私を彩っている真っ赤なリボン。つけている限り、貴方が見つけてくれると約束してくれた、そんな遠い記憶の証明。
どれだけ世界から色が消えても、赤だけはずっと私の傍に居て、一緒に鮮やかな景色を取り戻してくれた。それなのに、貴方と会えない日々が積み重なる度にまた焦っては色褪せていく。貴方はきっと想像出来ない程の苦しみの最中に居ると言うのに。
「このままじゃ顔向け出来ないよね」
立ち上がってリボンを結ぶ。貴方と繋ぐ私の赤い糸。
事実も過去も変わりようがないのだから、約束は絶対に消えたりしない。少なくとも私が覚えている限りは。
『遠い約束』
「眩しく辺りを照らす太陽にも夜空に輝く満天の星々にも、私達の手は絶対に届かない。だから、既に定められている事は変えられる筈無いの。そうでしょ?」
「ううん、僕達には運命を変える力が有るよ。ねぇ、青い薔薇の花言葉は知ってる?昔は『不可能』だったけれど、実現してからは『夢かなう』だとか『奇跡』になったんだよ。この世界に絶対に叶わない夢なんて無い。自分を信じられないのなら、そうやって信じている僕を信じて」
そう言って私を撫でては、ふんわりと何処までも柔らかく笑う彼の顔が好きだった。どんなに後ろ向きになっても必ず前を向かせてくれる彼の言葉の一つ一つが大好きだった。
私、貴方に貰ったモノの全てを抱えて、絶対に貴方に会いに行くから。誰もがそんな事は無理だと言ったって諦めない。だって、叶わぬ夢なんて無いのだから。
『叶わぬ夢』
瞼を貫く眩しさに眠りの底から引き上げられる。
貴方がいつも居たはずの場所には、何も無くて。そこは温もりが残っているような、何処までも冷たいような、そんな心地がしていた。
「分かってた、分かってはいるのに、なぁ」
ぽたぽたと感情が零れていく。濁って淀んだものも全て透明になって染み込んでいく。こんなに哀しくて寂しくて、世界が憎いはずなのに、綺麗になっていくから。
段々浄化されて行く様で。もうなんだか自分が馬鹿らしくなって。ただ眩しかっただけの朝日も未来を照らす光にさえ見えて来て。なんでも出来る様な気がして。
これを永遠の別れにするかは私自身の決める事なのだから。何よりも自分の目と貴方を信じよう。
全てを確かめる迄は諦めないで前を向き続けるから、貴方も私を信じていてね。
『終わり、また初まる、』
ふわりと髪が膨らんでは流されてゆく。日光を反射して揺れる草木は輝きを食べた星みたいだ。
風は何処までも遠くへ、どんな隙間でも通って行ける。だからどうか私の願いを、想いを乗せていって欲しい。
貴方に届かなくたって構わない。何処かで零れ落ちたって良い。それでも、ほんの少しだとしても。希望を絶やしたくないんだ。
『風が運ぶもの』
ひんやりとした風が草木を揺らし頬を撫で、彼方へ過ぎ去ってゆく。
「なぁなぁ、この村を出たら何がしたい?」
「私ね、商人になりたい!色んなとこを巡って、色んな人に出会って、色んな物を交換するの。そしていっぱいの事を知って皆に伝えたいな」
「ははっ、いいなそれ!俺はな、どんな時でも皆を守れる騎士になりたいんだ。そしたらもう何があったって安心だろ?お前の護衛だってしてやるよ」
一面の芝生で笑い合って。広い空に夢を描いて。お互い叶えようねって指切りをした、そんな爽やかな記憶。
約束、とまでは言えないけれど、確かに私をずっと支え続けているおまじない。きっとこれから先も忘れる事は無いのだろう。
『約束』