椋 muku

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胸が締め付けられるような苦しい感覚。漫画のような小説のようなそんな世界ではきっとそう言うだろう。でも私にはただただ胸くそ悪いだけだった。

空気だけが冷え、初雪が嘘だったかのように消えていた。みんなは寒くて何枚厚着しているのか分からない。私も寒いのは嫌いだけど、君といるとなぜだか全身が火照ってしまう。君にそんな恥ずかしい姿を見せるわけにもいかないからいつも通り半袖に冬服を羽織った。最近は君が近くにいてくれるから寒くないかな、なんて言える柄でもないか。

「…んん、起こさないで…」

授業中に起こした時の妙な色っぽさ。班活動で寄りかかって顔を近づけてくる物理的距離。君が戸惑いながら照れながら、私の手を握ってくれたときはお互い顔が緩みっぱなしだったね。こんな日が続くといいなって思ってた。本当に。

君があの子と仲良さそうに話してた。私が見たことのない表情で。君が私に触れるまで。それは今まで長い時間がかかってて私たちだけの特別な感覚だった。はずなのに…どうしてあの子にはすんなり触れてるの?私の目の前で君とあの子は親密そうに話してる。私と一緒が良いって言ってくれたのに。全部ウソ。

私は君の彼女でもなんでもない。でも、君が私を特別に扱ってくれたから私は君の大切な何かで…言葉を自分の中で紡ぐほど涙腺が緩む。
ダメ、泣いてはいけない。悲劇のヒロインぶっても何も始まらない。そもそも私がヒロインになれることなんてなかったんだよ。そう、ちゃんと向き合わないと。君とあの子をみてはらわたが煮えくり返るような怒りと居心地の悪さを感じたと。
でも、私が君にそう伝えるまでの勇気なんて出なかった。関係のないやつがでしゃばっても意味なんてないから。実際は涙を堪えることぐらいしかできなかった。自分の弱さが自分をこんなにも傷つけていたんだと身をもって実感した。

君が繋いでくれた手はかじかんで赤く染まった。
手袋を着けるから大丈夫だよ。
君がからかってくれなくて君が来るのを待ってる。
することを見つけたからもう君のことを考えずに済んだよ。
なのにさ、心が一向に温まらないんだ。本当は君がいなくて寂しいよ。寒さが一気に増した気がして一人ぼっちになったような感覚を覚えた。お願い、泣かないで私。君から離れることをまだ決心できぬのなら。

題材「泣かないで」

11/30/2024, 4:02:44 PM