kiliu yoa

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11/2/2023, 3:40:19 PM

金髪碧眼、それは彼ら一族を象徴する、

王家に準ずる家格と貴き血筋を顕わしている。

稀代の名君と云われる、ノース、北の主君。

それが彼の肩書。

わたしの隣で眠る人は、貴き血筋のもとに生まれた人。

強く成るしか、早く大人に成るしか、生きることを許されなかった人。

たった一人で多くの業を背負い、たった一人で多くの命を背負う、

主君としての並外れた技量と天賦の才を有する人。

多くの女たちを魅了し、多くの女たちを泣かせ、多くの女たちに依存する、

矛盾を抱える、弱き人。

わたしは、あなたの妻。

わたしは、決してあなたに魅了されない。

わたしは、決してあなたに泣かされない。

わたしは、決してあなたに依存させない。


強くない、男らしくない、ありのままの、弱きあなたを

受け入れ、支え、見守る。

それが、わたしに出来る、あなたの妻としての役目。

見返りなんて、いらない。

なんでって?

あなたを、心から、なによりも愛しているから。




10/30/2023, 1:28:55 PM

若き美しい青年は、故郷の処刑台に立たされる。

今世紀、彼は最も重い罪を犯したと報じられた。

「イースト、東の主君よ、最期に言い遺すことは在るか?」

見物に訪れた民衆の中には、すでに涙を流す者がちらほら居た。

「この地に暮らす人々よ、どうか、この愛する…美しい故郷を頼みます。
 
 そして、これだけは忘れないでほしい。

 この地を統治できて、私は本当に幸せだった。今まで、有難う。」

 彼は、穏やかな優しい笑顔で……そう言った。

 その直後のことである。

 民衆の一人が、声を上げた。

「その人を、殺すな!」

「その人は、この地をずっと守ってくれたのよ!」

「いつも、わたしたち民の声に耳を傾けてくれた!」

「やっぱり、おかしい!何故、名君が殺されなきゃいけないんだ。」

「静粛に!」

「「「そうだ!」」」
「「「そうよ!」」」

多くの民衆が、声を上げた。

裁判官が声を荒げても、民衆は怯むどころか、反旗の声は増すばかり。

裁判官たちは、この時、気が付いた。

この地の民衆には、彼が必要不可欠だと……。

何よりも民を優先する、名君だったことを……。

「処刑を中止する!」

 一人の裁判官が、そう叫ぶ。

「貴様、正気か!何を言っている!本国を裏切る気か!」

 別の裁判官が、激怒した。

「ああ、そうさ!この度の件の責は、全て私が取る!」

 あの、一人の裁判官が、そう宣言した。


 イースト、東の主君。

 彼は、後に歴史に名を刻む。

 未来の多くの人々に愛され、受け継がれる……名君と成った。





 









