久々に嫌な夢を見た。彼女に別れを告げられる夢。妙にリアルで縋り付くことに必死だった。目覚めた時、冬のくせに汗だくで夢だと気付いて安心した。僕はなんて自分勝手なんだろう。早朝、彼女が自主トレーニングの最中だってわかってて電話をかけた。きっと出てくれないだろう。スマホなんて見てくれないだろう。なんて思っていたけど、2回目のコールで繋がった。
「おはようございます……どうしました?諒さん。すみません、トレーニング中で…息が荒くて…」
素直に驚いた。こんなに早く出てくれるなんて思ってもいなかった。
「おはよう笑…あーなんか声聞いたら元気になったわ。ありがと。トレーニング中にごめんね」
「諒さんからの電話だから出たんですよ、勘違いしないで下さい。というか、元気無いんですか?今日会いに行ってもいいですか?」
「もう大丈夫だよ、元気だから」
「私が会いたいんです!許可してくれなくても会いに行きます!午前のおやつの時間に!!!」
ブチッと切られた電話。今日はやけに彼女が積極的で、自分の想いが増していくのを感じた。それに、おやつの時間て…保育園児かよ笑
インターホンの鳴る音がして出てみると、AM10:00
ぴったりに彼女が訪ねてきた。
「いらっしゃい」
そう言って出迎えた。彼女はランニングがてら訪ねて来たかのように少し汗をかいていた。私服と違ってスポーツブランドが刻まれたウィンドブレーカーとジャージ。さすが陸上部。男の子みたいにTシャツの裾で汗を拭う姿がこの世のものとは思えない程美しかった。
「ねぇ。蓮ちゃんって本当に身体引き締まってるよね。こんな事言われるの、嫌かもしれないけど。学生で女の子でお腹割れてるって凄いよね」
「えーそうですかね。自分の競技には有利なので得はしますが、男の子みたいで諒さんにはあんまり見られたくないかな…なんて」
神様、どうしてこんなにも可愛い生物をこの地上へ産み落としたのでしょうか。どうして僕と出会わせてくれたのでしょうか。僕は本当に幸せ者です。もう悔いなし。
「僕は好きだけどなー」
「!?この前みたいに勝手に見るのは止めて下さいよ!?」
反応までも可愛い。
「この前、家に帰った時、何か言われた?」
「あぁ、いえ。私の両親は私に無関心なので殴られても何されても特に何も言わないですよ…」
それから彼女は家族のことについて話してくれた。よくある漫画のシチュエーションみたいに両親が気にかけるのは妹だけ。私のために金だけは出してくれる。今までどれほど虐められても殴られても私のせいにされる。家族との関係がギクシャクしていること。全て包み隠さず話してくれた。僕だけにはちゃんと向き合いたい、迷いのない声でそう伝えてくれた。
「そっか。今までよく耐えてきたね…あのさ、蓮ちゃんさえ良ければなんだけど」
声が震えるのが自分でもわかった。初めて真剣に恋愛に向き合って彼女に恋してる自分を認められたからかもしれない。
「僕との同棲を考えてくれないかな」
「同棲……ですか」
彼女をもう苦しませたくないという事や救いたいという事。彼女が納得してくれるような言葉を羅列した。大人気ないとはわかっていても止められなかった。
「…わかりました。両親に話してみます。両親にとっても好都合だと思うので多分許可は出ると思います」
僕の言葉に流されたような瞳ではなかった。心まで見透かすような真っ直ぐな眼差し。彼女の意思で同棲を決断してくれたのだとわかった。
こうして僕たちの同棲が始まろうとしていた。
「あ、そうだ。今朝、なんで元気無かったんですか?悪い夢でも見ました?」
「ど、どうしてそれを…!」
「ただの女の子の勘ですよ」
今なら言える。あの夢の続きを見たとしても僕は確信できる。彼女は僕から離れていかないのだと。もう怖いものは無い、なんて思えた。
題材「あの夢の続きを」
※読者の皆様、私、椋の作品をご愛読して頂き有難うございます。この度、私事ですが受験勉強に専念するため、しばらく投稿を控えることになりました。3月中旬頃に投稿を再開する見通しです。ご理解頂けると幸いです。
それでは、しばしの別れ。また3月にお会いしましょう!
