kiliu yoa

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1/23/2024, 3:18:05 PM

「オレを見て。」

あなたは、オレに背を向け、去ってゆく。

 オレだけを見て。

 なんで、あなたは他のヤツを見るの。

 ありのままのオレを見てくれるのは、あなただけなんだ。

 オトコだけど、かわいいものが好きで、きれいなものが好きで、

 オンナのコみたいな、かわいい格好が好きで、オトコは恋愛対象じゃない。

 でも、オンナになりたいわけじゃない。

 そんなオレを受け入れてくれたのは、あなただけなんだ。

 だから、他のヤツを見ないで。

 オレのことを見て。

「オレだけを……見てくれよ。」

 涙が零れる。


目が覚めた。

眩しくて、目を細める。

あなたは、オレのとなりに座っていた。

あなたは、微笑む。

優しい眼差しをオレに向ける。

そして、優しく抱きしめられる。

「怖い夢を見たんだ。」

「そうなのね。」

「うん、あなたが去ってゆく夢を見たんだ。」

夢みたいに、オレの置いて、去ってゆくようで、

あなたの顔を見るのが少し怖かった。

視線を上げられなかった。

「わたしは、貴男のもとを去ったりしない。

 だって、貴男を心から愛しているから。」

「ありがとう。」

嗚咽がとまらなかった。

安堵や嬉しさが混ざった、感情が溢れてきた。


言葉には表せられない、あなたを深く愛している理由が

今、分かった気がした。












1/22/2024, 3:52:35 PM

「もし、時間を遡れるならば何をしますか。」

「うーん、別に何もしないんじゃないかな。

 というか、時間が巻き戻るなら記憶無くなるから、何も出来ないよ。」

「記憶が保てるなら、何しますか。」

「うーん、やっぱり別に何もしないかな。

 だって、その後悔が無くなったら、もう、それは自分じゃないよ。

 私は後悔から失ったものより、得たもののほうが多いんだよね。

 それに失って、初めて、その有難みに触れることも在るよ。」 


「代々一族の腐敗を防ぐために、自ら血縁者を殺す一族の出の方は、

 やはり、一味違いますね。」

「なに、それ、嫌味か。」

「いいえ、違います。一般人の私より、深い回答だと感じたのです。」

「いや、お前はどう考えても、一般人じゃないないだろ。」

「あなたよりは、一般人側ですよ。」

「たしかに、そうだな。」


 





1/20/2024, 2:48:04 PM

望まぬ、最期。

肺の空気は、もう無い。

荒波に呑まれ、船は沈んでいく。

口から空気の泡が溢れて、上へ上へと登ってゆく。

美しい。

なんと、美しいのだろう。

青く澄んだ海の中から見る太陽は眩く輝き、

空気の泡は白く透明な丸い水晶みたいだった。

今生に悔いが無いと言えば、嘘に成る。

しかし、これほど美しい光景を最期に見られたのだ。

ならば、もう生を諦めて良いと思えた。



1/18/2024, 4:51:28 PM

白い布手袋をはめる。

壊れぬように、破れぬように、慎重に手記を開く。

この手記は、貴族の邸宅の地下室から見つかった。

保存状態は極めて良く、日光、湿気、乾燥などからも守られていた。

ターコイズグリーンに染められた皮の背表紙、当時の最高品質の紙、

エメラルドグリーンのインクで記されていた。

この手記の著者は、とても裕福だったことが伺える。

記さている言語は多岐に渡るが、恐らく同一人物だと思われる。

根拠としては、ラテン文字や漢字などに共通の僅かな癖が在ったことから。

全体的に文字は、とても洗練された柔らかい文体。

この文体から、女性だと思われる。

ごくありふれた日常の出来事が記されており、

交際関係は、とても華やかで複数人とそういう関係に在ったようだ。

そして、驚くべきことに最も多い内容は子どもに関してのものだった。

子どもの成長、子どもの可愛いさ、子どもの将来について、などなど

様々な子どもに関する内容が、この手記のおおよそ八割を占めていた。

子どもと過ごす時間は少なかったみたいだが、

子ども一人ひとりに関する情報量がとても多い。

実子と養子合わせて、数十人分の描写が細かく、一人ひとり記されていた。

そして、手記の表紙の見開きには『大切な日々の記憶』と記され、

手記の裏表紙の見開きには、

『世界一の宝物たちへ 世界一の幸せものより』と記されていた。

この手記の内容を解読し終わる頃には、みんな涙で顔がぐちゃぐちゃだった。

この手記の著者たる彼女は、家族のことを心から愛し、

家族たちもまた、彼女のことを心から愛していたことが伝わってきた。

こんなにも暖かく穏やかな手記は、今迄に類を見ないものだった。


私は、今迄どう家族と接していたっけ。

平和で、些細で、何気ない、私の歩む日々を大切にしたいと思えた。


この手記は『麗らかな手記』と名付けられ、博物館で展示されている。















1/16/2024, 1:03:16 PM

月白の髪、紫翡翠の瞳、白磁の肌、整った特徴の無い顔立ち。

『美の権化』、そんな言葉が浮かんだ。

翠色の衣を身に纏い、その手には銀の剣を握られていた。

まだ齢十二、三の童だ。

一瞬だけ、目が合った。

僅か、一瞬。

その一瞬で、殺された。

手練れの部下が、いとも容易く、首を斬られた。

あれは、到底、人間技では無い。

洗練された、剣舞のような剣術。

どれだけ人を殺めれば、あの領域に達するのだろう。














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