり畑に向かって走っていると、空から声が聞こえてきた。
「鈴木、聞いてるのか?黙ってないで何か言ったらどうだ?」
鬱陶しい課長の声だ。
私は現在逃避行中だから、無視無視。
ひまわりは私の背より高くて、私の弱い心に負けないぐらい力強く咲いていて……。
「そういう態度をとるなら、こちらも色々と考えないといけないな」
外の世界では、なにか大変なことが起きようとしている。
麦わら帽子を投げ捨て、急いで外の世界へ戻った。
「すいません課長!次から気をつけます!」
戻ると同時に頭を下げて、課長に謝る。
「君はたまにふわふわしている時がある。人前でそういう態度をしないよう、気をつけなさい」
「はい、分かりました」
「分かればいいんだ」
なんとか、大事にならずに済んだ。
さて、席に戻ったら逃避行の続きをしよう。
課長の席から離れ、自分の席へ向かった。
「鈴木!別件でもミスしたのか!戻ってきなさい!」
一度あることは二度ある。
いや、これで何度目だろうか。
「はい……」
私は回れ右をし、再び課長の席へ向かう。
課長の顔と声を見るのも聞くのも嫌だから、逃避行してきまーす。

7/10/2025, 10:19:34 PM

昼休みになると同時に、腹ペコ生徒が集まる学校の食堂。
今日はいつもの日替わり定食にしようと思ったが、たまには冒険するのもいいだろう。
パン売り場へ行き、“今日のパン“は何を覗く。
今日のパンとは、余った食材とパンを組み合わせて作られた、食堂のおばちゃん手作りのパンだ。
だが、噂ではめちゃくちゃ不味いらしい。
まぁ、冒険するにはもってこいのパンだろう。
今日のパンは、見た目は揚げパンで少し大きい。
俺は一つ購入し、空いてる席に座り、早速袋を開けて一口食べる。
「う“っ“!」
思わず変な声が出てしまう。
噛んだ瞬間、じゅわっと何かが溢れ、一瞬で口の中が洪水になる。
なんだ……これは……。
「聞いたか?今日のパン。揚げナスパンだってよ」
「聞いた聞いた。パンに揚げナスを包んで、更に揚げたパンだってな。油まみれで食べれたもんじゃないよな」
「揚げただけに、上げ上げ~なんてな」
背後で男子生徒達が笑いながら通過した。
……どうりで、口の中が洪水な訳だ。
吐き出したいところだが、食堂のおばちゃんに失礼なので吐き出せない。
「くっ……うっ!」
気合いで、なんとか飲み込む。
手には、まだ揚げナスパンが残っている。
……いけるのか、俺。
深呼吸をしてから、一気に揚げナスパンを食べていく。
なんとか完食し、俺の冒険は終わった。
この後、授業中に胃もたれしたのは、言うまでもない。

7/9/2025, 10:25:53 PM

人で溢れている放課後の下駄箱。
皆が帰る中、私は隠れて、一人の男子が来るのを待っていた。
「あっ……」
来た。隣のクラスの山下君。
山下君は自分の下駄箱に近づき、蓋を開けた。
中に入ってる物に気づいたのか、驚いた表情をしている。
入っていた物を取り出す山下君。
私は、山下君の下駄箱にラブレターを入れたのだ。
だからこうして、隠れて山下君の反応を見ている。
……あれ?山下君が持っているラブレターの封筒の色が違う。
私はピンクの封筒に入れたはず。
山下君が手に持ってるのは、緑。
もしかして、私の他に誰かラブレターを入れたのだろうか?
山下君は緑の封筒を開けて、中に入っていた手紙を広げて読んでいる。
しばらくして、読み終えたのか、溜め息をつく山下君。
手紙を封筒に入れ、鞄に入れた。
今更だけど、隠れてじーっと山下君を観察している私は不審者だと思う。
でも、やっぱり気になるじゃん?女の子だもん。
山下君は、私が入れたピンクの封筒を取り出し、中に入っていた手紙を広げて読み始めた。
どんな反応をするのか、すごくドキドキする。
私の想い……届いて……。
だけど、山下君はさっきと同じように、ふう……と溜め息をついて、手紙を鞄に入れた。
そして下駄箱から靴を取り出し、履き替えて何事もなかったかのように帰っていく。
……多分、あの反応だと、駄目だったかもしれない。
力が抜けて、その場に座り込む。
フラれたよね……私。
立ち上がるのに時間が掛かったけど、なんとか自分の足で家に帰った。

次の日の朝、下駄箱を開けると、中に小さい封筒が入っていた。
中には手紙が入っていて、内容は……。
“手紙ありがとう。こんな俺でよかったら、付き合ってほしい。山下より“
「う、うそ……」
力が抜けて、思わずその場に座り込んでしまう。
私の想いが……山下君に届いていた。

7/8/2025, 11:20:48 PM

星空の下で賑わっているお祭り会場。
夜店が沢山出ていて、大勢の人が歩いている。
あの日の景色を見たのは、これで何度目だろうか。
あとは、あいつをここに呼び出すだけだ。
ノートパソコンを開き、あいつのデータをここへ転送する。
10%……30%……50%……70%……90%……96%……。
96%で、止まってしまった。
エラーが発生し、パソコンの画面が消える。
お祭り会場も、夜店も、人も、次々と消えていく。
最終的に、僕一人だけになってしまった。
やはり、あの日を再現するのは不可能か。
恋人だったあいつは、あの日、僕と一緒に地元のお祭りに来ていた。
当時の僕はお祭りには興味なく、素っ気なかったと思う。
それでもあいつは、楽しそうにニコニコ笑っていた。
僕達はお祭り会場で現地解散し、あいつは帰り道の途中で事故に遭って……死んだ。
もし、僕があいつを家まで送っていたら、事故に遭わずに済んだのだろうか?
……それ以前に、素っ気ない態度でお祭りを回ったことが僕との最後の思い出だなんて、最悪過ぎる。
だから僕は、あの日を再現してやり直そうと思った。そして、謝ろうと思った。
「ふう……」
大きく溜め息をつく。
またデータが壊れてしまったから、1からやり直しだ。
VRゴーグルを外し、現実へ戻る。
僕のやっていることは、ただの自己満足なのか、罪滅ぼしなのか、まだ分からない。
あいつと再びお祭り会場へ行くために、ノートパソコンを開き、作業を始めた。

7/7/2025, 10:20:49 PM

笹に吊るされた色とりどりの短冊。
風に揺られて、ひらひらしている。
今日は、近くの神社で七夕祭りをしていたので来てみた。
家族連れや若者達でいっぱいだ。
まぁ、俺もまだ若者だけども。
皆は短冊に願い事を書いて吊るしているけど、星達は織姫と彦星の再会を祝うのに精一杯で、願い事を叶える暇はないと思う。
と言いつつ、俺も短冊に願い事を書いていた。
“いいことがありますように“
我ながらシンプルな願い事だ。
まっ、これぐらいがちょうどいいと思う。
今年中に叶ってくれたら、それでいいさ。
人が増えてきたので、神社から出て帰路に着く。
「あっ」
空を見上げると、流れ星が夜空を駆けていた。

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