『希望とは、なんと都合の良い言葉だろう。』
内心、わたしはそう思う。
「貴女は、私の希望だ。」と、男に口説かれた。
わたしは、希望の言葉が嫌いだ。
でも「ふふふ、ありがとう。」と、聖母のような眼差しと微笑みを返す。
そうすると、大抵の男は赤面する。
チェス盤に駒が増えた。
そう思えば、どんな不快な気持ちも殺すことが出来る。
皮肉にも、わたしの名に篭められた意味は『希望』だった。
綺麗な容姿だけが取り柄の、仕返しの出来ない、怯えることしか出来ない、
母のような女に、わたしは成らない。
あくまでも、主導権を他者には委ねない。
希望など、無責任に託さないで欲しい。
もう、いや。
もう、生きるのに疲れた。
だから、死ぬまえに最も接点の無かった異母妹をピクニックに誘ってみた。
厳密には異母妹では無い、長兄のお気に入りの彼女と話してみたかった。
彼女は、わたしのはなしを時々頷きながら、静かに聴いてくれた。
彼女は、そよ風みたいな人だった。
涼しくて、優しくて、穏やかな雰囲気を纏っていた。
だから、だろう。
今まで誰にも話さなかったことまで、口から出ていた。
自分を殺すことに疲れた、と。
いつまで生きればいいのだろうか、と。
そしたら、彼女は何て言ったとおもう?
「そうか。」
この一言だけだった。
でも、何故か、鼻の奥がツンとして、堪えようとしたのに、
瞼から涙が零れ、頬をつたい、流れた。
この一言には、言葉では表しきれない、彼女の『なにか』を感じた。
気づいたら、彼女はわたしの背後に回り、背をを向けて座っていた。
その気遣いが、なによりも嬉しくて……、また、涙が零れた。
ありのままのわたしを、受け入れてくれる人が居た。
ああ……やっと、分かった。
少し、明るい未来を信じよう。と、思えた。
たぶん、これが、きっと、『希望』なのだろう。
11/5/2023, 11:22:18 AM