私の夢は、主君にあたる少年を支えることだった。
彼は、繊細で誠実で寛容な人で、
貴族らしい装いと貴族らしい立ち振る舞いが似合う人で、
貴族らしく、青白い肌をしていた。
心から人文知を愛し、平和を愛する人だった。
しかし、それは時代と生まれる家が許さなかった。
この移ろう時代に戦は頻発し、この厳酷な家は度々戦に駆り出された。
彼も、また多くの戦場を幼いながらに経験した人だった。
幸いか不幸か、彼には武の才覚と軍師としての頭脳、人望があった。
だからこそ、皆、見えて居なかった。
彼の心身ともに限界を迎えたことに、また、彼が上手く隠していたことに。
幼き頃からだ、彼はいつも数多の薬を服用していた。
その上で、彼という像は成り立っていた。
私も彼も、薄々勘付いていた。
彼がもう長くは保たないことに。
そして、彼の父たる辺境伯もまた、感じていた。
だから、辺境伯から彼を殺して欲しいと命じられたのだろう。
私は、彼の意思を問うた。
「生きたいですか、死にたいですか。」
すると、彼は絞り出すように言った。
「やはり、父は僕を愛しているんだね。
君の手で、僕の命を絶ってはくれないか。
僕はもう、演じることに疲れてしまった。
この家の後継には兄が、僕の後継なら君がいる。
あとは、頼むよ。」
私は応えた。
「承知しました。」
私は、彼に銃口を向ける。
「寂しいから、手を繋いでくれないか。」
彼は私に初めて甘えた。
「喜んで、お繋ぎします。」
私は彼に応えた。
彼は、ベッドに横になり、目を瞑る。
そして、彼は呟いた。
「美しいエデンよ、さようなら。」
私は、その直後、引き金を引いた。
彼のシャツは赤く染まり、私の目は赤く染まった。
私の夢は、いつからか、彼を救うことに変じていた。
6/23/2025, 11:43:32 AM