目覚ましの音で目を覚ます。そういえば今日は休日だった。昨日、時刻設定を変えていなかったのだと今になって気付く。久しぶりに早起きした休日。親も起きていないだろう。僕は財布を持って1人、少し遠くのコンビニへ向かった。
朝の空気はさすがに冷え込んでて思いきり吸うと鼻が痛い。それでもこんな時のランニングは体内から徐々に温まって心地良い。コンビニに着くとホットコーヒーを買い、近くの公園でひと休みした。ほろ苦いこれを保育園の頃は飲みたくてたまらなかった。大人の味。そう言われて子供扱いされている事が無性にもどかしくなってしまったのかもしれない。
「お。あれ?クロじゃん。なんでこんなとこいんの?」
グビっともう一口含んだこれは先程までと一変し、とんだ不味いものに変わってしまった。
「おい、無視かよ。先生になんて無礼な事すんだよ?」
「おはようございます、シロ先生。しかし残念ながらここは学校ではありませんし今日は休日です。なので今はあくまで他人です」
「おいおい、酷い言われようじゃねぇか。まぁいいや。そんでクロはここまで何しに来たんだ?」
「シロ先生には関係ねぇです」
「その格好からしてランニングかなんかだろ。若いって良いねぇ。俺はドライブがてらタバコを買いに」
「流石です、ヤニカス先生。それじゃ、僕帰るんで」
「おーおー、待ちぃ待ちぃ。送ったるからちょっと面貸してぇな?」
「え、何その急な関西弁…それに面って…キ、キモ」
そんなこったで僕の意思に関わらず首根っこ掴まれて先生の家まで来てしまった。
「その辺好きに座って」
「うわー。なんか先生ん家なんもねぇくせにヤニ臭ぇ」
「韻踏んでる?あー飲みモンはビール…しかねぇな」
「なんでその一択しかないんですか。未成年に酒はアウトでしょ。さっきコーヒー飲んだし遠慮しておきます」
「あ?そうか。クロ、タバコ吸うけど平気?」
「先生ん家なんで何も言えないッスけど、この後僕になんかするなら吸わないで貰えると助かります」
「おう、じゃ、やめとくわ」
「それよりなんで僕を先生ん家に連れてきたんですか?僕なんかしました?休日まで説教とか嫌なんスけど」
「ん?あーほら、今人肌恋しい季節だからさー」
「シロ先生本当に20代ですか?おっさんみたいでドン引きッスわー」
「どうせ彼女も奥さんも出来ないから良いんだよ」
「僕の他にも色々手出してるみたいですもんね(棒)」
「あ?何の話だ?そりゃあ告白のために倉庫とかその辺呼び出されるけどクロ以外は手出してないぞ」
「は?そもそも僕に手出してる時点で先生終りじゃないっスか。とんだ屑教師がいたもんだ」
「そんな事言うなよ。それより容姿が良いってやっぱり困るなぁ(ドヤ)」
「なりたくない人間No.1ですわ。そろそろ帰ろうかな……はは(ドン引き)」
「おい、待てよ」
立ち上がった僕は手を引かれ先生の膝に座った。そしてヤニカス先生にギュッと抱きしめられる。
「いつもに増してクロの匂い強いな。いい匂い…………なぁ、いい?」
「はぁ。。。どうぞお好きにして下さい」
ヤニクソ野郎先生の寝室は不思議とヤニの匂いが何処からもしなくてベッドは先生の匂いが染み付いていた。特に何も思わなかったが胸の奥がむず痒いようなそんな気がした。とりあえずこの感情を気持ち悪いということにしておこう。
「ごめん、時間遅くなったわ。送る準備…」
「良いですよ、もう少しゆっくりしてても。こんな事もあろうかと親には連絡入れておいたんで」
「え……ク、クロー!いつもツンツンしてばっかのくせにやっぱ俺の事好きなんだなー」
「気、気持ち悪いからその解釈止めて下さい。あと、もっと離れて下さい、カス先生」
