椋 muku

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12/3/2024, 11:50:33 AM

私は君との関係に終わりを告げることを望んでいない。君だってそうでしょう?
私たちはこの曖昧な関係に依存してしまったのだから。

今日。厚く重い雲が広がっている空から降ってきたのは冬からの贈り物、雪。ではなく季節外れの雨だった。外気は冷え込んでいるくせに生ぬるい中途半端な雨粒がこの身に落ちてくる。寒いのかそうでもないのか、はっきりしなかった。
君とまた距離を置いてしまった。私には人気がある君に近づくことは難しい。いつも近くに人が群がっている君に話しかけるという行為は君を取り巻く不特定多数の人間からの恨みをかうことになるからだ。勇気は出ない。それでもお互いに一緒にいたいと思い合っていることは変わらない。付き合ってもないくせに。最近は君が構ってくれないから君から自然と距離を置いていた。君のことをみないように。

帰り道。雨は小雨に変わり、傘を差さずとも歩ける程度だった。委員会終わり。私はいつも通り1人でとぼとぼと帰途についた。タイヤが水をかき乱す雨の日はいつも以上に車の音がうるさく感じた。その音に混じって誰かの走る足音。それは確かに私に近づいてくる。振り返るとそこには私が以前好きだった彼がいた。

「よっ」

軽々しい挨拶をして自然と私の車道側を歩く。挨拶には頭だけを下げた。彼は相変わらずで私と話す時も少し素っ気ない。それでも私との会話を楽しんでいるようで私をおちょくるようなことも言っていた。久しぶりの彼との帰り道に何故だか雨も止んでしまった。私自身も心が少し軽くなったような気がした。彼は誰かと話す時、あまり相手の目を見ない。彼が私と話す時、私の目を真っ直ぐに見てくれる。久々に彼の真っ直ぐな視線を見ると何故か目を逸らしてしまいたくなった。
彼の家は私と少し逆方向なのにわざわざ少し遠回りになる道を通って帰る。私が家に入るまで。必ず彼は見届けてから帰る。意図的なのか無意識なのか。彼は今でも変わっていなかった。

「先、帰っていいよ。俺、帰る時の背中見送られたくないから」

嘘。彼が私がちゃんと帰るところを見届けたいのはもうわかっていた。変わらない癖。彼に軽く挨拶をして家に入る。と同時に君に未練タラタラな自分がいたことに気づいた。彼のことを諦めた理由なんて本当はなくて未だに諦めきれていない自分を隠すためのはったりだった。


君との関係。それは曖昧でだけれども誰よりも親密で。
彼との関係。それほど親密でもなければ冷めきった訳でもない。
彼に愛されたかった。彼が望んでいた愛を与えたかった。
君と楽しみたい。君に必要とされたい。
そんな後悔と願望が深く絡まり合う。
諦めきれなかった彼。私を必要としている君。

どうか、さよならなんて言わないで。ね?

題材「さよならは言わないで」

12/2/2024, 11:04:04 AM

光があるから闇がある。そういう例えを私が生まれるずっと前に誰かが言っていた。誰が言ったのかもあやふやだし今じゃ名言を作り出したい奴らが言っているテンプレートみたいなものだ。
単調な光。影を作るように表裏一体になった闇。私には何が光で何が闇だなんて全く分からない。ただ、例えるとするならば人の性格のようなものなのだろう。

カーテンから差す光が眩しくてつい目を細めてしまう。今日の天気予報は曇りだったはずなのにめっきり晴れてしまった。
君が眠そうな顔をして登校してくる。私の隣の席。君は決まって朝は大人しい。おはよってたった一言声をかけてもよっぽどの事がない限り返事なんてしてくれないんだから。時間が経つにつれて君のテンションも上がってくる。私へのちょっかいも増えてくる。君のことを愛おしく思う気持ちが今日もまた増していくんだ。君の笑顔に寝顔、照れた顔も全部全部私だけが独り占めしていたい。どんな君の姿も受け入れられるよ、きっと。

家に帰ると私の性格が一変してしまう。君のことを「好き」だと思えず君と仲良くしてしまう自分に嫌悪感を抱く。私は君のことが「好き」なはずなのに「嫌い」なんだ。君が愛おしくて憎い。触れたい。近づきたくない。正反対の言葉ばかりが飛び交う。私は君の人気が羨ましくて私も同じように愛されたかった。でも恋愛なんて恋仲なんて望んでいる私もいた。でも女にも男にもなれない私は同性も異性も遠ざけてしまう。私には私がいれば十分なはずなのに愛に飢えている。愛されたい、でもみんなが嫌いなんだ。もう1人にしてくれ。君なんか大嫌いだ。

私の光と闇。表と裏みたいなもの。どちらも本当の私。相手を受け入れる以前の問題。私は私自身を受け入れられない。そんな光と闇の狭間で私は今日ももがいている。自分の本当の気持ちに気付けず、気付こうとせずに生きている。

私の大嫌いな君に気づいて欲しいな。

私の大好きな君に届いて欲しいな。

題材「光と闇の狭間で」

12/1/2024, 11:52:54 AM

すっとそっと。すぐに手が触れてしまいそうな1cm。たったの1cmが私たちには遠く感じられてしまった。触れたいって思ってるはずなのに触れられないもどかしい距離。

理科の授業。今の単元は覚える単語が多いし内容が特に濃いところだから集中して聞かないといけない。黒板に顔だけ向けて手元でメモをとれるように待機。

(…っ!?)

