あの引き出しの奥深くにそれはある。
もう会うこともないだろうと思っていたけれど、心のもやもやが晴れなくて、手紙を書いてみようと思った。もちろん出すことはない。
本人を前にしては言えなかったことを、手紙には正直に書こう。それなのに、いざ書こうとすると相手が読むわけではないのに進まない。何だかまどろっこしい表現をしてしまう。妙に冷静になってかっこよく書こうとしたりする。もう正直に思いのたけを書いたらいいのに。
なんとかがんばって書き上げると、それを丁寧に封筒に入れて封をした。それからあの引き出しの奥にしまった。それだけだけど何となく心の踏ん切りがついた気がした。
それからあの封筒を取り出したことはない。時が経ち、その時のこともだいぶ忘れて、楽しかった時のことをぼんやりと思い出すだけになった。
「秘密の手紙」
12/5/2025, 8:19:46 AM