kiliu yoa

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 この匂いは、アフタヌーンティー。

 この匂いは、わたしの思い出が詰まっている。

 おばあさまとおかあさま、いもうとにわたし。

 わたしは、このひと時が何よりも好きだった。

 そう、愛する貴男のように。

 だから、貴男と婚姻が決まった時は本当に嬉しかった。

 でも、貴男には誰よりも愛する方がいた。

 やっぱり、現実は物語のようには……いかなかった。

 貴男の愛する方は、もう……別の方と婚姻が成立したのに。

 貴男は、一向にわたしを見てくれなかった。

 愛してるわ、誰よりも……深く、愛してるわ。

 だからね、貴男の愛する方に逢ってきたの。

 ちょっと良いホテルで、アフタヌーンティーをしたのよ。

 貴男の愛する方は、本当に完璧な人だった。

 わたしが見てきた、誰よりも凛々しく 中性美を纏った方だった。

 わたしに敵う隙なんてないほどに、完璧な方……。

 あの方は、たくさんのわたしの話を聴いて下さった。

 『あなたほど、彼を側で支えられる人は居ないさ。』と。

 わたしは、すぐには…とても、信じられなかった。

 あの方は続けて、こう仰られたの。

 『彼は、もうすぐ気づくだろう。あなたの有難みを……。

  あなたは、聡明で愛情深い方だ。

  貴族としての素質に意識、何より……民を思う心をお持ちだ。

  そして、夫を想う妻としても……あなたは素晴らしい。

  だから、きっと大丈夫。 話してくれて、有難う。』

  と、凪のように優しく穏やかな声だった。

  最後には、涙が溢れてしまった。

  感情の波を抑えるのには、慣れているはずなのに。

  絹のハンカチを差し出され、

 『お恥ずかしいながら、私はこのような話が出来る友人はいないのです。

  もし、よろしければ こうして、また逢いませんか。』と。

 『はい。』と、わたしは泣きながら応えた。

  あの後、貴男にわたしの気持ちを打ち明けたら

  少しずつ……、わたしのことを見てくれるようになった。

  今では、夫婦仲は円満で 家族仲も良くなった。

  彼女とは、今でも交流は続いている。

  あの時、見知らずの…頼ってきた わたしを受け入れてくれて、

  背中を押してくれた彼女には、感謝してもしきれない。

  本当にありがとう。

    


10/27/2023, 3:58:59 PM