ムワァっとして蒸し暑い自分の部屋。
まさかエアコンが故障するとはな……。
修理を頼んだが予約がいっぱいらしく、一週間後になると言われた。
直るまで頑張って暑い日々を乗り越えなければ……。
とりあえず、窓を全て全開にした。
扇風機を回すが、生温い風しか飛んでこない。
「げほっ!げほっ!」
蚊除けに火を点けていた蚊取り線香の煙も一緒に飛んできて、むせてしまう。
首に巻いているタオルは汗が染み込み、汗臭い。
麦茶を沢山飲んでるから、口の中は麦畑だ。
生温い風の匂い、蚊取り線香の匂い、汗の匂い、麦の匂い。
まさに、ザ・夏の匂いって感じだな。
なんとか三日は耐えた。
残り四日もこの調子で頑張るぞ……。
扇風機に当たっていると、インターホンが鳴る。
「……はーい!」
立ち上がった瞬間、目の前が歪み、そのまま真っ暗になった。
目を覚ますと、知らない天井と目が合う。
「目が覚めたかい?」
白衣を着た男性が、俺を見下ろしながら言った。
「あの……ここは……」
「君は熱中症で倒れたんだ。君が住んでるマンションの大家さんから連絡を受けて、病院に運ばれたのさ」
「な、なるほど……」
エアコンなしで蒸し暑い部屋に居たから、熱中症になってしまったのだろう。
皆も、俺みたいにならないように気をつけような……。
窓から射し込む太陽の光。
時間帯によっては、光が多く射し込むことがある。
休日はこの部屋で昼寝するので、少し厄介な光だ。
「じゃーん!カーテン買ってきたよ!」
買い物から帰ってきた妻が、嬉しそうに白いカーテンを見せてきた。
「ちょうど欲しいと思ってたんだよ。さっすが頼れる妻!」
「えっへん!」
妻は小さい胸を張って自慢気な顔をする。
「じゃあ早速付けちゃうねっ」
そう言って、くるりと回り、カーテン片手に窓の上に手を伸ばす妻。
ロングスカートが、カーテンのようにゆらゆらと揺れている。
「ねぇ」
「ん?どうした?」
「私の背じゃ届かないから……付けてくれる?」
「よしっ、任せろ」
俺は妻に代わって、窓にカーテンを付けていく。
付け終わり窓を開けると、外から涼しい風が入ってくる。
付けたばかりの白いカーテンと、妻のロングスカートが同時にゆらゆらと揺れた。
目の前に広がる悲しみの海。
ぼーっと見ていると、何かに足を掴まれ、海へ引きずられていく。
悲しみの海の中は青くて、すごく深かった。
どこまでも、どこまでも沈んでいき、もう私はこのまま永遠に沈んでいくのだろうか?
すると、上から光が射し込んできた。
光の手が……私の元へ伸びてくる。
「掴まって」
温かい声で、私に呼び掛けてきた。
私は手を伸ばし、光の手を掴む。
掴んだ瞬間、一気に上へ上がっていき、海から這い上がる。
「もう大丈夫だよ」
私に手を伸ばしてくれたのは、希望だった。
家から出た瞬間、襲いかかってくる熱気。
まだ六月なのに、もうすっかり夏。
夏の気配を感じるどころか、一気にきたって感じだ。
梅雨は気がつけば終わってたし。
太陽の光を浴びるだけで、フラフラしてきた。
出掛けようと思ったけど、やっぱりやめよう。
家の中へ戻り、エアコンのスイッチを入れた。
情報が沢山流れているネットの海。
この世には、色んなものがありすぎる。
今日も俺はノートパソコンと向き合い、ネットの海へ飛び込む。
いざ、まだ見ぬ世界へ!
数日後、ネットの海で得た物が次々と届く。
「ちょっと!まーたそんなに色々買って!」
妻は届いた物を見て、怒り顔の絵文字みたいに怒っている。
「これは新しい世界を開拓するために必要な物なのさ」
「前も、その前も同じこと言って買ってたじゃない。買うだけ買って置きっぱにして……このままじゃ部屋が物だらけになっちゃうわよ!」
まるで俺は母親に怒られている子供のようだ。
部屋には、今まで買った物があちこちに置かれている。
……あれはなんで買ったんだっけ?
何の情報を見て買ったのか、思い出せない。
多分、買うだけ買って俺は満足していたのだろう。
「もうこれ以上増やさないでよ!」
そう言って妻は部屋から出ていった。
確かに、これ以上物を増やすのはまずいな。
とりあえず、片付けていくか。
ノートパソコンと向き合い、効率の良い片付けて方法を検索する。
「ん?これは……へぇ……こんな物があるのか。おっ、これは前に気になってたやつだ」
気がつけば、俺はまたネットの海に飛び込んでいた。