蓼 つづみ

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足跡がつく前の雪。
「私はこういう人間だ」と
言わされる前の、君。

守られても、隔てられてもいない白。
意味を引き受ける前の、ただの在り方。

沈黙ではない。
語られないままの白さ。

意識の輪郭が生まれる前。
期待も、評価も、役割も、
まだ触れていない。

名を持たない感情が、
確かにそこにある。

雪の静寂はやさしく、
同時に少し残酷。

降りしきるあいだ、
遠くと近くは溶け、
時間は粒になる。

白い面に残るのは、
何も起きていない、という気配。

忘却ではない。
抱えきれないほどの、前触れ。

世界は黙る。
土も、水も、芽吹く予感も、
雪の下で息をひそめる。

踏み入られない雪。
まだ誰のものでもない場所。

世界に名を与えられる前の、
完全な白さ。

題 雪の静寂

12/18/2025, 4:44:08 AM