本棚の隙間

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12/24/2024, 6:36:23 PM

「そろそろ、来るよ!」
メイが、リビングの窓を開け、庭に出る。
それに続き、ケイトも出て、空を見上げた。
シャンシャンシャンと、遠くから鈴の音が聴こえてくる。
夜空から、トナカイが引くソリが、メイの家に降着した。
「メリークリスマス!」
降りてきたのは、赤い服を着た巨漢の老人。
ゴーグルを外し、髭についた雪を払う。
「あー、疲れた。おら、プレゼント」
「あ、ありがとうございます」
ケイトがプレゼントを受け取ると、思ったより重量があり、落としてしまった。
後ろからメイが顔出してそれを興味深く見る。
「おじさん、これ何?」
「あー、肉だよ、肉。うめぇーぞ」
「お肉ー!」
わーいとはしゃぐメイ。その横でケイトは、よろめきながら袋を、家の中に運び入れた。
「とりあえず、家に入ってください。近所の目とかあるので……」
「おう、悪いな。あっと……その前に」
後ろを振り返ると、ソリとトナカイに向かって見えない何かをかけた。
「何をしたんですか?」
「ここらへんは、お前みたいに素質があるヤツが居るみたいだから、見えねえように布をかけたんだ」
「へぇー」
ケイトに布は見えず、ソリとトナカイが見えている状態。しかし、他の人には見えないようになっているようだ。
「ハジメちゃん、お肉貰ったー」
メイが、台所でイブのディナーを作っている、兄のハジメに声をかけた。
「え!本当に?何のお肉だろう?」
前髪にキャラ物の髪留めをつけ、フリフリな白いエプロン姿で現れる。
重量に負けたケイトとは異なり、軽々と肉の入った袋を持ち上げた。
「鹿肉と七面鳥、あとイノシシだな」
ソファーに座ったおじさんが答えると、ハジメの目が嬉しそうに輝く。
「そんなに!これは明日のディナーが楽しみだね」
「ハジメちゃんのご飯、すっごく美味しいもん!期待してる」

肉を冷蔵庫へしまい、熱い緑茶をおじさんに用意した。
「イブなのにお前たちは、こう……青春が足りねえな」
「そうですかね。皆、こんなもんじゃないですか?」
「いやいや。ケイちゃんが枯れてるんだよ」
メイが出来たてのおかずをおじさんへ供する。
クリスマス感のない里芋の煮物だ。それを肴に飲むのは日本酒。
「おじさんこそ、サンタ味がないですね」
ケイトが言うと、大口を開けてガハハと笑った。
「だな!だが、こういう特別な日こそ、いつも通り好きな物を食うのも、悪くないわけよ」
「そうですね」
台所からいい匂いが漂ってくる。今日もまたいつもと変わらない夕食。
だが少し特別な日でもある。
サンタのおじさんと共に、イブの夜がやってきた。

12/12/2024, 8:09:29 AM

──この二人は私に隠し事をしてる。
幼馴染のユカリとコウスケと下校してる中、ナツミは後ろから二人を見つめながら思った。

あれは一週間前のこと。
放課後に教師に呼ばれ、二人には少しの間教室で待ってもらっていた。
急いで戻ると、ナツミが見た光景は、背伸びをしたユカリがコウスケにキスをしていたところ。
ドキリとしたナツミはすぐにしゃがみこんだ。口手をあて息を殺した。
あいにく、ユカリたちはナツミに気づかずクスクス笑いあっている。
──付き合っていたんだ……。
ナツミの心がズキリと傷んだ。

それからナツミは二人の関係に気づかないふりをした。自分の気持ちさえもなかったことにして。
──だってお姫様と結ばれるのは、いつも王子様なんだから。

12/10/2024, 1:47:00 PM

昔、仲間だった人間を探している。
くだらない喧嘩で疎遠になったやつだ。
きっと彼は亡くなっているだろう。
人間は他の種族と比べても寿命が短い。その命が僕の10分の1もないんて、知らなかったんだ。
どんな喧嘩をしたのかも、昔のこと過ぎて忘れてしまった。

今日、僕は旅に出ようと思う。きっかけは、彼に貸していた本が必要になったから。
けどその頃には60年ほど時が過ぎていた。
「人間には、十分すぎる時間だね」と先生は言う。
それでも、僕は「行きます」と告げた。

彼が生きている保証はない。僕は間違えてしまった。
彼に会いに行こう。そして遅すぎる「ごめん」を伝えに行こうと思う。

10/21/2024, 9:10:19 PM

田舎町に大雪が降り、一晩で一面、雪景色に変わった。

町を少し離れた場所、山道に続く開けた道がある。

左右に、田園があり春には、青い色の花畑ができ、夏は緑色の絨毯が広がる。

バートラムは、雪道を走った。あと3分で、鐘が鳴る。

この先に、廃墟になった教会がある。そこで、オーガストが待っている。

―――急がなければ!

