moon 《設定パクリ厳禁》

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9/27/2024, 10:48:38 PM

「うワー降ってきたね」
「ですね」
さっきから危うげな色をしていた雲が、ついに耐えきれずに雨を降らしだした。
「シンって『傘』使えたっけ」
『傘』はその名の通り雨に濡れないように全身を覆う魔法だ。
「使えますけど…シューさんが私の分までやって下さいよ、魔力余ってるでしょ」
「余ってるとは言いかたがワルイなー…あ、でも折角だからワタシの特異性質をお見せしよう」
フッフッフと笑うシューさん。機嫌が悪いと私の分をやってくれないどころか自分で魔法をかけようとしていると妨害してくるので、今日は大当たりだ。

で、彼女の特異性質…と言ったら、主人資格〈マスターキー〉、または聖人素質と呼ばれるもので、簡単に説明すると「願えば叶う」能力。
普通の魔法は炎を出すにも、大きさ、色、温度、形、魔力から炎を精製するイメージなど色々な事を考えなければいけない。
でもシューさんの場合、「焚き火がしたいなー」
と思うだけでそれが叶うらしい。
便利!すごく便利!
「じゃーヨク見ててね」
「はい」
《あーワタシ雨に濡れるの嫌だなー》
彼女の体が光に覆われた。
「おおおおー」
「スゴイでしょワタシの魔力さんはトテモ賢くて優しいんだからね」
そう言うと、シューさんはいそいそとバッグを持ち直した。
「じゃ、先に帰ってるね!」
「え」
手元を見ると、光がない。そういえば私には『傘』をかけてくれてなかった…。

「ちょ、ひどいですよシューさん!」

9/25/2024, 10:59:56 PM

窓の外を見ていた。
「なんかあった?」
「ううん、最近窓の外見なくなったなと思って」
見ていたけれど特に面白いものはなかった。
「でもそういえば昔は、私が窓の外見ててもイグは何も言わなかったよね」
「確かに…」
どうしてだろう。
今より仲がいいわけでもなかったのもあるだろうけれど。
「ムン毎日のようにつまんなそうに外見てたから、わざわざ訊かなかったんじゃないかな」
「そうかも」
楽しくなかったんだ。あの日々が有意義なものとは思えなくて。私はなにをしているんだろうという気分でとても窮屈だった。
外の人々は何をしてどう生きているんだろう。それを探すように外を見ていた。

私の代わりとなったあの人は、窓の外に私のかけらを見て何を思うだろうか。

9/23/2024, 11:07:58 PM

「うおおおおおお!」
「…そんなに凄い?」
ゆっくり話したいから、ムンを公園に連れてきた。すると遊具を見てムン(20)が叫び出した。
「こっちの世界の公園ってこんなカラフルでつるつるなの?遊園地じゃんこれ」
「確かによくできてるよね」
遊んでくる!と彼女はダッシュして行ってしまった。
「あ、ちょっと!」
これが保護者の気分か…。
ベンチにいてもすることがないのでとぼとぼ着いていく。

「これ何!?」
「鉄棒だね、持って回ったりするやつ」

「これは?」
「ブランコ。上乗って揺れる」

「なななにこの幾何学的な遊具」
「ジャングルジムだね」
うおーすごい!木登りしてるみたいで楽しい!とはしゃぐムン(20)。
「私達、木登りなんて絶対できなかったじゃん」
脈絡なくそんな事を言ってきた。
「ああ、よく言われたな、『木に登るなんて…はしたない』」
…そうか、ムンは今特殊過ぎた幼少期をやり直しているのかもしれない。思えば彼女はずっと自由を希求して見えた。
北からの風で、彼女の白い服がはためく。
肺は風を食んだ。

9/22/2024, 1:11:50 PM

声が聞こえる。

俺は能力者と呼ばれていて、いわば霊能者とか巫子とか。そういう部類のちょっと変わった人間。
だから色々見えたり感じたりするわけだけれど、「あの声」だけは正体が分かっていない。

俺には兄が2人いて、そのうちの上の兄さん、リシャメンといるときに「声」が聞こえる。
気になりすぎているので、今日は正体を突き止めて行こうと思う。
「リシャ」
「どした」
「『声』と話したいんだけど…」
「あーなんか聞こえるんだっけ、いいよいいよ。おれもちょっと怖いし正体聞いてよ」
そう言いながらリシャはちっとも怖そうじゃない。強いのだこのひとは。

「声さん、こんにちは」
〈えへへ、おはよう!おはよう!〉
声さんはこのように気まぐれに喋る。声質的には女児のようだけど、そうだとしたらリシャ兄さんがロリコンの上何か因縁があって兄さんが声さんを殺してそして魂が取り憑いた…という予想ができてしまうが…。
「リシャ…ロリコンだっけ」
「待て待てなんでそうなった」
焦る兄。
「声さん、あなたの名前は?」
〈ない!ないよお!〉
うーむ分からない…。
「じゃあ、取り憑いてるこの男の人とはどういう関係なのかな?」
複雑そうな顔のリシャ。
〈ええ、このひとー!?この人はね、この人はね、すきなひと!!すきなの!!〉
「好きな人?」
〈だいすき!だってイケメーンだもの!〉
「…ちなみに、この人に殺されたりした…?」
ぶんぶん首を横に振るリシャ。
なんか怪しいんだよなあ…。
〈ころされ?あはは殺されてなんてないよお!イケメンだから取り憑いちゃったったったのよ!あたし妖精なんだけどね!サボって隠れてるのお!〉
なるほど。
姿を見せないわけだ。声さんは、仕事をさぼってイケメン鑑賞をしている妖精らしい。

「……声の人なんだって?」
「リシャごめん、ただ妖精がイケメンだから取り憑いちゃっただけらしい」
「なんだよ!何もしてないはずなのにめっちゃドキドキしちゃったじゃん」
俺も兄が変態かもしれないと思ったら変に緊張してしまった。
「モテるねえ」
「はいはい俺顔がいいですからね」
むかつくなあ。

〈あたし追い払われる?めいわく??〉
「ううん、そこにいていいよ。いいよねリシャ」
「お、おおん…」
恐らく嫌なのだろうがしぶしぶ頷く兄。よし。
「ほらイケメンもいいってよ」
〈やった!やった!すきすき!!じゃあじゃあ、友達も呼んでくるね!!〉
「え」
「え?えって何イグ怖い何何」

残念ながら、その日から声が増えた。

9/22/2024, 12:29:04 AM

それは秋のこと。
「香欅と玻璃と転美を5つづつ下さい」
フルートのような声、薄い金髪、藤色の奥が見えない瞳、柔らかそうなくちびる、細いが骨は出ていない美しい腕、ほのかに香る果実酒のような匂い、財布を取り出すその動作、人間離れしたその雰囲気。
その人は神のように美しかった。
「……?」
動かない俺に、彼女は首を傾げる。
…いや可愛…じゃなくて!
「す、すみません!全部一緒でいいですか?」
「はい」
果実を包んで渡す。ぼーっとしていたからな…これであっているだろうか。
「…あの、中身間違っていたかもしれないので確認いいですか?」
「私も見ていましたから。大丈夫ですよ」
「あ、そうですか…ヨカッタデス」
あっさり断られてお金を受け取る。
「あの!また来て頂けますか?」
何もうまくいかなかったのになんて図々しい質問だろう。
でも彼女はにこっと笑った。
「ええ、きっと」
それが、霧のような彼女との始まりだった。

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