足に何かが絡まる感覚があった。咄嗟に振り返る。

「こら、ちゃんと話聞いて。」

「…やだ」

君がやっと見てくれたと言わんばかりに私を見つめる。嬉しそうに細まった目が猫のようで可愛い。それでも気を取られてはいけない。勉強が分からなくなれば君に教えることができなくなるんだから。黒板に視線を戻す。

ジーッと筆箱のチャックを開ける音。

「ねぇ、これで爪切っていい?」

「ん?…ん?ちょっとそれ私のハサミ。ダメに決まってるでしょ。返して…」

君に手を伸ばす。

「えぇ…」

し、しまった。君のハサミは奪えたけど、君が私の手を離してくれない。足は絡めてくるし手は握ってくるし…本当に大きい赤ちゃんみたいね。甘えてくる君にはやっぱり負けて許しちゃう私も君にはだいぶ甘すぎるね。

「あ。ボールペン替えてる。これ、いつ買ったの?なんで替えたの?」

「え?…教えない」

君がいつも私のボールペンを使うから書きやすいのに替えたかったって言ったら絶対笑われるって思ったから黙っておいた。君には言えない秘密。


もどかしい距離。君がその距離を縮めてしまった。私たちの間の1cmはいつの間にか0cmに変わってた。君が勇気を出して近づいてくれたから私たちに距離なんて無くなった。君に触れる度に感じる鼓動の音と温かさ。そんな君に会えない休日は退屈でやることもない。君との距離も遠く感じる。会いたいなんて思ったら会いに来てくれるのかな。ストーブで温まった部屋の熱に物足りなさを感じるPM3:00

題材「距離」

11/30/2024, 4:02:44 PM

胸が締め付けられるような苦しい感覚。漫画のような小説のようなそんな世界ではきっとそう言うだろう。でも私にはただただ胸くそ悪いだけだった。

空気だけが冷え、初雪が嘘だったかのように消えていた。みんなは寒くて何枚厚着しているのか分からない。私も寒いのは嫌いだけど、君といるとなぜだか全身が火照ってしまう。君にそんな恥ずかしい姿を見せるわけにもいかないからいつも通り半袖に冬服を羽織った。最近は君が近くにいてくれるから寒くないかな、なんて言える柄でもないか。

「…んん、起こさないで…」

授業中に起こした時の妙な色っぽさ。班活動で寄りかかって顔を近づけてくる物理的距離。君が戸惑いながら照れながら、私の手を握ってくれたときはお互い顔が緩みっぱなしだったね。こんな日が続くといいなって思ってた。本当に。

君があの子と仲良さそうに話してた。私が見たことのない表情で。君が私に触れるまで。それは今まで長い時間がかかってて私たちだけの特別な感覚だった。はずなのに…どうしてあの子にはすんなり触れてるの?私の目の前で君とあの子は親密そうに話してる。私と一緒が良いって言ってくれたのに。全部ウソ。

私は君の彼女でもなんでもない。でも、君が私を特別に扱ってくれたから私は君の大切な何かで…言葉を自分の中で紡ぐほど涙腺が緩む。
ダメ、泣いてはいけない。悲劇のヒロインぶっても何も始まらない。そもそも私がヒロインになれることなんてなかったんだよ。そう、ちゃんと向き合わないと。君とあの子をみてはらわたが煮えくり返るような怒りと居心地の悪さを感じたと。
でも、私が君にそう伝えるまでの勇気なんて出なかった。関係のないやつがでしゃばっても意味なんてないから。実際は涙を堪えることぐらいしかできなかった。自分の弱さが自分をこんなにも傷つけていたんだと身をもって実感した。

君が繋いでくれた手はかじかんで赤く染まった。
手袋を着けるから大丈夫だよ。
君がからかってくれなくて君が来るのを待ってる。
することを見つけたからもう君のことを考えずに済んだよ。
なのにさ、心が一向に温まらないんだ。本当は君がいなくて寂しいよ。寒さが一気に増した気がして一人ぼっちになったような感覚を覚えた。お願い、泣かないで私。君から離れることをまだ決心できぬのなら。

題材「泣かないで」

11/30/2024, 8:58:33 AM

慣れないストッキングを履いて制服を着る。冬用のスカートは厚くて風を通さない。それでも1歩外へ出てみれば冷え込んだ空気に負けてやはり寒いと感じてしまう。吐いた息は白いのに雲は雪を降らせまいと持ちこたえていた。金曜日。今日も私は学校へ行く。

華の金曜日。世のサラリーマンは飲みに出歩くみたいですよといつか先生が言っていた。学生の私たちには程遠い話だと思っていたけど、子どもと大人の狭間におかれている私たちにはそう遠くもない未来の話だった。それでも「金曜日」という存在は少なくとも子どもや大人にとって特別な存在なのだろう。明日が休みというのはすごく気が楽だ。でも2日間君に会えないと思うと少し残念に思う自分もいた。だから今日こそは何か週末のモチベーションになるものを作らなければ…

そうこうしているうちに、放課後になった。今日も収穫はなし。君とまた2日間会えなくなってしまう。今日は職員室に寄ってから帰ることにしよう…

「あ。何してんの?」

君がひょっこりと顔を出す。

「え。あんたこそ何してんのさ」

「あー。歩くのだるいから親に電話してた」

テレフォンカードをしまう君を見て私はひらめいた。

「今度さ、一緒に帰らん?一緒に帰りたいんだけど…」

君がニヤニヤを隠せずに私を見つめる。

「え…い、いいけど」

無事成功した。なんかすんなりとモチベーションが上がっちゃった。

冬。それは寒くて冷たくて凍るような寂しい季節だと思ってた。でも今年の冬は君との何かが始まりそうなそんな季節です。


題材「冬のはじまり」

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