雪に足を取られそうになっても、バートラムは走り続けた。その手には一通の手紙が握られている。

仕事を終えたバートラムが、家に帰ると扉の下に、一通の手紙が差し込まれていた。

差出人は、オーガスト。

『バートラム、君は僕に隠し事をしているね? 僕は、すべて知ってしまった。誰かが僕を見張る目。差出人のわからない手紙とプレゼント。僕は怖かったよ。怖くて死んでしまいたくなった。外が怖い。人も怖い。君とであった夜、とても驚いた顔をしていたね。あれは僕を見ていたのに、僕が君の存在を、気づいてしまったから、驚いていたんだね? 僕を見ていたのは君だ。そうだろう? そうとは知らず、君に相談して、守ってくれる優しい君に、僕は恋をした。何度も愛しあった。君が僕を苦しめていた人だとは、知らずに。それだけならよかったのに。僕らは許されない恋をした。バートラム、僕を愛しているなら、鐘が鳴るその前に、廃村近くの教会へ来て』

手紙と同封されていた一枚の写真には、二人の幼い少年が写っていた。

右側に写る少年の口元には、ほくろがある。この子はオーガストだ。

左側に写る少年の顔には、見知ったアザがある。

くしゃりと手紙と写真を握りしめ、教会へ走り出す。

あの写真の少年たちは、自分たちだった。

 

教会近くの廃村まで、たどり着いた。まだ鐘は鳴っていない。

息を整えて、オーガストを捜す。

廃村ということもあって、そこは崩れた建物が未だに残っている。

その向こうには、一面真っ白な、開けた平地が続いていた。

「……オーガスト」

冷たい冬の空気を肺いっぱいに吸い込み、教会へ走り出す。

ザクザクと雪が音を立てる。鼻が冷たい空気で痛む。

―――ゴーン、ゴーン、ゴーン。

鐘の音が遠くで聞こえる。空気を一気に吸い込み、腹の底から絞り出すように叫ぶ。

「オーガスト!」

パァン!

教会の方から、破裂音がした。バートラムの脳裏に最悪なビジョンがよぎる。

―――オーガスト、オーガスト、オーガスト。

教会に近づくたび、心臓がバクバクと脈打つ。やめてくれと脳が警告する。

どうか、あの破裂音が銃声でありませんように。雪の上に横たわる人が、オーガストではありませんように。

 

白い雪に鮮血が広がっていく。横たわるのは、口元にほくろのある若い青年。

「はぁ………はぁ……あ、あぁ……」

あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

膝から崩れ落ちるように、バートラムは泣き叫んだ。

雪を握りしめ、何度もこぶしで地を殴る。行き場所を失った怒りと悲しみは、澄んだ雪に吸い込まれていく。

くたりと横たわるオーガストを抱きかかえ、頬を軽く叩く。

「お、オーガスト? ……ねぇ、オーガスト。私はここだよ? オーガスト。君に会いに来たんだ」

ぼたぼたと落ちる涙が、オーガストに降る。まだ彼の身体は温かい。けれど閉じられている瞳が開くことはなかった。

それでも、バートラムは、オーガストに話し続ける。

「オーガスト、ごめんね。私は君を苦しめてばかりだ。最低な私を、愛してくれた君といるのが怖くなった。知られたくなかった、見ていたのが私だと。だから手放してしまった」

オーガストを強く抱きしめる。身体は雪に熱を取られ、ぬくもりは感じない。

「逃げたんだ。君がから。けど今でも愛してる。君を誰よりも……。例え私たちが、生き別れた双子だとしても」

オーガストの手に握られていたピストルを手に握る。

「神が私を見放しても、この想いは消すことは出来ない」

にこりと微笑み、オーガストの唇にキスを落とす。

「愛してる。遅くなってごめんね。これからはずっと一緒だ……」

ピストルをこめかみにあて、引き金を引いた。

10/20/2024, 7:24:40 PM

始まりはいつも───誰かの死から。
一周目は、親兄弟。内戦に巻き込まれ死亡。
自分だけが生き残った。
二週目は、友人を。冒険にでた道中で、魔物に襲われ死亡した。
三週目は、師匠を。自分の修行が終えると、大岩の上に腰掛けたまま亡くなっていた。
四週目は、自分だった。仲間の裏切りによって死亡。
最後に見た仲間は泣きながら「ごめん」と言った。
そして五度目の人生。立川学として日本に生まれ落ちた。
またしても、神は学に優しくない。
五週目の始まりも、人の死から始まった。
突如、都内中心部に空いた、謎の大穴の中で両親が死亡。
学はまだ4歳だった。人の死を理解できるか微妙な年頃。
父親の妹である真紀は、学に寄り添い、両親の死を教えてくれた。
その時、断片的に前世の記憶が蘇る。
学は、瞳を閉じた
───これから、立川学の人生が始まる。