「おい、ヤニ吸ってないからってヤニを取るな。ただのクソ教師に聞こえるだろ?」
「だってその通りじゃないっスか」
暑苦しいはずなのに心地の良い筋肉質な包容力のある体が僕を包み込む。
「あったけーな、クロは」
何も言えない沈黙。その時僕はこの腕の中で何を考えていただろうか。ふと首筋に柔らかいものが触れてピリッと痛みが走った。
「…んふ」
「あっ!おい、何がんふだ!残るから跡は付けんなって散々言ったじゃんかよ、この■■■■■■■■■教師!(自主規制音)」
その後、僕は無事に家に帰還した。いつもより早起きした甲斐があったのかなかったのか。。。いや、完全にない。あの■■■■■■■■■■■野郎、絶対許さねぇ。
題材「あたたかいね」
誰かとの将来を考える時。別に恋愛だけとは限らないけど、それは相手を知ることで決まる。私はそう思っている。だから、その、なんて言うか、コイツとは産まれる前から家族ぐるみで仲良くてコイツのことならなんでも知ってるから…うーん、わかんねぇや。
「なぁ。今更なんだけど、俺らって進路同じだよな?」
コイツの唐突な質問に私は正直焦った。だって、私はコイツの進路を知っていて変えたからだ。両親は同じ学校にすれば良かったのに…だのなんだの言っていたが、私にも一応やりたい事があったのだ。
「あー…んーじゃあ、せーので言って確認する?」
「お、良いねー……せーのっ」
「*§♭#*$"☆!」
「え……なんで……なんで違うの?」
初めて見る表情。焦りや不安を含んだ声。コイツが傷付いたのは言うまでもなくわかった。
「お、俺、今からでも進路変える!お前と一緒に…」
「いや。やめとけ。お前にも将来就きたい職とかあんだろ?全部俺と一緒にしてたら1人で生きていけなくなるぞ」
はっと我に返ったように少しの間沈黙が流れた。確かに進路が一緒になっても困ることはない。でも、私とコイツが一緒にいることで、私はコイツの可能性を狭めているんじゃないかって思った。だから、私の将来の夢により近づける進路へ変えた、たった一人で。
「いいよ……」
「え?」
「1人で生きていけなくてもいいって言ってんだろ!俺は……お前が一緒じゃなきゃ生きていけないんだよ…」
想定内だった。こうなる事もわかっていた。私はコイツとずっと一緒にいたのだから。ここまで執着してしまうと多分本当に私達は末期だ。正直なところ、私もコイツがいないときっと生きていけない。恋人ができたなんで日には無理心中さえもしてしまうかもしれない。それでも、それを伝えようとすると言葉が喉に引っかかった。
「わかった。じゃあ、受験合格したら家を出て、一緒に住もうか」
「……へ?」
「嫌?」
「全然!嫌じゃない!約束だ。絶対守れよな!」
「はいはい」
そう言って私たちは指切りをした。この約束が私たちの関係を変える未来への鍵となる事を祈って。
題材「未来への鍵」
How do you say 「星のかけら」in English?
Um...pieces of the stars?
Yeah.That's right. But...I think the most appropriate thing is stardust.
Oh,really?I didn't know that. But I have heard somewhere. Thank you!
Your quiz is very interesting! I'm looking forward to seeing you next time.
You are welcome. It's fun talking to you. I'm looking forward it too! See you.
