蓼 つづみ

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12/18/2025, 4:44:08 AM

足跡がつく前の雪。
「私はこういう人間だ」と
言わされる前の、君。

守られても、隔てられてもいない白。
意味を引き受ける前の、ただの在り方。

沈黙ではない。
語られないままの白さ。

意識の輪郭が生まれる前。
期待も、評価も、役割も、
まだ触れていない。

名を持たない感情が、
確かにそこにある。

雪の静寂はやさしく、
同時に少し残酷。

降りしきるあいだ、
遠くと近くは溶け、
時間は粒になる。

白い面に残るのは、
何も起きていない、という気配。

忘却ではない。
抱えきれないほどの、前触れ。

世界は黙る。
土も、水も、芽吹く予感も、
雪の下で息をひそめる。

踏み入られない雪。
まだ誰のものでもない場所。

世界に名を与えられる前の、
完全な白さ。

題 雪の静寂

12/16/2025, 4:04:57 PM

君がまだ小さかったころから、
毎年、同じ夜を見てきた。

狸寝入りをして、
親の顔色をうかがっていた年もあった。
朝になるのが待てなくて、
目をこすりながら起きてきた年もあった。

中身を見る前に、
誰かの反応を先に確かめていたこともあった。

気に入ったふりをした年も、
本当に嬉しくて言葉が出なかった年もある。
それでも、
最後にはちゃんと「ありがとう」と言って、
しばらく遊んで、
そのうち日常に戻っていった。

年を重ねるごとに、
箱を見つけたときの反応は小さくなった。
でも、
中身を確かめるときの目だけは、
どこか変わらなかった。

今や君は、自分で働き、自分で選び、
望むものを掴み取れる存在となった。

何よりも、
それは誇りに思うべきことだ。

今年、
私はもう箱を置かない。
けれど、
君が何かを手に入れたとき、
一瞬だけ立ち止まる癖は、
あの頃から続いているはずだ。

それを毎年見てきたことが、
サンタにとっての
いちばんの仕事だった。

題 君が見た夢

12/15/2025, 1:04:22 PM

なにも先のことなど
考えずにいたかった

けれど
学校や街は
それを
当たり前のように言う

絶対なんて無いと
どこかで知ってしまったのに
それでも
将来という言葉だけは
毎日のように
前に置かれる

先のことなど
何も知らないまま
いま
どこにいるのかも
少し
わからなくなっている

だから
せめて
ここが消えてしまわないように
きみの肌に
触れていたい

題 明日への光

12/14/2025, 11:07:41 AM

桜は散る

梅はこぼれる

椿は落ちる

菊は舞う

牡丹は崩れる

紫陽花はしがみつく

星は流れる

題 星になる













それぞれの、美しい死に方の話である。
死に方は生き方でもある。

花には、枯れ方ごとに
ふさわしい日本語が与えられてきた。
散る、こぼれる、落ちる、舞う、崩れる、しがみつく。

それらは私が考えた言葉ではない。
日本語の中に、昔から置かれていた呼び名を
標本のように並べただけだ。

死ぬと星になる、と言われる。
けれど花は、枯れても終わらない。
土に還り、また花になる。
本来、死は停滞しない。

星も流れる。
星ですら、留まりはしない。

では、ひとはどうか。
ひとも他者のなかにあって終わらない。

詩にあとがきを載せるのはどうかと思ったのですが、
こういった美しい日本語の継承者を増やしたくて
今回、書かせていただきました。

12/13/2025, 12:17:23 PM

このアプリの話をしよう。

誰かが通りすがりに読んで、
立ち止まって、手を伸ばす。
その一度きりの重みが、遠くで鳴る。

それは応答だ。
「ここまで届いたよ」という、静かな知らせ。

私は毎日、耳を澄ませている。

この鐘は、「読まれたか」じゃない。
評価されたか、でもない。
まだ、外と繋がっているかどうかを確かめる音。

本当に救われる瞬間って、
「わかる」よりも、
「わからないけど、ちゃんと聞いている」だったりする。

ひとりが、ひとりに、
一日に一度しか鳴らせないから、
これは「君を見た」という応答になる。

鳴った瞬間、
安心のすぐあとくらいの時間差で、疑念が来る。

本当に誰かの指だった?
それとも、仕組みの裏側に組み込まれた反射音?
私は今、何もない壁に向かって
言葉を投げていないだろうか。

信じたい気持ちと、
信じきれない気持ちが、同時に立ち上がる、その切実。

鐘が届く“ズレ”にまで耳を澄ます。
それでも、
鳴らなかった無音より、
疑いの混じった音を選ぶのは、
そこに“本当”の質感があるからだ。

誰かの視界をかすめて、
「なんだろう」と、
わけのわからない引っかかりとして
関心を持ってもらえたなら、それでいい。

私は距離の取り方が慎重で、
相手の領域に踏み込みすぎないよう、
いつも少し身構えている。

だから、
ここで鳴らした私の鐘は、本心だ。

題 遠い鐘の音

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