わたあめ。

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10/11/2023, 11:51:44 AM

私は、ソフトクリームが好きだった。

バニラを頼むのが定番で、ソフトクリームが売っている場所では必ず買って食べていたのだ。


繁忙期が終わり、久しぶりの休日。
しばらく職場と家の往復でしか外に出ていなかったので、久しぶりに出かけることにした。

こうして家を出るのは何ヶ月ぶりだろうか。
ずっと家に引きこもっていたせいか、出かける時の楽しみ方というのも忘れてしまった。


ふらふらと、宛もなく歩いていると、ある看板が目に入った。


『ソフトクリーム……』


そういえば昔食べていた気がする……。

最近は胃に入ればなんでもいいと、適当にコンビニで買ったものばかり食べていた。


ソフトクリーム屋の誘惑に負け、私はレジカウンターへと進む。


「いらっしゃいませ!!何にしますか?」

ニコニコと店員さんが聞いてきた。
店員さんの眩しい笑顔に狼狽える。

『う……あ、バニラで、』

「バニラですね!!300円になります!!」

私のオドオドとした注文もしっかり聞き取り、笑顔で返してくれる。

急いで財布を取り出し、料金を払うと店員さんは元気よく返す。

「では少々お待ちください!!」

一言一言に元気や明るさを感じる。
接客業の鏡だなぁと、しみじみ思った。

店員のお姉さんに感心していると、あっという間にソフトクリームは完成していた。

「はい!どうぞ。」

ゆっくりバニラのソフトクリームを差し出してきたので、慎重に受けとった。


少し歩いて、道の広いところにベンチがあるのを発見したので、そこで食べることにした。


ぱくりと一口頬張ると、バニラの甘みがふんわり口の中に広がった。

『美味しい。』

ぱくぱくと食べていく。
食べていくうちに、この甘さが好きだったなとか、子供の頃落として大泣きしたなぁと思い出が蘇ってくる。

思い出せば色んな人と食べた気がする。

小さな頃は母と。
学生の時は友と。
そして、

かつて付き合っていた “彼” とも食べていた。

私はバニラ味を頼んで、彼はチョコ味を頼む。
お互い一口ずつもらって、「前のところよりも美味しい」とか『今度はそっちの味にしようかな』と何の変哲もない会話をする。

それがお決まりのデートだった。



『……あ、れ。』

涙がスっと頬を伝う。

そういえば、彼を失ってから泣いたのはいつだったか。
考えてみれば、最後まで笑顔で見送りたくて彼の前では泣かないように気を張っていた。

気づけば一人の時でも涙は出てこなくなった。

そうか、

今初めて、彼を亡くして泣けたんだ。


隣を見ても違う味を食べて笑う彼はいない。

その事実が胸を締め付けた。


『ふっ……うぅ……』

今まで貯めていたからか、涙を止めることは出来なかった。

その中でも、ソフトクリームを頬張る。


甘かったはずのソフトクリームはしょっぱい味がした。



「お姉さん!?大丈夫ですか!?」

先程の店員が血相変えてこちらに走ってきた。
きっと休憩時間だったのだろう。

「すみません!!味美味しくなかったですか!?あ、今からでも作り直しましょうか!?」

店員はアワアワと私の周りで動き回る。
時折、「どうしよう」とか「店長に相談……」と呟いている。

唐突な事だったので私はキョトンと店員さんを見てしまった。

慌てて動き回っている店員をベンチでキョトンと眺めている女性は、傍から見たら余程不思議な光景に見えるだろう。

『ふっ。ふふふ……』

とうとう堪えきれず、つい吹き出してしまった。

店員は急に笑い出した私を見て鳩が豆鉄砲食らったような顔になる。

そして涙を指で拭って答えた。


『いいえ。とっても美味しいです。』


#涙の理由

10/10/2023, 10:36:55 AM

『はぁあああああ!!』

男は剣を振り上げ、相手の方へ走っていく。


ガギィンッ

金属のぶつかり合う音がする。

男はこれでもかと力を込めて相手に剣を振るう。
相手は余裕そうに男の剣を受け止めていた。


『ぐっ……ぐぅ……』

「無駄だ。貴様と私では実力差がありすぎる。」

相手は一言、そういうと剣で男を薙ぎ払った。

『がっ!!あぁ……』

軽く払われただけで、吹っ飛ぶほどの威力。
相手の言う通り、実力の差は歴然としていた。


コツコツと相手がこちらへ歩いてくる。

「もう諦めたらどうだ。周りの味方が見えないほど、貴様も馬鹿じゃないだろう?」


周りには死体の山。
格好は男と同じ鎧を身につけている。
大方、男のようにこうして挑んで敗れていった同胞たちだ。
その中には男と共に鍛錬をし、同じ酒を交わしたやつもいた。

