ピンク色に染まった空。
どうやら、空は誰かに恋をしたらしい。
他の皆は気づいていないのか、異常気象だと騒いでいる。
皆から注目を浴びた空は照れてしまい、雲に隠れてしまった。
数日後、空は変わらずピンク色。
気象庁の発表によると、空がピンク色なのは、太陽からの熱い眼差しが原因だという。
なるほど、空って見つめられるのが弱いんだ。
だけど、空と太陽は距離が離れすぎているどころか、接することすら出来ない。
決して恋が実ることはないだろう。
でも、私は応援していきたい。
今日も、空を見上げる。
空と太陽の恋の行方を、毎日見守ることにした。
ギラギラの太陽を浴びて、まるで砂漠のような砂浜。
波はそんなことお構いなく、砂浜を来たり引いたりを繰り返している。
海へ来れば涼しい気分になると思ったけど、どうしても暑いが勝ってしまう。
目を瞑り、波音に耳を澄ます。
心地良くて、心が落ち着く。
だいぶ癒されて──。
ブン!ブン!ブウウウン!ブウウウン!
……なんだこのやかましい音は。
目を開けると、水上バイクが水しぶきを上げながら海の上を走っていた。
すごいスピードで、ぴょんぴょん跳ねている。
まるで草原を駆け回るうさぎだ。
折角の波音が台無しになり、水上バイクのエンジン音しか聞こえない。
壮大にひっくり返って恥をかけばいいのに。
願いが届いたのか、水上バイクは転倒し、乗っていた人は必死にバイクを掴んで再び乗ろうとしている。
調子に乗って走ってるからそうなるんだ。ざまぁみろ。
気分がスカッとしたので、回れ右をし、帰路に着いた。
学校へ続く見晴らしのいい一本道の通学路。
歩いていると、青い風が横切った。
「里美!忘れ物!」
私の目の前に現れたのは、青いエプロンを着たママ。
ママが私に差し出したのは、ランチトート。
どうやら、家を出る時に忘れてきてしまったらしい。
「ありがとうママ」
ママからランチトートを受け取る。
ママは元陸上選手で、オリンピックに出たことがあるらしい。
青いユニフォームを着ていて、すごく足が速かったから青い風と呼ばれていたそうだ。
ママは走るのが速いのに、娘の私は逆に遅い。
どうして私はママの遺伝子を継がなかったのだろう?
神様は意地悪だ。
「それじゃ里美、気をつけてね」
ママは家へ戻らず、そのまま真っ直ぐ進んでいく。
「ママ!どこ行くのー!」
「このままランニングしてくるー!久しぶりに走ったら燃えてきちゃった!」
前を向いて走りながら、私に手を振るママ。
あっという間に姿が見えなくなる。
青い風は、まだまだ現役だった。
夕陽を浴びて色んな影が出来ている通勤路。
遠くでは、電車が走っている。
俺も電車に乗って、遠くへ行きたい。
知らない町、知らない場所へ。
休みの日に行こうと思うのだが、当日になると身体が重くて、結局家でだらだらして休みが終わる。
これを何度繰り返したことか。
こんなことでは駄目だということは分かっている。
だけど、身体が言うことを聞かなくてな……。
残業という呪縛を解かない限り、身体が軽くなることはないだろう。
今日は定時日だったから、少しだけ身体が軽い。
……遠回りして商店街へ行ってみるか。
すごく遠い所へ行くより、少し遠い所ぐらいがちょうどいいかもしれない。
俺は足取りを軽くして、商店街へ向かった。
透き通っていて、思わず見入ってしまうほど美しいクリスタル。
このクリスタルがあれば、色んな願いが叶い、病気をせず健康になり、金運や恋愛運など全ての運が上がるらしい。
「今ならなんと!五十万円のところを一万円で売っちゃうよ!さぁ!買った買った!」
レジャーシートの上で、大量のクリスタルを販売しているハチマキを巻いたおじさん。
今の時代では珍しい売り方だ。
買おうか悩んでいる間にクリスタルは次々と売れていき、残り一個になった。
「お嬢さん、買わないのかい?」
クリスタルとにらめっこしていると、おじさんに声をかけられる。
こういう時は思い切りが大事だよね。
「か、買います!」
「まいどあり!」
おじさんに一万円を渡し、最後のクリスタルを受け取った。
帰宅途中、本当に買ってよかったのか……少し後悔する。
五十万円のクリスタルが一万円で売られてたし、安物に色んな効果を持っているとは思えない。
でも、買ってしまったものは仕方がないから、棚の上に飾ってオブジェにしよう。
気を取り直して家へ帰っていると、前から車がすごいスピードでこっちへ走ってきた。
車は止まらず、だんだん迫ってくる。
住宅街で逃げ場がなく、目の前まで迫ってきた。
クリスタルを買わずに帰っていれば、多分こんな目にはあわなかったと思う。
車は、止まらない。
もう駄目だ……と思った瞬間、持っていたクリスタルが激しく輝き、目の前が光で見えなくなる。
しばらくすると光が収まっていき、車は私にじゃなく、壁に激突していた。
どうやら、私は助かったらしい。
地面には、私が持っていたクリスタルが粉々になって落ちていた。
「は……ははは……」
突然の出来事に腰を抜かして、地面に座り込む。
半信半疑だったけど、安物のクリスタルには……ちゃんと効果があった。