瞼を貫く眩しさに眠りの底から引き上げられる。
貴方がいつも居たはずの場所には、何も無くて。そこは温もりが残っているような、何処までも冷たいような、そんな心地がしていた。
「分かってた、分かってはいるのに、なぁ」
ぽたぽたと感情が零れていく。濁って淀んだものも全て透明になって染み込んでいく。こんなに哀しくて寂しくて、世界が憎いはずなのに、綺麗になっていくから。
段々浄化されて行く様で。もうなんだか自分が馬鹿らしくなって。ただ眩しかっただけの朝日も未来を照らす光にさえ見えて来て。なんでも出来る様な気がして。
これを永遠の別れにするかは私自身の決める事なのだから。何よりも自分の目と貴方を信じよう。
全てを確かめる迄は諦めないで前を向き続けるから、貴方も私を信じていてね。
『終わり、また初まる、』
ふわりと髪が膨らんでは流されてゆく。日光を反射して揺れる草木は輝きを食べた星みたいだ。
風は何処までも遠くへ、どんな隙間でも通って行ける。だからどうか私の願いを、想いを乗せていって欲しい。
貴方に届かなくたって構わない。何処かで零れ落ちたって良い。それでも、ほんの少しだとしても。希望を絶やしたくないんだ。
『風が運ぶもの』
ひんやりとした風が草木を揺らし頬を撫で、彼方へ過ぎ去ってゆく。
「なぁなぁ、この村を出たら何がしたい?」
「私ね、商人になりたい!色んなとこを巡って、色んな人に出会って、色んな物を交換するの。そしていっぱいの事を知って皆に伝えたいな」
「ははっ、いいなそれ!俺はな、どんな時でも皆を守れる騎士になりたいんだ。そしたらもう何があったって安心だろ?お前の護衛だってしてやるよ」
一面の芝生で笑い合って。広い空に夢を描いて。お互い叶えようねって指切りをした、そんな爽やかな記憶。
約束、とまでは言えないけれど、確かに私をずっと支え続けているおまじない。きっとこれから先も忘れる事は無いのだろう。
『約束』
秘密を秘密たらしめるのは、自分以外の誰からも見えない所に隠しおく事。
それは、抱えれば抱える程に心を重く蝕んでいく。言わなければ解放されないのに、喉に空気の塊が詰まって言葉になってくれない。しかも、それを繰り返す度に微かな隙間さえも塞がっていく。
嘘も隠し事も大嫌いだ。結局苦しむのは私だから。
『誰も知らない秘密』
「ずっと長く楽しく美しく、終わりも忘れてしまう程の旅を創って行こう」
貴方に手を引かれて飛び立ったあの日から、私達の歩む道は満天の星空の様に煌めいている。
陽の光を一身に浴びて生い茂る草原も、朝露を湛える一面の花畑も。月明かりに照らされる貴方の姿だって、一つ一つ綺麗に大切に心の展覧会に飾ってあるのだ。
誰もが忘れたって私だけは忘れない様に。そんな誰かにまた色彩を、感動を、愛情を伝えられる様に。
そして、もっと知らない景色を味わう為に、手に入れる為に。いつまでもこの旅が続きますように。ずっと旅の途中でありますように。
『旅の途中』