NoName

Open App

 たまたま一緒になった時に、おもむろにカバンの中から取り出した小さな箱を渡された。「ん、何?」。「この間の旅行のおみやげ」。箱を眺めていると「それ、向こうの限定なんだよ」。だから、大切に使えといわんばかりの雰囲気で言ってくる。それでも、君からプレゼントをもらうことがうれしくて、笑顔でお礼を言った。

 家に帰って箱を開けてみると、日本ではあまり見かけないような明るい色の口紅だった。何だか良い香りもしてくる。異国の雰囲気だなあと思いながら、リップクリームで調節しながらつけてみた。悪くないかもしれない。普段は選ばない色だから違和感はある。まあ、もし使えなくてもこれは大切に持っていたいと思った。

 次に会った時「この間の使ってみたよ」。すると驚いた顔をして「え、使ったの?」。もしかして、他の人にあげようとしていたのかななんて、疑念が浮かんできた。「よく分かんなくて、すすめられるままに買ったからさ」。そういう君の口元がほころんでいた。それを見ると、うれしくなってきた。「今度つけてこようか?」。「いいよ、別に」とぶっきらぼうな顔をするのも君らしかった。


「贈り物の中身」

12/3/2025, 6:08:15 AM