一緒の場所にいることになった人みんなと、うまくいくということは、なかなかない。何となくソリが合わないとか、お互いに絶対折り合えないなとか思うこともある。
でも、そこで出会えたということは、やっぱり縁がある人なのだ。一緒に過ごすうちに、そこにいるのが当たり前で、そういう人だと思って受け入れていたりする。
そのうちに、なんだか妙な一体感が生まれている。気づいたら、けっこう強固なエネルギーで、ふわっと包まれているのだ。
「絆」
スーパーに行くと、二階でセールをやっていた。普段一階の食料品を買うばかりで、あまり上には上がらない。たまには行ってみようかと思った。
エスカレーターで上がると、20%オフの、のぼりが見えた。衣料品や日用品が通路のほうまで並べられている。アクセサリーのコーナーが目に入った。コサージュや、ネックレスなどが、手頃な価格でたくさんある。
その中の小さなブローチが気になった。パールが丸く散りばめられている。手にとると、照明が当たってパールの土台の金色の部分がキラキラ輝いている。鏡の前で胸元に当ててみた。いつものカーディガンが、ちょっとだけ良いものになった気がする。心なしか、顔まで明るく見える。
ん、買おう。何か特別なセレモニーがあるわけではない。普段にこそ、どんどん使おうではないかと思うと、妙にうれしくなって、ブローチをレジに持っていった。
「たまには」
すれ違った人から懐かしい香りがして、思わず振り返った。もちろん違う人なんだけど、君からいつも漂っていた。キリッとして、さわやかな輪郭が残るその香りが、とてもよく似合っていた。
君のことが大好きだったころ、うまく思いを伝えられなかった。いざ二人になると、妙にカチコチになって、自分らしくいられなかった。どこか無理をしていたのかもしれない。
でも、とても魅力的だった。今はその思いがすてきな面影になって、心の奥にしまってある。
「大好きな君に」
雛人形をいつから出さなくなっただろうか。ミュージアムや店先で飾ってあるのを見るくらいになった。今は、精巧にできた人形や、調度品の細かい細工を楽しむことができるけれど、小さいころはどのくらい分かっていただろうか。
それよりも、ちらし寿司や、お菓子のほうに心を奪われていただろう。この頃になると、お店に桜の香りが漂う桜餅や、お団子が並ぶ。その香りと優しい色合いに、思わず心がおどる。3月3日は、春の訪れが感じられる桜餅を買って帰った。
「ひなまつり」
家のドアの前で、鍵を出そうとする。ん? バックの定位置にない。あっと思う。訪ねた友人の家で、バックを落としたのを思い出した。その時、どこかへ転がったのかもしれない。友人は、泊まりがけで出かけるって言っていたから、もういないだろう。
そうだ、大家さんだ。一階の大家さんのところへ行き、ドアのベルを鳴らす。あれ? いない? 部屋の灯りはついている。ちょっと出掛けただけだろうか。
とりあえず、郵便受けがある横の棚に座って待つことにした。もし、大家さんが帰ってこなかったらどうしよう。どこかで泊まる? 悶々と考えていた。外から風が冷たく吹き込んでくる。
すると、塀の隙間から見慣れた上着がちらっと見えた。助かった! 「あれ、どうしたの?」。小さな袋をぶら下げた大家さんの姿を見ると、全身の力が抜ける気がした。
「たった一つの希望」