両親の死から───十一年が過ぎ、学は高校生になった。
私立曙(あけぼの)高校、特攻科に入学。
この学校で、学業と共に、戦闘術や魔法を学ぶことになる。
今から、5年前───学が10歳の頃に大穴の探索に成功。
そこは現代日本とは違う、別世界に繋がっていた。
既存の動植物とは、かけ離れた姿かたちをしている生物。
魔法と思わしき力を扱える人類。
見た目も様々。二足歩行する人型の獣。耳の尖った人型の美女。
ニュースでは、写真と共に、探索を行なった人が事細かく説明していた。
そのニュースで、学の感情を大きく揺さぶったのは、一枚の資料写真。
四週目の人生で、学を裏切り魔族側に寝返った、元仲間の写真だった。
その姿は、魔族の様で。黒く牛のような大きな角。魔族の特徴である黄色い瞳をしていた。
そこで、学は彼に会いに行くことを決心。
育ての親になってくれた伯母の真紀に伝え、探索成功から2年後に設立された学校───私立曙高校特攻科に入学を決意した。

探索成功を機に、急ピッチで研究が行われていた。
現代人にとって魔法は空想のものだったが、別の世界の技術により、魔力を持つためのワクチンを開発。曙高校が設立すると同時に、魔法を扱える現代人が増えた。
12歳の学もワクチンを打ちに病院へ訪れるが、15歳からという年齢制限により拒否を受ける。

そして、入学当日。特攻科、最初の授業はワクチンを打ち、適正属性を知るといもの。
今年の特攻科は、かなりの希望者により、倍率も高く受かるのも、ひと握りだと言われていた。
ちらほら見知った顔がいる。
剣道日本一になった、天城剛健(あまぎごうけん)。
お嬢様学校で有名な泉田女子中学校出身のインフルエンサー如月夢美(きさらぎゆめみ)。
推薦入学者でモデル業をしている谷田まもる(やだまもる)。
入試試験一位合格者の新田霞(にったかすみ)。
新入生たちで校舎前は人でごった返していた。
「おうおう、どこの誰かと思えば、電波くんじゃねぇか」
後ろから声をかけてきたのは、同じ中学出身の屋井夏哉(やいなつや)。大柄な体に横暴な性格の男子生徒だ。
彼の後ろには見知らぬ男子生徒が二人立っている。
中学のころと変わらず取り巻きをすでに作ったようだ。
「屋井くん、卒業式ぶりだね」
「まさか、お前もあけ高に入学してるとはなぁ」
ゲラゲラと三人は下品に高笑いする。
「まあね……。それより、クラス分け、君は見たの?」
「あぁ、俺様は一組。こいつらは二組だった」
「そっか。……じゃあ僕も見てくるよ。まだなんだ」
「おい、待てよぉ。でーんーぱーくーん?」
ぽんと肩に手を置かれる
「ん?」
「お前……退学しろよ?」
「あー」
学は一瞬悩むふりをした。にこりと笑い屋井を見る。
彼はニヤニヤしていた。
体も大きいが、顔も一般男性の二倍はある。分厚い唇から除く、歯にはのりが挟まっていた。
気持ち悪いなぁと学は心の中でつぶやく。
肩から彼の腕をどけ「気が向いたらね」といい、その場を離れた。


