【お題:子供の頃の夢】(書きたいところだけ、書きました)
「ぼくの夢は、大福になることです」
そう言った瞬間、クラス中が笑いであふれる。ほんの少し誇らしく思ったが、すぐにそれが自惚れだということがわかった。
「変なのー!」
クラスのガキ大将が叫んだ。その言葉をかわきりに、他のクラスメイト達も騒ぎ出した。
「食べ物になりたいなんて、変だよ」
クラス1可愛い隣席の女子が言う。
ぼくの顔は湯気が出るぐらい熱くなった。きっとゆでだこのように赤く染まっているだろう。
「静かにしなさい! 発表の途中ですよ。大萩くん、続けてください」
ぼくは将来の夢について書いた作文をくしゃりと握りつぶす。そのまま黙り込んで、席に座った。
「大萩くん?」
女担任の若林先生が心配そうに声をかけてくる。その気遣いさえも、今は恥ずかしさでいっぱいになった。
穴があったら入りたいという感情に小学二年生で知る。
授業参観で来ていた、ぼくの母は額に手を当て呆れている様子だ。小さくではあるが、他の子の親も少し笑っているようだった。
おかっぱ頭のおはぎくんとはぼく——大萩豆太郎のことだ。
『おおはぎ』から『おはぎ』だけを取り抜き、クラスからそう呼ばれていた。
ぼくの夢は大福になること。けど、その夢は人から見たら変らしい。
あの授業後、母は「馬鹿なことを言ってないで、少しは真面目に勉強しな! だからあんな変なことを言うんだよ」と言われてしまった。
真面目に考えた作文だったのだけれど。ぼくは2度と夢を語ることはなかった。
あれから、しょうもない大人になっていた。特別な能力はないし、大福にもなっていない。
なぜ、今さら、子供の頃の夢を思い出したのか。もうすぐ流星群の時期だ。
ぼくはあの後、ふてくされ家出した。なんといって家出したのか覚えていない。一人公園で星を見ていた。
探しに来てくれたのは厳格で無口なじいちゃん。喋ることなく、ただ隣に座って一緒に星空を見るだけ。そのじいちゃんは和菓子職人で店をやっていた。
けれど、家出から2週間後に店で倒れ、一人だったため発見が遅れ、病院に運び込まれた時には、手遅れの状態。
そのまま息を引き取った。
大福になりたかった少年は今はどこにもいない。コンビニや他の和菓子屋で食べる大福はどこか味気なくて、おいしくなかった。
じいちゃんの作る大福が世界一だ。それは今も変わらない。じいちゃんの店はもうない。
ただ、もう一度じいちゃんの大福を食べたいなとは思う。もう一度叶うならの話だけどね。
「だいふく、おいしい」
その声にはっとする。ぼくの目の前にいるのは誰だろう。
変わった銀色の服を着て、おでこから触角が生えてる。周りの草木が焦げていて、臭い。
「どうした、ちきゅうじん」
片言の言葉を話すそいつはぼくを見て言った。
「え、あ、キミは誰?」
「ん? わたしか? わたしのなまえは〝×××〟だ」
「なんて?」
「ちきゅうじんには、ききとれない。んー〝ふく〟とよべ」
よく見るとぼくの手が小さく、景色も都会っぽくない。ここは地元だ。
「ねえ、ふく。キミは何しに地球に来たの?」
「まもるため」
「何を?」
「わすれた」
ぼくはどうやら、自分の知らない幼少期にタイムスリップしたらしい。
6/23/2025, 6:50:29 PM