瞼の裏に焼き付いた、近くて遠い綺麗な記憶達。
優しく笑う貴方の顔も、一緒に嘆いた天気予報も、手を引かれて走った道も。全てが鮮明で、色鮮やかで。手繰り寄せては思い出せるのに。
はぁ、と息をつくとより一層くぐもった音が跳ね返ってくる。
目を開けると、冷たさに同化しきってしまいそうなほどの無機質な空間しか広がっていない。すぐ側には輝く思い出が転がっている、はずなのに。今、私が確かに存在している場所はただのモノクロの世界。
もう一生。それこそ永遠に、届くことは無いのに。手を伸ばし続けて、すり減っては誤魔化して、縋って縋りついて。無意味な延命をし続けている。
自覚していたって認められないのだから。
『届かないのに』
気がつけば、無数の烏が溶けた様な闇に呑まれていた。境界なんて何処にも見当たらない。ただ果てしなく、途方も無く続く夜。
それでもいつか、全ての闇を振り払うような輝きが現れると疑わなかった。こんなに暗い世界でも星が流れる日が来ると信じていた。
まぁ、そんないつかなんて訪れなかったけど。だからもうお終いにしよう。少女だからこそ夢を見る事を許されるのであって、私にはそんな資格は無いから。
『夢見る少女のように』ずっと居られたら良かったのに。
「貴方は一体何処を見ていたのですか?」
私と話す時も誰かと話している時も、彼は相手の瞳の奥、いやそれよりもっとずっと先を見ているようだった。何を言っても何をしても彼には届かずに空を切るだけ。
それなのに、何故か誰よりも世界を謳歌しているようにさえ見えた。瞳はいつも満天の星々を取り込んだ輝きを含んでいた。
気づけばそんな彼の瞳に惹き付けられて、目が離せなくなって。交わる事の無い視線を貴方に送り続けて。
私は貴方の世界を知りたかった。
『すれ違う瞳』
私を彩っている真っ赤なリボン。つけている限り、貴方が見つけてくれると約束してくれた、そんな遠い記憶の証明。
どれだけ世界から色が消えても、赤だけはずっと私の傍に居て、一緒に鮮やかな景色を取り戻してくれた。それなのに、貴方と会えない日々が積み重なる度にまた焦っては色褪せていく。貴方はきっと想像出来ない程の苦しみの最中に居ると言うのに。
「このままじゃ顔向け出来ないよね」
立ち上がってリボンを結ぶ。貴方と繋ぐ私の赤い糸。
事実も過去も変わりようがないのだから、約束は絶対に消えたりしない。少なくとも私が覚えている限りは。
『遠い約束』
「眩しく辺りを照らす太陽にも夜空に輝く満天の星々にも、私達の手は絶対に届かない。だから、既に定められている事は変えられる筈無いの。そうでしょ?」
「ううん、僕達には運命を変える力が有るよ。ねぇ、青い薔薇の花言葉は知ってる?昔は『不可能』だったけれど、実現してからは『夢かなう』だとか『奇跡』になったんだよ。この世界に絶対に叶わない夢なんて無い。自分を信じられないのなら、そうやって信じている僕を信じて」
そう言って私を撫でては、ふんわりと何処までも柔らかく笑う彼の顔が好きだった。どんなに後ろ向きになっても必ず前を向かせてくれる彼の言葉の一つ一つが大好きだった。
私、貴方に貰ったモノの全てを抱えて、絶対に貴方に会いに行くから。誰もがそんな事は無理だと言ったって諦めない。だって、叶わぬ夢なんて無いのだから。
『叶わぬ夢』