白い布手袋をはめる。
壊れぬように、破れぬように、慎重に手記を開く。
この手記は、貴族の邸宅の地下室から見つかった。
保存状態は極めて良く、日光、湿気、乾燥などからも守られていた。
ターコイズグリーンに染められた皮の背表紙、当時の最高品質の紙、
エメラルドグリーンのインクで記されていた。
この手記の著者は、とても裕福だったことが伺える。
記さている言語は多岐に渡るが、恐らく同一人物だと思われる。
根拠としては、ラテン文字や漢字などに共通の僅かな癖が在ったことから。
全体的に文字は、とても洗練された柔らかい文体。
この文体から、女性だと思われる。
ごくありふれた日常の出来事が記されており、
交際関係は、とても華やかで複数人とそういう関係に在ったようだ。
そして、驚くべきことに最も多い内容は子どもに関してのものだった。
子どもの成長、子どもの可愛いさ、子どもの将来について、などなど
様々な子どもに関する内容が、この手記のおおよそ八割を占めていた。
子どもと過ごす時間は少なかったみたいだが、
子ども一人ひとりに関する情報量がとても多い。
実子と養子合わせて、数十人分の描写が細かく、一人ひとり記されていた。
そして、手記の表紙の見開きには『大切な日々の記憶』と記され、
手記の裏表紙の見開きには、
『世界一の宝物たちへ 世界一の幸せものより』と記されていた。
この手記の内容を解読し終わる頃には、みんな涙で顔がぐちゃぐちゃだった。
この手記の著者たる彼女は、家族のことを心から愛し、
家族たちもまた、彼女のことを心から愛していたことが伝わってきた。
こんなにも暖かく穏やかな手記は、今迄に類を見ないものだった。
私は、今迄どう家族と接していたっけ。
平和で、些細で、何気ない、私の歩む日々を大切にしたいと思えた。
この手記は『麗らかな手記』と名付けられ、博物館で展示されている。
1/18/2024, 4:51:28 PM