男はもう動かぬ同胞たちを見て歯を食いしばり、相手を見て睨む。

睨む男に対し相手はハッと鼻で笑う。


「恨むのなら、弱かった己と味方を憎むんだなぁぁ!!!」

振り下ろされてくる剣。
不思議と、男にはゆっくりに見えた。

(俺は……ここで死ぬのか。)


男が死を覚悟したその時、

「おい。何やってんだよ。」

ふと声がした。それは、間違いなくそこで倒れていた奴のものだった。

でも、あれだけ血が出て動かなくなっていたのだ。もう生きているはずがない。

(あぁ。そうかこれは。)

走馬灯。男がそう判断するのに時間はかからなかった。


ザシュッ


「……ッ!?がっは、」

相手が口から血を吐き、膝から崩れる。
男の剣が相手の心臓付近を貫いていた。


男が剣を引き抜くと相手が軽く呻き声をあげ、完全に膝をついた。


「(この私が隙をつかれるとは……)」

倒れるまではいかなくても、それなりに傷は負ったようで、なかなか立ち上がれない。

「(しかもさっきとは動きが違う……なんで急にこんな……)」


男の方を見ると、ブツブツと何か言っていた。


『いつも起こしてくれたのに……もう、いないんだよな。ごめんな。でもお前だったら』


『「諦めんな」』

『そう言って起こしてくれるよな!!』


男が顔をバッとあげる。
目に光が宿り、ただならぬ空気が男から流れてくる。


「たかが、一度隙をついただけで、思い上がるな……」

即座に相手が姿勢を直し剣を構えた。


『俺は負けられないんだ。国のためにも、散っていったあいつらのためにも!!』


男は力強く剣を握り、再び構えた。

#力を込めて



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だいぶ前のお題になります💦
遅れての投稿お許しくださいませm(*_ _)m

10/7/2023, 3:09:53 PM

『あっ。懐かしい。』

自室の片付けをしていると、棚の方に「○○年度、△‪✕‬中学校 卒業アルバム」と書いてあるのが見えた。

中学時代の卒業アルバムだ。
引き寄せられるように、棚からとった。

ペラペラとめくると、先生や教室の写真。
クラス順に生徒たちの写真も載っていた。

私は当時B組だったので、早めに見つかった。

『みんないる……。あ、こいつ……今何してるのかな。』

自分の隣に写っている男の子が目に留まる。
出席番号も近くて、クラスも3年間同じだった。
性格は合わなかったが、よく話していたの覚えている。

いや、話していた……というより喧嘩ばかりだった。



「なぁ、数学小テスト何点だった?」

数学の授業が終わると、コソコソと答案用紙を隠しながら聞いてくる。テストがあった授業後の恒例行事だ。

『ん?普通に満点。そっちは?』

「……。一点落とした。」

『え、嘘、超簡単だったよね。』

にやぁとしながら煽っていくと、相手は顔を真っ赤にした。

「うるせぇ!!お前だって、昨日の理科の問題当てられても答えられなかったじゃねぇか!!」

『はぁ!?もう復習してバッチリだわ!!』

「おーおーそうかよ!!んじゃ次の漢字テストで勝負な!!」

『望むところよ!!』

彼は走って自分の席に座って、漢字の勉強を始めた。
私も彼に負けまいと国語のノートを開く。

きっと、クラスの生徒たちは「あぁ……またか。」と思って呆れている事だろう。

馬鹿らしいと言われても、どうしても彼には勉強で負けられなかった。
今思えば良きライバル、だったのだろう。

彼のおかげで、成績で悩むことは無かった。


基本勉強の話以外しなかった私達だったが、一回だけ違う話をした事がある。


それは珍しく朝早く登校した日のこと。

その日はたまたま早起きができて、学校で少し勉強をしようかなと思い立ったのだ。
普段より静かな通学路を歩き、まだ少ししか開いてない校門を通り、人気のない校舎へと入った。