10/29/2023, 10:47:49 AM

もしも、なんて都合の良いものは無い。

亡き父を責める悪夢を見て、私は自分に言い聞かせる。

過去に縋るのも、未来に縋るのも、……見苦しい。

分かってる、もう……父は、此の世界には、いない。

父を責めることで、自分の弱さから逃れようなんて、馬鹿らしい。

やはり、いつに成っても、親の器に私は甘えたいのだろうか。

親離れが出来ない、未だに幼い自分に腹が立つ。

大人に成るのを急いだ代償なら、なんと滑稽だろう。

自分の選んだ……過去に選択した積み重ね、其れが人生だ。

紛れもなく、今の自分は……生き様は……過去の選択の結果に過ぎない。

『他者のせい』にするのは、一時は良いが……もう、こりごりだ。

私は、自分の保身に走った。だから、今も生きている。

父のような愛情深さも、父のような勇気も、父のような覚悟も、

私には無かった。

相棒であり、親友であり、最も心許した家族で在り、

異母弟の彼のような芯の強さも、私には無かった。

父のように成りたくて、異母弟のように成りたくて、

でも、かつての私は成ろうと、努めようともしなかった。

父も異母弟も疾うの昔に、この世を去った。

 今、私は決する。

もしもなどという……幻のもうひとつの物語を、もう抱かないと。












10/27/2023, 3:58:59 PM

 この匂いは、アフタヌーンティー。

 この匂いは、わたしの思い出が詰まっている。

 おばあさまとおかあさま、いもうとにわたし。

 わたしは、このひと時が何よりも好きだった。

 そう、愛する貴男のように。

 だから、貴男と婚姻が決まった時は本当に嬉しかった。

 でも、貴男には誰よりも愛する方がいた。

 やっぱり、現実は物語のようには……いかなかった。

 貴男の愛する方は、もう……別の方と婚姻が成立したのに。

 貴男は、一向にわたしを見てくれなかった。

 愛してるわ、誰よりも……深く、愛してるわ。

 だからね、貴男の愛する方に逢ってきたの。

 ちょっと良いホテルで、アフタヌーンティーをしたのよ。

 貴男の愛する方は、本当に完璧な人だった。

 わたしが見てきた、誰よりも凛々しく 中性美を纏った方だった。

 わたしに敵う隙なんてないほどに、完璧な方……。

 あの方は、たくさんのわたしの話を聴いて下さった。

 『あなたほど、彼を側で支えられる人は居ないさ。』と。

 わたしは、すぐには…とても、信じられなかった。

 あの方は続けて、こう仰られたの。

 『彼は、もうすぐ気づくだろう。あなたの有難みを……。

  あなたは、聡明で愛情深い方だ。

  貴族としての素質に意識、何より……民を思う心をお持ちだ。

  そして、夫を想う妻としても……あなたは素晴らしい。

  だから、きっと大丈夫。 話してくれて、有難う。』

  と、凪のように優しく穏やかな声だった。

  最後には、涙が溢れてしまった。

  感情の波を抑えるのには、慣れているはずなのに。

  絹のハンカチを差し出され、

 『お恥ずかしいながら、私はこのような話が出来る友人はいないのです。

  もし、よろしければ こうして、また逢いませんか。』と。

 『はい。』と、わたしは泣きながら応えた。

  あの後、貴男にわたしの気持ちを打ち明けたら

  少しずつ……、わたしのことを見てくれるようになった。

  今では、夫婦仲は円満で 家族仲も良くなった。

  彼女とは、今でも交流は続いている。

  あの時、見知らずの…頼ってきた わたしを受け入れてくれて、

  背中を押してくれた彼女には、感謝してもしきれない。

  本当にありがとう。

    


10/26/2023, 11:21:46 AM

「ねぇ、あなた。もし、わたしの方があなたより早く あの世へ旅立つなら、

 笑顔を見送ってほしいの。すぐには、此方に来ちゃだめよ。わたしのいない

 余生を楽しんでね。

 それに、結婚しても良いのよ。わたしを気にせず、幸せな家庭も築いて良い

 のよ。」と、そんな何気ない、貴女の言葉が頭をよぎる。

 
「お願いだ……。妻を助けてくれ。」と、泣きながら私は、友人に縋り付き、

懇願する。

「最善は尽くす。しかし、命の保証は出来ない。」と、私とは対象的に友人は

極めて冷静に応える。

そこから、どのくらい経っただろう。

友人は、妻の寝室から出てきた。

「最善は尽くした。でも、此処からは彼女次第だ。」と、友人は言った。

「何で、そんなに冷静に居られるんだ!彼女とは、何年も前からの仲だろう!

 おまえには、心が無いのか!」と、私は激怒した。

 友人のひどく冷静な、全く動揺しない、まるで、見知らぬ人のように接する

 ような冷たさに。

 そしたら、予想外にも友人は感情を露わに言った。

「分からないとは、言わせない!生死の堺のときは、冷静で居る大切さを!

 今まで、わたしたちは何度も、人の死際に立ってきた!

 何度も処刑人として、命を殺めてきて、それか!いい加減にしろ!

 今まで、貴様は何を学んできたんだ!」

 と、私以上の激情で言って、いや、叱ってくれたのだ。

 そのおかげで、冷静になれた。

 幸い、あの後、妻は目を覚ました。

 今では、健康に日々を過ごせている。

 後日、友人に謝罪と礼を伝えに行った。

「気にするな。そういう時もある。お互い様だ。」

 と、友人は無愛想に言った。

 その友人の懐の深さが、格好良かった。



 

 

 

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