この季節を愛でるには
僕はこの色を知らな過ぎるみたい
綺麗だ、と思う心はあっても
触れるにはもう遅すぎたかもしれない
淡い色が柔らかく
差す光は影さえも綺麗に映して
どこにも居場所は無いようで
ほんの少し寂しくもあった
歩く人々に風は優しく纏う
散る花、咲く花、
終わりとはじまりが混ざる季節に
僕は目を閉じるんだ
一瞬で無色の世界が出来上がって
ひとつ、深呼吸をした
透明にもなれない、鮮やかにもなれない
無色を纏う僕に
この季節は眩しすぎたから
昔から口下手な僕には
本音を言える相手も居なかった
本当はね、愛されたい、
認められたい、嫌われたくない、
誰かの肩に寄りかかってみたい、
誰も助けてはくれない
そんな風に仕向けたのは自分自身のくせに
愛想笑いは得意だった
誰にでも良い面するからさ
よく言われてたよ
何考えてるかわかんない奴だ、って
届かぬ想いと諦めて
僕にとっては届けたい相手が居るだけで
どんなに羨ましい事か
空が遠かろうが、近かろうが
ただたまに見上げるだけだった
地に足をつけて歩く、
そっちの方が大事だと教わったから
足元を見れば今にも咲きそうな花
蟻の群れ、青々と伸びはじめた雑草
春の匂いがする
そして、汚れきった靴
足底だって擦り切れてしまっていて
靴を見れば、その人の人間性がわかる
どっかで聞いた言葉をふと思い出した
それなら僕はそういう事なんだろうか
そう思いながらゴミ箱に捨てた
その靴が僕自身に思えた
どうせならその靴を
遠い空へと投げ飛ばして
一緒に僕も飛んでいけたら
靴を履く理由もなくなるのに
あふれて、こぼれて、流れた星が
いつかの僕の夢みたいだった
受け止める器もなく
ただ落ちていくのを
眺める事しか出来なかった
ありふれた夢だったんだよ
ヒーローになりたいとか
お金持ちになりたいだとか
大層なものから
くだらない事まで
それがいくつもいくつもあったんだ
今のこの僕に後悔は無いけれど
やっぱり少しだけ
寂しい、と思う
星が溢れる夜は息が詰まりそうで
この気持ちは受け止めなければと思った
忘れたくないんだ
あの時、並べて眺めたいくつもの夢は
僕にしか作れない光だったから
子供の頃書いた
あの時の手紙の内容は一つも覚えてない
10年後の自分にお手紙を書きましょう、
やけに張り切る甲高い先生の声だけ
ちょっとだけ覚えてる
丁度二十歳になる頃家に届きます、と
でも僕はその前にそこから逃げ出した
もう一生僕には届かない手紙だ
まだ社会の事を知らないくせに
早く大人になりたかったあの頃
弱虫で、良い子ぶって、天邪鬼
一人で生きてる気になって
あんな大人にはならないと
心の中では見下して
でもきっと
僕はちゃんと僕の幸せを願ってた
そんな手紙だった気がして
10年後の僕から届いた手紙に
幸せを願っただろうその拙い字に
応える事はもう出来ないけど
僕が死ぬ時、答え合わせでもしよう
僕という一人の人間が
幸せだったか、不幸だったかを