kiliu yoa

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11/5/2023, 11:22:18 AM

『希望とは、なんと都合の良い言葉だろう。』

内心、わたしはそう思う。

「貴女は、私の希望だ。」と、男に口説かれた。

わたしは、希望の言葉が嫌いだ。

でも「ふふふ、ありがとう。」と、聖母のような眼差しと微笑みを返す。

そうすると、大抵の男は赤面する。

チェス盤に駒が増えた。

そう思えば、どんな不快な気持ちも殺すことが出来る。

皮肉にも、わたしの名に篭められた意味は『希望』だった。

綺麗な容姿だけが取り柄の、仕返しの出来ない、怯えることしか出来ない、

母のような女に、わたしは成らない。

あくまでも、主導権を他者には委ねない。

希望など、無責任に託さないで欲しい。

もう、いや。

もう、生きるのに疲れた。

だから、死ぬまえに最も接点の無かった異母妹をピクニックに誘ってみた。

厳密には異母妹では無い、長兄のお気に入りの彼女と話してみたかった。

彼女は、わたしのはなしを時々頷きながら、静かに聴いてくれた。

彼女は、そよ風みたいな人だった。

涼しくて、優しくて、穏やかな雰囲気を纏っていた。

だから、だろう。

今まで誰にも話さなかったことまで、口から出ていた。

自分を殺すことに疲れた、と。

いつまで生きればいいのだろうか、と。

そしたら、彼女は何て言ったとおもう?

「そうか。」

この一言だけだった。

でも、何故か、鼻の奥がツンとして、堪えようとしたのに、

瞼から涙が零れ、頬をつたい、流れた。

この一言には、言葉では表しきれない、彼女の『なにか』を感じた。

気づいたら、彼女はわたしの背後に回り、背をを向けて座っていた。

その気遣いが、なによりも嬉しくて……、また、涙が零れた。

ありのままのわたしを、受け入れてくれる人が居た。

ああ……やっと、分かった。

少し、明るい未来を信じよう。と、思えた。

たぶん、これが、きっと、『希望』なのだろう。















11/2/2023, 3:40:19 PM

金髪碧眼、それは彼ら一族を象徴する、

王家に準ずる家格と貴き血筋を顕わしている。

稀代の名君と云われる、ノース、北の主君。

それが彼の肩書。

わたしの隣で眠る人は、貴き血筋のもとに生まれた人。

強く成るしか、早く大人に成るしか、生きることを許されなかった人。

たった一人で多くの業を背負い、たった一人で多くの命を背負う、

主君としての並外れた技量と天賦の才を有する人。

多くの女たちを魅了し、多くの女たちを泣かせ、多くの女たちに依存する、

矛盾を抱える、弱き人。

わたしは、あなたの妻。

わたしは、決してあなたに魅了されない。

わたしは、決してあなたに泣かされない。

わたしは、決してあなたに依存させない。


強くない、男らしくない、ありのままの、弱きあなたを

受け入れ、支え、見守る。

それが、わたしに出来る、あなたの妻としての役目。

見返りなんて、いらない。

なんでって?

あなたを、心から、なによりも愛しているから。




10/30/2023, 1:28:55 PM

若き美しい青年は、故郷の処刑台に立たされる。

今世紀、彼は最も重い罪を犯したと報じられた。

「イースト、東の主君よ、最期に言い遺すことは在るか?」

見物に訪れた民衆の中には、すでに涙を流す者がちらほら居た。

「この地に暮らす人々よ、どうか、この愛する…美しい故郷を頼みます。
 
 そして、これだけは忘れないでほしい。

 この地を統治できて、私は本当に幸せだった。今まで、有難う。」

 彼は、穏やかな優しい笑顔で……そう言った。

 その直後のことである。

 民衆の一人が、声を上げた。

「その人を、殺すな!」

「その人は、この地をずっと守ってくれたのよ!」

「いつも、わたしたち民の声に耳を傾けてくれた!」

「やっぱり、おかしい!何故、名君が殺されなきゃいけないんだ。」

「静粛に!」

「「「そうだ!」」」
「「「そうよ!」」」

多くの民衆が、声を上げた。

裁判官が声を荒げても、民衆は怯むどころか、反旗の声は増すばかり。

裁判官たちは、この時、気が付いた。

この地の民衆には、彼が必要不可欠だと……。

何よりも民を優先する、名君だったことを……。

「処刑を中止する!」

 一人の裁判官が、そう叫ぶ。

「貴様、正気か!何を言っている!本国を裏切る気か!」

 別の裁判官が、激怒した。

「ああ、そうさ!この度の件の責は、全て私が取る!」

 あの、一人の裁判官が、そう宣言した。


 イースト、東の主君。

 彼は、後に歴史に名を刻む。

 未来の多くの人々に愛され、受け継がれる……名君と成った。





 









