真っ直ぐに引かれた真っ赤な線。
これは、私の心の境界線だ。
心を許した者にしか、この境界線を越えられない。
今まで何人か越えてこようと近づいてきたけど、下心ある人や信用出来ない人ばかりで、すぐに追い出している。
いつになったら、境界線を越える人が現れるのだろう?
「理想が高過ぎるのよ。あんたは」
お母さんが呆れた声で言った。
理想が高過ぎる……確かに、そうかもしれない。
私は気がつけばもう三十路。
結婚して、お母さんとお父さんに孫の顔を見せてあげたい。
もう一度、チャレンジしてみるか。
スマホを手に取り、マッチングアプリを起動した。
人通りが少ない道に落ちていた透明な羽根。
足跡のように、点々と落ちていた。
落ちている羽根を辿り、進んでいく。
行き着いた先にいたのは、泣いている天使。
「どうしたの?」と訪ねると、天使は肩を震わせながら「神様に捨てられて、帰りたくても飛べなくなっちゃった」と言う。
僕以外にも、地上に捨てられた天使がいたのか。
悲しい気持ちになったけど、次第に嬉しい気持ちが沸き上がってくる。
だって、仲間が出来たから。
「大丈夫。僕も、神様に捨てられたから。君は一人じゃないよ」
「う、うん……ありがと……」
天使が泣くたびに、白い羽根が抜け、透明な羽根になって落ちる。
僕は、励ますように天使の頭を撫でた。
暗い地下で静かに燃える小さな火。
寒さを和らげるため、その辺に転がっている物で、なんとか火を点けることが出来た。
俺含め、地下へ逃げて来た人達は、小さな火の周りに集まる。
地下がこんなに寒いとは思わなかった。
なぜ俺達は地下へ逃げてきたかというと、宇宙人が攻めてきたからだ。
……冗談ではない、本当だ。
自衛隊も他国の軍も全く歯が立たないくらい宇宙人は強かった。
地上はもう逃げ場がない。
だから地下へ逃げ込んだ。
でも、ここも時間の問題かもしれない。
宇宙人達は俺達を探して……。
ぽつ……ぽつ……。
天井から、水が垂れ落ちている。
なんか……油臭いような……。
油……?ま、まずい、今すぐここから離れ──。
油に小さな火が引火して、目の前が一瞬で炎の海になった。
家の中まで侵入してきた冷たい空気。
ようやく重い腰を上げて、夏布団から冬布団に変えることにした。
めんどくさいからといって、このまま夏布団で寝てたら風邪ひくからな……。
押し入れを開け、分厚い冬布団を取り出す。
使う前に干して叩いたほうがいいな、これ。
冬布団を取り出したあと、夏布団を押し入れに入れる。
よし、これで今日の夜から温かい布団で寝れるぞ。
あっ、折角だから、衣替えもやっておくか。
まだギリ夏服でいけるが、そろそろ限界だ。
えーと……冬服は確か……押し入れの……。
夏布団を置いた下の収納ケースに入っている。
しかも上からじゃないと開かないタイプ。
今、夏布団を乗せたばかりなのに……。
再び夏布団を取り出さないといけなくなり、二度手間になってしまった。
疲れたから冬布団を干すのは、あとでやろっと。
その後、干すのを忘れたのは言うまでもない。
突然降り出した、大粒の雨。
今日は曇りで、雨が降るとは天気予報で言ってなかったのに。
しかも下校する時に降るなんて、最悪。
皆は傘を持っていて、次々と出ていく。
私は傘を持っていないから、止むまで下駄箱近くで待っていよう。
「田中じゃん、なにしてんだ?」
帰っていく皆の後ろ姿を眺めていると、同じクラスの上田君が話しかけてきた。
最近、気になっている男子だ。
左手には鞄、右手には傘を持っている。
「傘忘れちゃってさ……止むまで待ってるの」
「予報では夜まで降るらしいから、しばらく止まないぞ」
「えっ、じゃあ濡れて帰るしかないかぁ……」
まぁ、走って帰れば10分で帰れるだろう。
ずぶ濡れになるけど、お風呂に入ればいっか。
「だったら一緒に帰ろうぜ。俺の傘に入れてやるよ」
「……へ?」
思わず、思考が停止する。
今、なんて?
「一緒に帰ろうって言ったんだよ。帰り道同じだし、田中の家の前通るし、ちょうどいいだろ?」
「う、うん。それはそうだけど……」
そういえば、何度か上田君と一緒に同じ道を通って帰ってたっけ。
一緒にというか、少し離れた距離で歩いていたけど。
「じゃあ行くぞ」
上田君は外へ出て、傘をさした。
「ま、待ってよー!」
慌てて上田君を追いかけ、傘の中に入った。
気になっている男子と、傘の中で二人きり。
これ、相合い傘じゃ……。
意識し出したら、ドキドキしてしまう。
傘を忘れてきて、正解だったかも。
「ん?どうした?ニヤニヤして」
「ううん。なんでもないよっ」
このまま、時を止めてしまいたい。
だけど、幸せの時間は早く過ぎる。
だから、出来るだけ家までゆっくりと歩き、幸せの時間を引き延ばした。