秒針と黒板に書くチョークの音が響く教室。
俺は今、最高に腹の調子が悪く、トイレにすごく行きたい。
だが、授業中に行くと目立ってしまうので行けずにいた。
授業終了まで、あと二十五分。
我慢出来るのか……俺……。
黒板に書くチョークの音が腹に響いて、その振動で腹の中は大波で荒れている。
「山下君、顔がグニャってるけど大丈夫?先生に言おうか?」
隣の席に座っている真面目な田中が、俺を心配して声を掛けてくれた。
有難いが……先生に言われるのはまずい。
「だ、大丈夫だ……この顔は生まれつきだ……」
「そ、そっか」
田中は納得していないようだが、なんとか先生に言われずに済んだ。
授業終了まで、あと二十分……二十分!?
まだ五分しか経ってないのかよ!
なんでこんな時に限って時間が進むのが遅いんだ!
神様のバカ!早く時間を進めろ!
神様をバカにした罰が当たったのか、腹の中が更に大波で荒れる。
くっ!もはやここまでか……。
もう我慢の限界だ。
先生に言って、トイレに行こう。
息を大きく吸い込み、先生を呼ぶ。
「せ──」
「先生!」
俺が先生を呼ぶ前に、誰かが先に先生を呼んだ。
「なんだ?鈴木」
「トイレ行ってきていいですか?我慢出来なくて……」
「分かった。行きなさい」
鈴木は席を立ち、尻を押さえながら教室を出てトイレに行った。
「尻押さえながら行ったから、大きいほうだな」
「まさか漏らしてないよね?」
「お~臭い臭い」
周りから小声で話しているのが聞こえてきた。
くそ……鈴木め……なんてタイミングでトイレに行ったんだ……。
おかげで俺は行くタイミングを逃してしまったじゃないか!
俺まで行ったら、連れウンって噂されてしまう。
授業終了まで、あと十五分。
分かったよ。こうなったら我慢してやるよ。
命をかけて、我慢してみせるさ……へっへっへっ……。
「山下君、顔をグニャりながら笑ってて怖いよ?」
再び田中が俺に声を掛けてきた。
「あん?」
「な、なんでもないです……」
俺の威嚇に、田中はすぐに退散した。
しばらくして、鈴木がスッキリした顔で戻ってきた姿を見たら、怒りで更に腹の中は荒れる。
授業終了まで、あと八分……。
時計とにらめっこしながら、チャイムが鳴るのを待ち続けた。
五分……二分……一分……!
キーン、コーン、カーン、コーン。
教室内に、念願のチャイムが鳴り響く。
「もう我慢出来ねぇよ!ボケェ!」
俺はチャイムが鳴ると同時に、教室を出てトイレへ向かって走る。
こんなことなら、もっと早く先生に言えばよかった。
タイミングは逃してからじゃ遅い、もっと早めに行動することが大事だ。
7/29/2025, 10:28:06 PM