すっとそっと。すぐに手が触れてしまいそうな1cm。たったの1cmが私たちには遠く感じられてしまった。触れたいって思ってるはずなのに触れられないもどかしい距離。
理科の授業。今の単元は覚える単語が多いし内容が特に濃いところだから集中して聞かないといけない。黒板に顔だけ向けて手元でメモをとれるように待機。
(…っ!?)
足に何かが絡まる感覚があった。咄嗟に振り返る。
「こら、ちゃんと話聞いて。」
「…やだ」
君がやっと見てくれたと言わんばかりに私を見つめる。嬉しそうに細まった目が猫のようで可愛い。それでも気を取られてはいけない。勉強が分からなくなれば君に教えることができなくなるんだから。黒板に視線を戻す。
ジーッと筆箱のチャックを開ける音。
「ねぇ、これで爪切っていい?」
「ん?…ん?ちょっとそれ私のハサミ。ダメに決まってるでしょ。返して…」
君に手を伸ばす。
「えぇ…」
し、しまった。君のハサミは奪えたけど、君が私の手を離してくれない。足は絡めてくるし手は握ってくるし…本当に大きい赤ちゃんみたいね。甘えてくる君にはやっぱり負けて許しちゃう私も君にはだいぶ甘すぎるね。
「あ。ボールペン替えてる。これ、いつ買ったの?なんで替えたの?」
「え?…教えない」
君がいつも私のボールペンを使うから書きやすいのに替えたかったって言ったら絶対笑われるって思ったから黙っておいた。君には言えない秘密。
もどかしい距離。君がその距離を縮めてしまった。私たちの間の1cmはいつの間にか0cmに変わってた。君が勇気を出して近づいてくれたから私たちに距離なんて無くなった。君に触れる度に感じる鼓動の音と温かさ。そんな君に会えない休日は退屈でやることもない。君との距離も遠く感じる。会いたいなんて思ったら会いに来てくれるのかな。ストーブで温まった部屋の熱に物足りなさを感じるPM3:00
題材「距離」
12/1/2024, 11:52:54 AM