「周りの魔法は!?」
「えっと、全体に魔法感知、奥に生命探知、1番奥は魔法感知して自動で閉まるようになってる扉みたいなのがあると思う」
「いつも通りってとこだな、ブチ破るぜ」
「うん!」
俺は長く怪盗をしているが、ここ5年程で助手をつけるようになった。
あ"?勿論腕がなまったからじゃねえよ、魔法の位置が分かると好きに暴れられてクソ程楽しいって分カったからな。
スリルを楽しむ頭のネジ外れた怪盗達とは一緒にしネェで欲しいぜ。俺は堅実にボコしてぇんだ。
ンでその助手ってのがこのユマ。チョっと前まで姉貴に頼まれて保護してた3人のガキの1人だったが、こいつは俺の手伝いをしたいって家出てかなくてよ、じゃあ役に立てよとこうして連れて来てる。
どうなっても自己責任だカらな!
「あの、あの、ちょっと速くて…っ」
「あ?固定してあるんだから落ちねェよ静かにしてろ」
「だ、だけど怖くて…」
はァ…マジかよコイツ面倒クセえな
「あの、あの、ちょっと速くて…っ」
ユマは、ダイルさんに抱えてもらって移動している。どうせ戦闘が始まると毎回そのへんに放り出されるのだけど、体温が伝わってくるし声に吐息が混じるし、とにかく近すぎて緊張してしまう。
それに合わせてこの速さ!心臓バクバクで頭ぐるぐるしてしまう…。
「あ?固定してあるんだから落ちねェよ静かにしてろ」
小声ですみませんっ、と謝る。
「だ、だけど怖くて…」
チッ、と舌打ちが聞こえて体がビクッとした。めんどくさくてごめんなさい。もう付いてこなければよかった。
ギュッ。
え?
腕の力を強くしてくるものだから、ユマはもう今日が命日なのかと思った。
「ちゃんと掴まってろ!」
大事にされているのかな。
…でも、ユマの心臓はもうだめかもしれない。
世界三大不可能魔法、貴方は3つ全部言えるだろうか?
まず、命の魔法。
煌々石で擬似的な魔工知能は作れても、魂の出来とは比べ物にならないし、特定の相手の魂を作ることはできない。
次に、無の魔法。
魔法で何かを作り出すことはできても、物質を消すことはできない。これにより人を一瞬で消したりはできないのである。
最後の1つが、時の魔法。
過去へ遡る、または時を止めることが出来ない。ちなみに未来へは行けると分かっているらしく、それでも戻って来れないならたくさん寝た後と変わりないんじゃないかと思う。
なんていう風に思いを巡らせているが、私は今お皿洗いをしている。バイト中だ。お金がほしい。
そして今、お皿が手から滑り落ちたのを認識した。ちょうど…「世界三大不可能魔法」について語り出した頃だ…。
これ怒られるよね…。…うん、だよね…。
本当に思う。時よ止まれ。
でももしかしたらこの一瞬でここまで思いを巡らせたことは、時が止まったと言っても過言ではないかもしれない。
とか思って。
ガシャーン
「おい!また割ったな!!!!」
ムルがいなくなってから、窓の外を見ることが増えた。
貴族も王族も同じようなものだと思っていたが、割と違うんだと分かる。行動が制限される時間が圧倒的に増えた。
自分のために動く貴族と、国のために動く王族か。ムルも大概自分のことしか考えていなかったが、やはりかなり自由が奪われていたのだ。彼女も彼女なりに頑張っていたのだ。
窓の外を見るようになったのは……どうしてだろう。
手が届かないものを想像して手に入れようとするからか。
あの家にはきっと恋人とペットが住んでいる、あの家では大家族が大皿をつついている…。
思えばムルも、黙って窓の外を見ていることがあった。
そんなことを思っていたら、夜も濃くなってきた。
無数に見える家からは電気の光が漏れている。
「『ムル様』、そろそろ」
「あー、そうだね。今行くよ」
彼女はもう戻らないだろう。今では俺がムルだ。影武者として雑すぎて笑えてくるが、きっとやり遂げる。
あの明かりの中に、彼女は居るだろうか。
小さい頃から、何かと付けて大きな花畑に連れて行かれた。
そこでなにか生産的なことをするわけでもなく、ただニコニコして花を見ていればよかった。
そんな事もあって花は嫌いだ。彼らは美しいかもしれないけど、到底私の美しさには届かない知能のない美しさだから。
その考えは今でも変わっていないけれど。
「ん、今日は満月だ」
その日ホテルのカーテンを開けると、白い花畑の先に大きな月が浮かんでいた。
月光で白い花畑が道のように見える。
美しいと思った。
いいや花のことではなく、美しさの真ん中にあるのは紛れもなく、花畑を見下ろし微笑む月。
月を愛すなら、花もいつか好きになれる気がした。━━━━━━moon《設定パクリ厳禁》
その日。
全世界に向けて魔王から、「逆鬼根絶」が宣言された。
「逆鬼?」
「イカれた鬼だよ、根絶か…まあそれが安全なんじゃね」
「120万匹くらいいるらしいけど…」
「魔王が動くんだ、まあ絶滅じゃねえの」
「鬼の権利って認める方向だったよね?急になにがあったんだろ…?」
その宣言は少なからず、世界中の人々を動揺させた。
そしてその宣言はもちろん、私達の耳にも伝わってきた。
「逆鬼…根絶?」
「え、僕…」
ヨアは、逆鬼の証拠であるグラデーションの角に不安そうに触れながら、号外記事を見つめた。
「…っ駄目だよ、殺させない」
「ニュー」
「だって、そうじゃん!私達頑張って共生の道を探してるのにこんなのってない」
グッ、と息を飲む。
「魔王だって…いい人だって聞いたよ、きっと分かってもらえる」
「そう…だよね、そうだといいな」
いつの間にか暗雲が空を覆っていた。
灰色の雲に混じって、ほとんど見えない夕日の光が反射した赤い雲が空を下げている。
生ぬるい化物の吐息のような風が私達を舐めて息が詰まる。
心臓がバクバク音を立てだして、それに共鳴するように遠い空からザアァァァという音が近づいて来た。