糸井

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11/13/2025, 8:45:37 AM

ある日私は落っこちた。多分迷路のど真ん中に。作者は性格の悪いこの私、だから出口があるかすら怪しい。

「理不尽だなぁ」

何がって、誰のせいかって、勿論自分なんだけど。とことん私に厳しくて当たり強くて手酷いのはなんでよ。いい加減許してくれれば良いのに。

はぁ、と大きくため息をついて。ひとまず周りを見回す。辺りを取り囲む壁の高さは大人の男性三人分くらい。辛うじてある道の先にも壁ばかりで。しかも灰色の壁に白い床、空は絵の具を混ぜたような黒色。そんな空間に浮いた妙な明るさにも気が狂いそうだ。

「ま、取り敢えず進んでみるしか無いよね」

壁の隙間を縫っていくと、床の見えない棘が裸足に刺さって痛い。かと思えば雲みたいなふんわりと沈む床もあって体力が削られていく。おまけに進む事に意味があるかもわからないのだから嫌になる。

そんな事を繰り返していると視界がぼやけて滲んで、赤が視界に広がっていく。綺麗な赤じゃなくて黒く濁った赤。痛みを感じてた足元からと視界の端から。あぁどうしよう。どんどん痛くなるし、広がっていくのを止めようとしたって徒労に終わる。寧ろ拍車をかけてしまう。

目に入る全てが赤に染め上げられて、
「助けて」
なんて言葉を空に放って目を閉じた。


ピロンッ
…?通知の音、
ハッと起きて携帯を手に取る。

「どうしたの?」


『心の迷路』

6/18/2025, 5:13:53 AM

瞼の裏に焼き付いた、近くて遠い綺麗な記憶達。

優しく笑う貴方の顔も、一緒に嘆いた天気予報も、手を引かれて走った道も。全てが鮮明で、色鮮やかで。手繰り寄せては思い出せるのに。

はぁ、と息をつくとより一層くぐもった音が跳ね返ってくる。
目を開けると、冷たさに同化しきってしまいそうなほどの無機質な空間しか広がっていない。すぐ側には輝く思い出が転がっている、はずなのに。今、私が確かに存在している場所はただのモノクロの世界。

もう一生。それこそ永遠に、届くことは無いのに。手を伸ばし続けて、すり減っては誤魔化して、縋って縋りついて。無意味な延命をし続けている。

自覚していたって認められないのだから。

『届かないのに』

6/7/2025, 10:42:58 AM

気がつけば、無数の烏が溶けた様な闇に呑まれていた。境界なんて何処にも見当たらない。ただ果てしなく、途方も無く続く夜。

それでもいつか、全ての闇を振り払うような輝きが現れると疑わなかった。こんなに暗い世界でも星が流れる日が来ると信じていた。

まぁ、そんないつかなんて訪れなかったけど。だからもうお終いにしよう。少女だからこそ夢を見る事を許されるのであって、私にはそんな資格は無いから。

『夢見る少女のように』ずっと居られたら良かったのに。

5/4/2025, 11:25:30 AM

「貴方は一体何処を見ていたのですか?」

私と話す時も誰かと話している時も、彼は相手の瞳の奥、いやそれよりもっとずっと先を見ているようだった。何を言っても何をしても彼には届かずに空を切るだけ。

それなのに、何故か誰よりも世界を謳歌しているようにさえ見えた。瞳はいつも満天の星々を取り込んだ輝きを含んでいた。

気づけばそんな彼の瞳に惹き付けられて、目が離せなくなって。交わる事の無い視線を貴方に送り続けて。
私は貴方の世界を知りたかった。

『すれ違う瞳』

4/8/2025, 2:08:14 PM

私を彩っている真っ赤なリボン。つけている限り、貴方が見つけてくれると約束してくれた、そんな遠い記憶の証明。

どれだけ世界から色が消えても、赤だけはずっと私の傍に居て、一緒に鮮やかな景色を取り戻してくれた。それなのに、貴方と会えない日々が積み重なる度にまた焦っては色褪せていく。貴方はきっと想像出来ない程の苦しみの最中に居ると言うのに。

「このままじゃ顔向け出来ないよね」

立ち上がってリボンを結ぶ。貴方と繋ぐ私の赤い糸。

事実も過去も変わりようがないのだから、約束は絶対に消えたりしない。少なくとも私が覚えている限りは。

『遠い約束』

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