部屋には心地よい風が吹き込み、温かい太陽の日差しが差し込む。それだけで穏やかな気持ちにさせてくれるのに、あなたの傍に居れるということで、何気ない時間さえも愛おしく思えてくる。
それも全て今日まであなが生きてきてくれたおかげだ。
もしあの時、あなたが死を選んでいたならば、こんな日はきっと来なかっただろう。
逆に私が同じことをしていたとしても、同じようにすごすことすら出来なかったと思う。だからこうして生きることを選択したことに後悔はない。
だってこの幸せの中に、あなたとわたしがいなかったら成り立っていなはずだったのだから...
暗い、暗い、海の中をただひたすらに落ちていく私。
どうしてこうなったんだろう。あの時間違っていなければ
なんて..後悔していることが、頭の中に流れてくる。
きっとこれは俗に言う走馬灯なのだろうか。
もう時期私は、息も続かなくなり死んでいくだろう。
このまま死んだら私は、魚の餌となり海の藻屑となって
暗いこの海の中で消えていくのだろう。
そう考えてた矢先、行きも絶え絶えになり、溜め込んでいた酸素を全て吐き出してしまった。突如とくる苦しみにもがき、僅かに残った力で腕を海面の方へ向けあげた。
助けて。まだ死にたくない。私には...私には、まだ...まだ..
そんな思いも虚しく、意識がだんだん無くなり、全身の力が抜け、闇の底へ消えていくように落ちてゆく。
その時だった。誰かが彼女の腕を掴んだのだ。
そして力強く、闇の底から引き上げていく。
それはまるで、絶望を希望へと変えていく、一筋の光のように見えたのだった..
メイクを終えた私は、最終チェックで鏡を見ると、当然のように自分の顔が映る。
しかし鏡に映る自分は、本当の私なのだろうか。
鏡の中の私は、鏡の世界の私であって、今の私ではないようにも見えてくる。そう思うと鏡の私が、全てを見透かしているように感じ、じわじわと怖くなってきた。
急いで鏡の扉を閉めた私は、直ぐにそれを忘れようと身支度を再開させる。
しかし、急いで閉められた扉は閉めきれていなく、若干隙間が出来ていた。そこから何故か、映って居ないはずの彼女の顔があり、ニヤリと笑いこちらをじっと見つめていたのだった...
今日も1日があと少しで終わる頃、眠りにつくまえに私と彼はいつも、何気ない会話を楽しんでいた。それもいつしか日常のルーティンとなっており、それがない夜だと寂しくなってしまうくらいだ。
そして、一通り話し終えた私たちは、おやすみと言いながら身を寄せ合い眠りにつく。
そんな2人を大きな満月が、優しく見守るかのように淡く照らしているのだった。この幸せがいつまでも続きますようにと...
人間は寿命が短い。俺のと比べればほんの僅かだ。
だからこそ懸命に生きている様は、見るに耐え難くなる。
そこにいる彼女もそうだ。短い一生の中、誰かのためにと一生懸命になっている。何をそんなに他人に尽くし、奉仕するのか未だに分からない。
だが何故が、その姿に惹かれてしまう自分がいる。
弱音事も吐かず、いつも笑っていて眩しいくらいに輝く様は、俺がいた場所では到底考えられなかった光景だった。
だからなのだろうか..彼女の寿命が尽きるまで、その姿を傍で見守っていたい。人間相手に永遠はないが、そう思ってしまう。我ながら滑稽な姿だが、彼女の為ならばそんなのは関係ない。
「なに物思いにふけてるの?」
「..なんでもない、昔のことだ。そろそろ帰るぞ」
はいっと返事とともに出された手を握り、いつもの道を歩き出す。この変わらない温もりを、いつまで感じていられるのだろうか。守っていられるのだろうか。
そう思いながら見上げた空には、大きな満月が自分たちを照らしていた。まるで2人を見守っているように...