10/29/2023, 10:47:49 AM

もしも、なんて都合の良いものは無い。

亡き父を責める悪夢を見て、私は自分に言い聞かせる。

過去に縋るのも、未来に縋るのも、……見苦しい。

分かってる、もう……父は、此の世界には、いない。

父を責めることで、自分の弱さから逃れようなんて、馬鹿らしい。

やはり、いつに成っても、親の器に私は甘えたいのだろうか。

親離れが出来ない、未だに幼い自分に腹が立つ。

大人に成るのを急いだ代償なら、なんと滑稽だろう。

自分の選んだ……過去に選択した積み重ね、其れが人生だ。

紛れもなく、今の自分は……生き様は……過去の選択の結果に過ぎない。

『他者のせい』にするのは、一時は良いが……もう、こりごりだ。

私は、自分の保身に走った。だから、今も生きている。

父のような愛情深さも、父のような勇気も、父のような覚悟も、

私には無かった。

相棒であり、親友であり、最も心許した家族で在り、

異母弟の彼のような芯の強さも、私には無かった。

父のように成りたくて、異母弟のように成りたくて、

でも、かつての私は成ろうと、努めようともしなかった。

父も異母弟も疾うの昔に、この世を去った。

 今、私は決する。

もしもなどという……幻のもうひとつの物語を、もう抱かないと。












10/27/2023, 3:58:59 PM

 この匂いは、アフタヌーンティー。

 この匂いは、わたしの思い出が詰まっている。

 おばあさまとおかあさま、いもうとにわたし。

 わたしは、このひと時が何よりも好きだった。

 そう、愛する貴男のように。

 だから、貴男と婚姻が決まった時は本当に嬉しかった。

 でも、貴男には誰よりも愛する方がいた。

 やっぱり、現実は物語のようには……いかなかった。

 貴男の愛する方は、もう……別の方と婚姻が成立したのに。

 貴男は、一向にわたしを見てくれなかった。

 愛してるわ、誰よりも……深く、愛してるわ。

 だからね、貴男の愛する方に逢ってきたの。

 ちょっと良いホテルで、アフタヌーンティーをしたのよ。

 貴男の愛する方は、本当に完璧な人だった。

 わたしが見てきた、誰よりも凛々しく 中性美を纏った方だった。

 わたしに敵う隙なんてないほどに、完璧な方……。

 あの方は、たくさんのわたしの話を聴いて下さった。

 『あなたほど、彼を側で支えられる人は居ないさ。』と。

 わたしは、すぐには…とても、信じられなかった。

 あの方は続けて、こう仰られたの。

 『彼は、もうすぐ気づくだろう。あなたの有難みを……。

  あなたは、聡明で愛情深い方だ。

  貴族としての素質に意識、何より……民を思う心をお持ちだ。

  そして、夫を想う妻としても……あなたは素晴らしい。

  だから、きっと大丈夫。 話してくれて、有難う。』

  と、凪のように優しく穏やかな声だった。

  最後には、涙が溢れてしまった。

  感情の波を抑えるのには、慣れているはずなのに。

  絹のハンカチを差し出され、

 『お恥ずかしいながら、私はこのような話が出来る友人はいないのです。

  もし、よろしければ こうして、また逢いませんか。』と。

 『はい。』と、わたしは泣きながら応えた。

  あの後、貴男にわたしの気持ちを打ち明けたら

  少しずつ……、わたしのことを見てくれるようになった。

  今では、夫婦仲は円満で 家族仲も良くなった。

  彼女とは、今でも交流は続いている。

  あの時、見知らずの…頼ってきた わたしを受け入れてくれて、

  背中を押してくれた彼女には、感謝してもしきれない。

  本当にありがとう。

    


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