たーくん。

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人でぎゅうぎゅう詰めの朝の満員電車。
私は出入口の扉近くの壁にもたれて、スマホをいじっていた。
車内放送が流れ、もうすぐ駅に到着する。
「車内揺れますので、ご注意下さい」
車掌さんのアナウンスからしばらくして、電車は左右に揺れる。
何人か足に力を入れて揺れを耐えてる人や、バランスを崩す人がいた。
「おっとっとっ!」
前から、男の人が私に向かって倒れてきた。
「きゃっ!」
当たると思い、目をつぶったが何の衝撃もない。
恐る恐る目を開けると、目の前に男の人がいて、両手を壁に付きながら私を見下ろしている。
「大丈夫?」
ドックン……。
心臓が、大きく跳ねる。
同時に心臓の鼓動が早くなり、熱くなっていく。
男の人はすごくかっこよくて……優しい目をしていた。
「えっと……大丈夫?」
男の人にもう一度問われ、我に返る。
「は、はい。大丈夫です」
「よかった。ごめんよ、バランス崩しちゃってさ」
男の人が喋るたびに、心臓の鼓動が加速していく。
これは……多分、私は目の前にいる男の人に恋をしている。
もっと、お近づきになりたい。
「──駅ぃ、──駅ぃ」
駅の到着を知らせる車掌アナウンス。
電車は止まり、扉が開く。
「おっと、降りなきゃ」
男の人は壁から両手を離し、電車を降りていった。
「あっ……」
私はこの駅では降りない。
扉が閉まり、再び電車は走り出す。
扉の窓から外を見ると、さっきの男の人が駅のホームを歩いていた。
また、会えるだろうか?
この時間帯の電車に乗れば、再び会えるかもしれない。
今度見掛けたら、次は私から声を掛けてみよう。
まだ止まらない心臓の鼓動を感じながら、離れていく駅をずっと見ていた。

7/30/2025, 10:14:21 PM