上記のものは英語の授業の際にお越しいただいているALTの先生との会話である。星のかけらは英語でStardust(スターダスト)というらしい。ALTの先生は日本語を学んでいるそうで、ほとんど通じるのだがやはり母国語の方が喋りやすいのだといつか俺に言っていた。英語を話すことが得意ではないけれど、話すことでスキルを高めたいとか海外の方と交流したいとか思うからこうして毎度先生と話している。
「おい、クロ。今日は風紀委員会室取れなかったから。昼休み進路相談室に来いよ」
「うっす」
「はい、だろ?先生への礼儀は大事にしろ」
「シロ先生だから礼儀なんて気にしてないのに」
「成績1で良いか?」
「すみませんでした」
「じゃ、後でな」
英語教師の琥珀(こはく)先生。20代で容姿が完璧で女子ウケが良い。教え方も上手くて勉強もそれなりにわかる。名前に白って漢字が入ってるから俺はシロ先生って呼んでいる。
「失礼します」
「お、来たか。今日はどこ勉強すんの?」
「今日は星のかけらについて話しましょう」
「まてまて、クロ、お前もしかして頭イカれ…」
「んなわけ。今日は勉強いいんで、適当に喋りてぇんです」
「ん、りょーかい」
「ALTの先生と話したんですけど、星のかけらってStardustって言うらしいじゃないッスか」
「んー、まぁ、そうだな」
「dustって塵とか屑とかゴミみたいな意味付いてるからStardustって可哀想だなーって」
「お前、やっぱ頭イカれてんじゃ…」
「黙ってくだせぇです。。。シロ先生」
「なんだ」
「なんで独身のくせに左手の薬指にブツがハマってんスか」
「知りたいか?」
「いや、別に…」
「はぁ、なんだよ。ったく…クロ、タバコ平気?」
「どーぞご勝手にしやがれです、ヤニカス先生」
「………あー生き返るわー」
いつもにないくらいどうでもいい話をしていると、昼休みを終えるチャイムが鳴った。
「換気扇があって職員室から程遠い部屋じゃないと吸えないですもんね。だから進路相談室と」
「まぁ、良いじゃねぇか。クロ、箱、持ってきて」
「うっす」
箱を持っていくなり、顎クイだかなんだか知らねえが顔上げさせられて無理やり口づけをしたシロ先生。
「先生、ヤニ臭いしなんかにげぇ」
「あ?もっぺんするか?」
「生徒に手出すとか退職案件だろ。んじゃ…授業なんで」
「おう」
琥珀先生はごく普通の先生だが、たらし感半端ないクズである。何人にも手を出してるっていう噂もその辺に転がっているし…さぞかし経験豊富なのだろう。星のような輝きを放つ容姿にこの性格。まさにシロ先生がStardustつってな。いや、ただのdustか…はは(棒)
題材「星のかけら」
※クロとシロ先生は会話中心に書き進めていこうと考えています。
今日は全校出校日。雪国の冬は本当に大変で担任は今日も雪で遅刻するらしい。
「おいおい、今日も先生遅刻かよー」
「それなー。教え子のクラスなんだからもっと大事にして欲しいよね〜」
「こんなに可愛い俺ら、教え子がいるんだからもっと可愛がって欲しいよ、な?」
出校日だるいな、ただそれだけしか考えてなかった。先生の事なんて正直どうでもいいし。
「まぁ、いいんじゃない?片道1時間半もかけて来てくれてるんだし。んじゃ」
「おい、どこ行くんだよ」
「ちょっと、な」
教室を出て、隣のクラスを覗く。たまたまホールに出てくるところだったみたいで、彼の服を引っ張る。
「マンガ、返して。今日、取りに行く。何時?」
「俺、今日、用事。昼、無理。んじゃ、3時」
ってな訳で、サッカー部みたいなベンチコートにイヤホンをつけて私は彼の家に向かった。
インターホンを押すと彼の「家族」が出てきた。彼がいるか尋ねると
「あぁ、今本を返しに行くって出ていったよ」
礼だけ言うと私は歩き出した。そうか、裏から通ってきたから表から私の家に向かった彼とは入れ違いになった訳か。表に出ると遠くに彼が見えた。途端に私は走り出した。雪で滑ろうが構わなかった。走ると揺れるバッグのキーホルダー。何の変哲もない音だけが走る私に響いていた。それは、走って高鳴ったうるさい鼓動を紛らわせるものか、彼とお揃いにしたキーホルダーが奏でる特別な音だったからか。
「ごめん、取りに行くって言ったのに。ありがとう」
「あ、うん」
私に気付くと笑顔で振り返る彼。
「何その笑顔」
「別に」
何かを待つような彼を私は気付かないように振る舞った。
「んじゃ」
今までは「好き」という想いが邪魔をして関係を拗らせていた。もう、曖昧なのはごめんなんだ。「好き」をやめたらだいぶ楽にはなった。バイバイって小さく呟いた彼を後にして私は帰宅した。
マンガを本棚に戻すとき、ふわっと鼻を抜ける彼の匂い。考えたくもない事が頭を駆け巡った。カサっと音を立てて落ちた小さな手紙。ありがとうってたった一言。本当に調子が狂う。
もう、恋愛なんてできない。私には恋愛的な好意が自分を苦しめる。ただ、あの時に聞いたキーホルダーの音が耳にこびりついてずっと気持ち悪い。
題材「Ring Ring...」