誓いは、破れば「破った」と言える。
それは、未来に杭を打つ行為だ。
祈りは違う。
「そう在れますように」と願いながら、
自分の手を引く態度。
相手を縛る前に、自分を戒めること。
私は、独占欲の杭を持たない。
私が大切にしているものは、
誓いの、手前にある。
私は、因果で測られる関係を、信じていない。
命は、正解を辿ったご褒美じゃない。
肯定が積もり、
関係が熟し、
祈りが臨界を越えたとき、
起きてしまう出来事だと、思っている。
用意された筋書きと、尊重は、別の軸にある。
尊重は、生き方の滲みだ。
相手の身体や人生を、
自分の計画の部品にしていないか。
私は、そこしか見ていない。
管理は、必要なこともある。
でも、管理が人を選別し、
「正しくない宿り」と笑った瞬間、
それは敬意ではなく、傲慢になる。
口づけは、本来、
「触れていい」「触れられていい」という、
相互の許可と信託の象徴だ。
距離が、ゼロになる直前で、
言葉をやめ、
身体で、一瞬だけ示す静止。
それは、欲望の始点ではなく、
承認の終点に、近い。
だから、その先に、
身体的な交わりが含まれるのは、自然だ。
けれど、多くの場合、
誓いのキスは形式に消費され、
交わりは、欲望として切り離される。
ここで、私の心は、断絶する。
触れたいから、触れるのではない。
「あなたを壊さない」という、
沈黙の誓約。
その誓いが、
触れ方にも、
速度にも、
終わり方にも、
残っていてほしい。
でも、それは祈りとして受け取られず、
欲望の、一場面として通り過ぎる。
同じ行為をして、
意味だけが、一方通行になる。
私の側には、
祈りを置いたまま、
回収されない私が、残る。
だから、後で、
勝手に、私だけが、痛む。
題 祈りを捧げて
クリスマスだからと
何かをしようとしたのは
母だけだった
まな板の上では
手際よい音が鳴り
フライパンの底で
バターが音もなく
崩れてゆく
白く泡立つ前に
粉が振り落とされ
一気には混ぜない
牛乳を注ぐたび
台所の空気が
少しだけ甘くなる
量は量らない
でも失敗しない
あめ色の玉ねぎと
チーズの溶けた中に
気づけばあった あたたかさ
題 遠い日のぬくもり
窓の向こうは白く霞む
明かりが揺れて
テーブルの上に
繭のような橙を落とし
焼き菓子の香りが
時間をゆるめる
子どもたちの声が
空気の中でそっと弾み
希望は
大きな言葉になる前のかたちで
この部屋に在る
静かなあたたかさが
満ちる夜
題 揺れるキャンドル
こちらにも属しきれず
あちらにも閉じきれず
外に出ることも
中心に踏み込むことも、しないまま
ずっと、縁を保っている
世界の中にいる
けれど、世界そのものにはならない
感情を持つ
でも、感情に溺れない
兆しを見る
でも、その眩しさを信じすぎない
この、常に少し脇にいるという
自分を壊さずに在るために
獲得した位置
そこにある細い光は
誰かを照らすためのものではなく
ただ、
感謝と謝罪を
深く理解するために
内に持ち続けている
題 光の回廊
…軋んで、壊れそうだ
碧く熾り続ける灰が、
保てる臨界点を超えて、
尚も、降り続いてしまう
その引力は、強すぎて
下手に、言葉をかけられない
言葉をかけた瞬間、
僕も君も、逃れられずに
引きずり込まれてしまうのが、
わかっているから
想いは深く、
胸へと、自然に落ちる
でも、口に出せば、
その境界は、溶けてしまう
だから、黙っていることが、
唯一の祈りであり、
抵抗なのだ
黙っているうちに、
何か大切なものが、
埋もれてしまわないか、
案じてしまう
題 降り積もる想い