これは一番乗りか、と少しワクワクしながら教室へ向かった。


ガラガラッ


「うおっ。びっくりした。」

そこには先客として、彼がいた。

『え、何あんた。こんな早くに。』

「それはこっちのセリフ。俺はいつもこの時間に来てるんだよ。」

彼は呆れながら、読んでいたであろう手元の本に再び目を落とす。

意外だった。確かにいつも私が教室に入る頃には、もう既に席で勉強している彼。
こんな早く来ていたとは思わなかった。

ゆっくりと自分の席へ座り、荷物を机の中に詰め込み始める。


「てか、今日は何でこんなに早いんだよ。」

『んー。気分。』

あぁそうかい、と言いながら彼は本をしまってノートや教科書を取りだした。
彼も勉強を始めるようだ。


カリカリとシャーペンと紙が擦れる音がする。
まだ早い時間のため、クラスメイトが来る様子はまだない。
つまり、彼と二人きり……な訳だが。

チラリと彼の方を見る。

集中して教科書とノートを見比べて問題を解いている。真剣に取り組んでいるのだろう。


沈黙が続く中、それを破ったのは彼だった。


「なぁ。」

『へっ。何?』

話しかけられるとは思わなくて、変な声で返事をしてしまった。
少しの間を置いて彼は口を開く。

「月は……綺麗に見えるか?」

『つ、き?』

今は朝だ。月なんて見えない。
見えたとしても白い月。
そういうのは本来、夜に言うものだろう。


『今、朝でしょ?それとも今日の夜の話?』

「いや、なんでもねぇ。忘れてくれ。」

彼はまた黙って勉強を始めた。

正直、どんな意図があってこんな事を言われたのか分からず、私はいつも通り接することしか出来なかった。

私はその朝の勉強はちっとも手につかなかった。


それからは、いつも通り過ごしてお互い志望校に合格し、卒業。
卒業式も対して話さず彼とはそれっきりだった。



あの時の言葉の意図も聞けずに現在に至る。



当時の私は、頭は良くても鈍感だったんだ。

あの言葉は彼なりの告白だったのかもしれないなと、思う時もあるが、それは彼でないと分からない。


真相は彼のみぞ知るのだ。


もし彼と会うことが出来たら聞いてみようか。

そんなことを思いながら、私はアルバムを棚に戻した。

#過ぎた日を思う

10/6/2023, 9:45:16 AM

一人暮らしを始めて数ヶ月。
なれない家事をこなしながら、仕事に行くのはとても疲れる。休みの日はほとんど寝っ転がってばかりだ。

正直実家暮らしの方が楽なのはわかっていたが、実家から会社は新幹線に乗らないと行けない距離。
なので、通える範囲のところに家を借りることにしたのだ。
嫌な家事を全て一人でこなさなければいけないし、生活費や家賃のことも諸々やりくりしていかなければいけない。一人暮らしなんて面倒ばかりだ、そう思うことの方が多かった。

でも唯一、一人暮らし……いや、この家に引っ越してきてよかったと思うのは、空が綺麗に見える窓があることだ。

7月には夏の大三角が見えた。
星座はさほど詳しくないが、有名なのはわかる。

これから訪れる冬にはオリオン座や双子座が見えるかもしれない。少し楽しみにしているのも事実だ。



仕事から家へ帰宅し、電気をぱちぱちとつけていく。
不在中閉めていたカーテンを開け、窓から空を眺める。

雲も少なく、星が十数個ほど見えていた。

住んでいる地域はさほど田舎という訳ではなく、夜もそれなりに明るい。街灯も家の明かりもあるので、その分星は隠れてしまうが、都心のネオン街に比べて暗いため、何個かは見える。

今日はよく見える日のようだ。


ガラッ


窓を開けてベランダに出る。

夏は終わり、もう季節は秋。
夜になると風も冷たくて、少し冷えた。
でも、この冷えは嫌いじゃない。

仕事帰りのサラリーマン。
塾か部活終わりの学生。

人通りも多く、車もたまに通る。


だが、ふと孤独に感じることがあった。


今日も、部署の先輩に怒鳴られた。
会議用の資料に不備があったらしい。
その先輩と一緒に作っていたから間違いないはずなのに。どうしてだろうと思っていたら、こんな声が聞こえた。

「彼女の資料、完璧だったんじゃないのか。一緒に作ってたろ?」

「あ?だからだよ。なんでも完璧にこなせてると失敗した時、苦労するだろ?だからイチャモンつけてやったの。先輩の優しさだっつの。」

「優しさってお前……怖ぁw」

「怖いってw むしろ怒ってもらったことに褒めて欲しいね。」


ガハハと笑いながら遠ざかっていく声。

間違いを指摘されて怒るのはわかる。
だけれど、正しいことをしても怒られるなら、こうして頑張っても無駄なんじゃないか。
そう思ってしまった。

でも、こんな理不尽な仕打ちは初めてじゃない。

同僚にも嫉妬されて物を隠されたり、上司からのパワハラ、セクハラ……。
やりたくて入った会社の裏側を見て、幻滅したのは一瞬で、気づけばそんな会社だと見抜けなかった自分を追い詰めるようになっていた。

