『生とは、考えるものでは無い。』
優秀で、稀代の天才と謳われた父は言う。
私には、分からなかった。
そうは、到底、思えなかった。
父の話す言葉は、別の言語のように反響する。
そして、私は突きつけられる。
父を越えられぬと、父には及ばぬと。
だからこそ、嫌いだ。
あの父が。
父の才覚、能力は、私は受け継げ無かったのだ。
そう言われている気分に成る。
父の家臣も嫌いだ。
目に見えて、私を軽んずから。
何故、私はこの家に生まれ、
何故、母は私を優秀に産んでくれなかったのだろう。
生について考えずには、私は居られない。
私とは、何故、生きているのだろうか。
母は、いつも何を見ているのだろう。
私を見ているようで、いつも遠くを見ている人だった。
愛している、大好きだよ。
そう言ってくれる、優しい母。
でも、何で私と目が合わないの?
いつも、そうだ。
貴方は私の母だけれど、私を見ている時は一瞬だ。
貴方は、何を見ているの?
何で、導いてくれないの?
何で、いつも、私を一瞬しか見ないの?
お母さん、貴方は本当に私を愛しているの?
ねぇ、答えてよ。
最期に、教えて欲しかった。
横たわる母に、私は縋り付く。
今日、母の顔に白い布は掛けられた。
貴方無くして、世界は語れず、
貴方無くして、幸福は得られない。
きっと、私は貴方に魅せられ、酔い痴れた。
嗚呼、美しき人よ。
誰よりも、愛を知る人よ。
貴方の世界は、全てが素晴らしい。
貴方に出逢えた事。
それは最上の幸せにして、最大の苦しみ。
貴方を見れば、私は揺らぐ。
貴方こそ、私の人生。
貴方を想わずして、誰を想おうか。
自ら、利き手を赤く染めた時、それは案外忘れられないものである。
道具を通し伝わる感触、錆の香り、響く音。
それらは、今でも鮮明に焼き付いている。
酷く懐かしいが、酷く面倒な記憶だ。
時に、その記憶が私を襲うのだから。
当時は、何を思ったのだろう。
それだけは、抜け落ちたように思い出せなかった。
これ以上、面倒が増えなくて良いが、稀に気になるものである。
かつての記憶とは、時に大切な事を思い起こせるものだから。
側に居て、誰よりも長く。
手を離さないで、私を見ていて、すぐに行かないで。
愛して、想って、じゃなきゃ、私は生きていけないの。
ねえ、貴方、私を愛してくれるのなら、私を見て。
その優しい眼差しを、あの人たちに向けないで。
しっとにくるってしまうから。
お願いよ、貴方。
誰よりも愛しているから、私だけを見て。
去らないで、行かないで。
約束して、また会えると。