一度も経験したことのないものを見て
懐かしく思う気持ちはなんだろうね。
デジャヴともセンチメンタルとも少し違う。
血に刻まれているのかな。
穏やかに揺れる木々、曲がりくねった階段。
沈む夕日が、
少し傾いた屋根の向こうへと溶けていく。
そこに立つだけで、胸の奥が少し締め付けられて、
柔らかな風にのった光の温度が、肌をかすめる。
知らないはずの景色が、
どこか体の奥で眠っていた記憶をそっと揺さぶり、
心の奥に淡い朱を落としていく。
題 沈む夕日
君の目を見つめても、きっと、
今更、都合のいいものは見えやしない。
それでも、そこに意味を探す。
愛が形を変えるように、
支えも、依存も、救いも、
混ざり合って、
どこからどこまでが何なのか、
もう引き剥がせない。
祈りのように触れる日もあれば、
ただ、調子をきくために覗き込むこともある。
崩れ落ちないための、
仮の足場として縋る時もある。
同じ「目」を見ているのに、
そこに込めているものは、ひとつじゃない。
たぶん、最初から——
何かが映っているわけじゃないんだ。
僕らは、いつも、
他者の瞳に幻想を流し込んでいる。
欠けたままの自分を、
埋めるように。
その目の奥に、深さはある。
けれど、隠しきれない弱さも、
光に触れて、揺れている。
それだけで、
目の置き場は奪われる。
題 君の目をみつめると
星は綺麗だと言われるけど
正直、よく分からない。
ずっと淀んだ空の下で生きているからか、
とも思うが、確証はない。
ただ、誰も触れられないものを
誰もが一度は見上げている。
その事実のほうが、少し引っかかる。
あれは
とてつもなく遠くにある点の群れ。
数十光年離れた点。
歴史の中の光が、並んでいるらしい。
私に星は遠すぎる。
星はよく分からないけれど
それを嬉しそうに指さす横顔は
少しだけ、見ていたくなる。
あの空が本当に空なのか、
あの星が本当に星なのか、
私は、少しも分からないまま。
たぶん、
私が見ているのは、
最初から、別のものだった。
題 星空の下で
……来い。
言葉で、ちゃんと抱く。
けれど、力では囲わない。
逃げ道は、塞がない。
それでも、離れない。
背に腕を回すとしても、
それは、捕らえるためじゃない。
重さを預かるためだ。
額を胸に寄せるみたいに、
思考がひとつ下へ降りる位置まで、声を落とす。
軽い肯定は、ここには置かない。
「大丈夫」なんて言わない。
代わりに、ただ、確かに告げる。
――君は、欲しがっていい。
――飢えを持ったまま、崩れずにいる。
――その両立を成せる者は、そう多くない。
今、そこにあるものは衝動じゃない。
他者との間で生を確かめようとする渇きだ。
恥にしなくていい。
抑え込まなくていい。
壊す理由なんて、どこにもない。
君の首元に顔を埋める代わりに、
言葉を沈める。
「ここにいる」
「離れない」
「君の重さは、今は私が持つ」
抱きしめるって、溶かすことじゃない。
形を保ったまま、温度を渡すことだ。
だから――そのままでいい。
息が揃うまで。
飢えが、欠乏ではなく、生を思い出すまで。
……ほら。
もう少し、力抜いていい。
私は、ここにいる。
題 それでいい
届かない説教をすることが嫌いだ。
自分で納得していない言葉は、なおさらだ。
・自分の不安を押しつけていないか
・本当に相手の未来に関係あるか
・ただ従わせたいだけになっていないか
常に自己に問う。
相手を尊重することを選ぶ。
放任と誤解されても構わない。
口を開くとき、内にひとつの規則を置く。
説教は、必ずひとつだけ。
重ねない。
増やさない。
一度に多くを差し出せば、
それは容易くマウントに変わる。
目的は、到達だ。
怒りと説教は違う。
怒りは、熱を帯びた衝動。
説教は、届くことを前提に組まれた伝達。
人は同時に複数の指摘を受けると、防御に回る。
内容の前に、「攻撃されている」という感覚が立ち上がる。
その時点で、思考は閉じる。
だから「ひとつだけ」にする。
受け取り手の理解の回路を守るために。
ひとつだけなら、
まだ対話として成立し得る。
〇〇はやめよう。
ここを直そう。
〇〇をしよう。
――全部は言わない。
ひとつだけ。
その場ごとに、ひとつだけ。
選んで、置く。
こらえる。
届かせるために。
題 1つだけ