心が落ちていくような、何もかもがどうでも良くなっていく。そんな感覚が増えていった。

でも、それでも私がこうして立っていられるのは、今空で輝いている星たちのおかげだ。

輝きの弱い星、強い星。
どの星も星座の一部だったりする。
どんなにちっぽけでも、こうして私たちを照らしてくれるのだ。

そして、何年も輝き続け、多くの人に星座としてもその星だけでも親しまれている。
こんな遠くにいて小さいのにすごい、と尊敬してしまう。


『ん。あれ……』


昔の記憶が蘇る。
父の帰りが遅く、母と帰りを待っていた時、ベランダに出て外を一緒に眺めていた。

「おかーさん!!あの星綺麗!!」

「ん?あぁ、あれはねこうして繋げると……」



『カシオペア座……。』



M字に輝く星が見える。
そうだ、昔もこうしてみていた。
なぜ今まで忘れていたのか……。

子供の頃もこうして星を見るのが好きだった。
学業が忙しくなると同時に見なくなってしまっていたけど、今またこうして星を眺めている。

ふっ、と少し笑った。

『変わんないなぁ。』

改めて空を見上げる。
どの星々も昔と変わらぬ輝きを放っている。

『君たちは、見てられなくても輝き続けている。すごいね。』

誰かに見ていられてなくても……いや、もしかしたらこうして輝き続けていたからこそ、私や母のように見てくれる人がいたのかもしれない。

『頑張っていれば私も……?』

見てくれる人が……いるだろうか。


キラッと光の線が見える。

『えっ、流れ星?』

光の方を急いで見るが、そこには何も無くただ星が輝いているだけだった。

もしかしたら星が返事をしてくれた……り?


『ふはっ、そんなわけないか。』


少し寒くなってきたので部屋に戻る。
戻る足取りは出てくる時に比べるとだいぶ軽かった気がした。

洗面台の鏡で顔を見ると、帰ってきた時よりも明るくなっていた。
星空効果かもしれないなと、窓の方を見てニコッと笑う。

『よし。お風呂入ろ!!そして明日も頑張るぞー!!』

気合を入れて浴室へお風呂を沸かしに行った。


#星座

10/4/2023, 6:27:24 AM

もし。私に前世があるのだとしたら……。
前世での伴侶とやらに会ってみたい。

ふとそんなことを考えながら、コーヒーを啜る。


五十嵐 奈緒。今年で30代に突入。
彼氏いない歴数年。仕事一筋で生きては来たものの、寂しさは無いがこうして色々と考えることが増えた。

将来の自分はどうなるのだろう、このまま一人なのか、それとも家庭を築いているのか。
気になるようになったのだ。


ある日、テレビのバラエティ番組で、“前世” というワードが引っかかった。

元々、超能力とかお化けといった類のものは信じていない。昔の私なら、前世の自分とやらも興味が無いと言って無視していたと思う。

だが、将来について考えていたからか、ひとつの疑問が浮かんだのだ。


『前世の私は、どんな人生を歩んだのだろう。』と。


とはいえ、思いついたから完璧に信じた訳ではなく、あくまで自分の妄想程度。

真実なんて、誰にも分かりやしない。
もし分かる存在がいるのだとしたら、神様くらいだろう。

でも、もし前世があったとして……。
前世の私はこうして一人だったのだろうか。
それとも、誰かの隣を歩いていたのだろうか。

居たかもしれない、かつて生涯を共にした相手。

もし居たとしたら、どんな人なんだろう。


ドンッ。

『あっ。』

そんな風にまた歩いていると、すれ違った男性に肩をぶつけてしまった。
まさかぶつかると思っておらず、私は体制を崩しその場でしゃがむような形になってしまった。


「大丈夫ですか?」

ぶつかってしまった男性が、手を差し伸べた。

心配そうに覗き込む顔はとても整っていて、私の心を簡単に奪っていった。


これが、未来の旦那となる 結城 新太との出会い。


そして、私の前世……栞と新太の前世……拓が恋人同士であったと知るのは、まだまだ先のお話。

#巡り会えたら

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