「おはよう。新入生、諸君。私が1年、特攻科の指導員───小金井飛鳥だ」
180cmはありそうな高身長の女性。黒のタンクトップに迷彩柄のつなぎを腰で縛って着ていた。
「これから、君たちには血液検査を受けてもらう」
「え? ワクチンだけじゃないんですか?」
「もちろんだ。君たちの、事前健康診断の資料はすでに確認済みだ。ここで確認するのは、適正ワクチンを調べる。適性がないワクチンを打つと、重篤なアレルギー反応を引き起こしたり、魔力暴走により死亡する。そのための血液検査だ。わかったなら、クラスごと男女別に名前順で並べ!」
はいっ! とみんなが一斉に声を上げ、学は3組の列に並び検査室に向かう。
ひとまず生徒は、無機質な白い大部屋に待機することになった。
左右に扉があり、左の男、右に女と紙に大きく太字で書かれてある。
「3組の諸君、全員いるな? よし、今から男女5名ずつ名を呼ぶ。返事をしたあと、扉の奥に進み血液検査を受けろ。数秒で検査結果が出る。結果の紙を受け取り、戻ってきたらワクチン摂取の部屋に案内する。わかったな」
はいっと生徒が一斉に返事をする。
小金井が、男女ともに前から5名の名前を呼びぞろぞろと中に入っていく。
待機中の生徒は、自分の適正属性を予想する話に花を咲かせていた。
「立川。立川学」
「はい」
小金井が男側の扉を親指で指し、学は中に進む。
中は先程の大部屋と同じく、無機質で白い。
5つのテーブルが横に並び、それぞれパーテンションが仕切られていた。
「立川くーん」
女性の甘ったるい声がする。
二番と書かれた旗を振る看護師が、ニコニコしながら呼んでいた。
「こんにちわぁ」
「あ、こんにちわ。立川です。よろしくお願いします」
そう言い、袖をまくり右腕を差し出す。
「うん、うん。いい腕だね。太くてぇ、男らしいう、で」
バンドで上腕部を縛り、つんつんと血管を探す。
「手を握っててねぇ。わぁ、血が取りやすそうな血管だぁ」
看護師はうっとりと学の血管を観察していた。
「あの……」
「あ、ごめんねぇ。今取るね。ちくっとするよぉ」
針が入り、血を採取していく。これは現代日本でよく見る医療のまま。
「採取完了。ちょっと待ってねぇ。すぐ結果出るからぁ」
卓上冷蔵庫のような機械に採血した容器を入れ、ボタンを押した数秒後、ビーッと長い紙が上から印刷される。
「結果出たよぉ。どれどれぇ……───ッ!」
看護師の目の色が変わる。学の顔を一度見ると、胸ポケットに入れていたPHSを操作しどこかに連絡を入れた。
その人物はすぐに現れた。小金井だ。
2人はひそひそと話し合い。小金井が学に向き直る。
「立川、正直に答えてくれ。君はワクチンを摂取したことがあるのか?」
数人がこちらに顔を向け、室内にいる人間がざわつく。
「いいえ。12歳の頃に受けようと病院に行きましたが、年齢の関係で断られたっきり、ワクチンは入学のあと決めていましたから。……ぼくの結果になにかありましたか?」
小金井と看護師は顔を見合わせ、眉間にしわを寄せる小金井は、結果の書かれた紙を差し出した。
「……ここを見ろ」
小金井が指す場所には、ワクチン非対象。魔力レベルが書かれていた。
「魔力レベル∞(カンスト)異常な数値……いやこれを数値と言っていいべきか。まだ設立して間もない組織ではあるが、君のような人間は初めてだ。本当にワクチンを打っていないのだな?」
「はい。打ってません」
小金井は納得いっていないような表情だが、二度頷き「わかった。信じよう」といい、学を退出させた。

───やっぱりな。
魔力があるのではないか、という予感は中学生の頃には感じていた。
幾度となく、感じる違和感。ふと見えるビジョンは予知の前触れ。
手のひらや体が熱くなるのは、火属性の前兆。
水を欲し一日に二L以上の水分を摂るのは、水属性の前兆。
髪の毛が逆立ち、静電気を感じるのは、雷属性の前兆。
頻繁にめまいを起こしたり、地の底からエネルギーを感じるのは、土属性の前兆。
くしゃみをしたときつむじ風ができたり、突風が歌に聞こえるのは、風属性の前兆。
草花にエネルギーを感じたり、傷や病気が治りやすいのは、草属性の前兆。
夢で暗闇の中にいる自分を、客観的に眺めていたり、他人からにじみ出る瘴気を感じるのは、闇属性の前兆。
人から一緒にいると楽になると言われたり、空の上から声が聞こえたりするのは、光属性の前兆。
予知も光属性の前兆である。
この違和感に覚えがあった。
三週目の人生のとき、修行中に感じたものと似ている。
あのときは魔法というものは存在しなかったが、それに近しい力が存在した。
火、水、地、草、風。それらの力を体内に宿し強くなるというもの。
火吹き山に何年もこもり、火を体に宿す。
氷結の滝に何年も打たれ、水を体に宿す。
地下の巣窟に何年も潜り、地を体に宿す。
永遠の森林に何年も住み、草を体に宿す。
恐山の旋風村の何年も通い、風を体に宿す。
体に力が宿るとき変化が訪れる。
火を熱いと感じなくなったり、体温が上昇したり、水と自分の境目がわからなくなったり、各力によって感じ方はまちまちだが、中学生の頃に感じたもの類似していた。

だが、困ったことが一つある。
魔力をコントロールできても、魔法が一切使えない。
魔力の使い方がわからない。ポンコツである。
それは四週目の人生でも同じだった。
魔力はあれど、使い方がわからない。
そのため、敵や魔物を倒すときは剣を使っていた。
魔導師の素質があり、魔力の経験値が上がりやすいため、魔法が使えないのに魔力だけが上がり続けていく。
その魔力が五度目の人生にそのまま移行されたのだろう。
採血後に配られた初心者の魔法書という教科書に目を通しても、魔力の使い方がわからなかった。

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