蓼 つづみ

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12/30/2025, 11:15:27 AM

紺鼠の空には、白く結晶した模様が散らされている。

光害や街の明かりに白み、
本当の暗さに薄くモヤがかかっているんだ。

どこまでも続くはずだった奥行きは、
手前で静かに切断されている。

それでも、夜は音もなく降りてきて、
私という器を、ゆっくりと溶かす。

見つめてみると、
自分がどこに立っているのかという確信が揺らいでくる。

世界と自分のあいだに引いていた線を、
維持する理由が、ほどけていく。

呼吸はしている。
思考もある。

けれど、
「ここにいる」という確信だけが、
どこにも引っかからなくなる。

題 星に包まれて

12/29/2025, 4:05:34 PM

年の瀬の境内には、音が少ない。
静かだからではない。
音が、意味を持たない場所だからだ。

鈴の音も、足音も、風の擦れる音もある。
でもそれらは、始まりも終わりも主張しない。
ただ、起きて、消える。

返納箱の前に立つ人は、祈っていない。
願ってもいない。

感謝の言葉は、
もう振り返らない相手に向かって発せられている。

しているのは、
「預けていた重さを、自分の側から外す」という行為だけ。

お守りは、そこで初めて“個体”を失う。
布でも、形でも、意味でもなくなる。
あれはもう、物ですらない。

関係が終わる瞬間だ。

誰かが背負っていた一年分の「越え方」が、
そこに、そっと置かれる。
燃やされるのは、物じゃない。
記憶でも、祈りでもない。

「もう一人で持てるようになった状態」だけが、
炎に渡される。

だからあの火は、あたたかくない。
慰めでも、浄化でもない。
ただの、手続きだ。

そしてそれが終わるとき、
何も始まらない。

拍手もなく、
新しい願いも立ち上がらず、
来年という言葉も、まだ口にできない。

何かを失ったからではない。
まだ、時間に物語を渡していないだけだ。

題 静かな終わり

12/28/2025, 12:36:01 PM

私は、どこにも焦点を合わせずにいる状態が標準だ。

「黒板を見ろ」と命じてくる人間には、
大変迷惑している。

本当は、理詰めになんかならなくていい。
知らないんだろ。

知識を持ってしまったら、
もう「知らなかった頃の世界」は見えない。

知らなかったからこそ、
揺れていられた感覚を、思い出せるか?

「ぼーっとする」というのは、
怠けじゃない。
世界に主導権を返す行為だ。

その瞬間、
世界の本当の秩序だけが、浮いて見えてくる。

自分にいちばん近い世界は、自分の肉体だ。

血は巡る。
呼吸は続く。
眠気は訪れる。
空腹は正確に知らせる。
それに応じる。
それだけで整う。

世界は、命じない。

風の向きは、いつも正しい。
暖かな光を背に浴びると、内側から熱が湧く。
そこには意味づけなんかない。
でも、確かな一致がある。

自分の内側の流れと、
外側の流れが、
同じ方向を向く。

怪我が治るのも、同じだ。
誰も「治れ」なんて考えていないのに、
勝手に治る。

音楽を聴いて、涙が流れる。
その涙に、何か役に立つ意味があると思うか。
ないよな。
なくていい。
ただ、そこに揺れがあった。
それで充分だ。

生きてることの本質は、
その涙と同じものだ。

意味を持たなきゃいけないという幻想の外に立つ者からすればな、
生きてることに、意味なんかいらねんだよ。

世界は、
「こうなっている」という事実を、
淡々と差し出してくる。

世界は、すでに整っている。

説明はない。
代わりに、正しさが直接“実演”される。

心の旅路は、知識を得ることじゃない。
世界の完璧さを、
忘れずにいられる距離まで戻ることだ。

題 心の旅路

12/27/2025, 1:49:18 PM

その水面は、灰青の空を一点の歪みもなく映す。
水は息を潜め、世界の気配を抱え込んで、動かない。

石畳の小径も、屋根の端に残る霜も、
枝先の影も静かに反転させる。
遠くの山影は眠るように澄み、
松や椿の緑は冷たい光に凛と立つ。

光も影も、過去も、
今ここにある一瞬も、
すべてが鏡の上に重なる。

静止した水の上に、
世界の輪郭だけが、
凍りかけの冷気を帯びて残る。

水面は微動だにせず、
そこに触れた者の存在を反射し、
記憶の余韻までも宿す。

足音の残像、
過去に咲いた花の色、
凍てついた時間の微かな呼吸。

その鏡の中、果てを見ると、
答えは凍り、思考が沈黙する。

そのなかに自分をみつけるが、
そこから何も掬えない。

題 凍てつく鏡

12/26/2025, 10:07:54 PM

私が触れているのは、
見たことのない光だ。

あるかどうかを
証明できないまま、
それでも、
暗闇だけではなかったと
まだ言葉には出来ない。

人が「誰も信じられない」と言うとき、
その言葉の奥に、
かつて信じて、
傷ついた夜が
横たわっている気がする。

まだ消えていないものが、
そこにあるから、
そんな言い方をするのだと
思ってしまう。

私は、
誰かに期待を寄せることはしない。

ひとの本質は多面的で、
流動的だと思うから。

ただ、
人柄を静かに見ている時間が、
いつまでも消えずに
残ることはある。

「信じられない」とも、
「信じたい」とも、
言わない。

どちらの言葉も、
夜を
少しだけ照らしすぎる気がして。

私はまだ、
見ていない光のそばにいる。

題 雪明かりの夜

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