わたあめ。

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一人暮らしを始めて数ヶ月。
なれない家事をこなしながら、仕事に行くのはとても疲れる。休みの日はほとんど寝っ転がってばかりだ。

正直実家暮らしの方が楽なのはわかっていたが、実家から会社は新幹線に乗らないと行けない距離。
なので、通える範囲のところに家を借りることにしたのだ。
嫌な家事を全て一人でこなさなければいけないし、生活費や家賃のことも諸々やりくりしていかなければいけない。一人暮らしなんて面倒ばかりだ、そう思うことの方が多かった。

でも唯一、一人暮らし……いや、この家に引っ越してきてよかったと思うのは、空が綺麗に見える窓があることだ。

7月には夏の大三角が見えた。
星座はさほど詳しくないが、有名なのはわかる。

これから訪れる冬にはオリオン座や双子座が見えるかもしれない。少し楽しみにしているのも事実だ。



仕事から家へ帰宅し、電気をぱちぱちとつけていく。
不在中閉めていたカーテンを開け、窓から空を眺める。

雲も少なく、星が十数個ほど見えていた。

住んでいる地域はさほど田舎という訳ではなく、夜もそれなりに明るい。街灯も家の明かりもあるので、その分星は隠れてしまうが、都心のネオン街に比べて暗いため、何個かは見える。

今日はよく見える日のようだ。


ガラッ


窓を開けてベランダに出る。

夏は終わり、もう季節は秋。
夜になると風も冷たくて、少し冷えた。
でも、この冷えは嫌いじゃない。

仕事帰りのサラリーマン。
塾か部活終わりの学生。

人通りも多く、車もたまに通る。


だが、ふと孤独に感じることがあった。


今日も、部署の先輩に怒鳴られた。
会議用の資料に不備があったらしい。
その先輩と一緒に作っていたから間違いないはずなのに。どうしてだろうと思っていたら、こんな声が聞こえた。

「彼女の資料、完璧だったんじゃないのか。一緒に作ってたろ?」

「あ?だからだよ。なんでも完璧にこなせてると失敗した時、苦労するだろ?だからイチャモンつけてやったの。先輩の優しさだっつの。」

「優しさってお前……怖ぁw」

「怖いってw むしろ怒ってもらったことに褒めて欲しいね。」


ガハハと笑いながら遠ざかっていく声。

間違いを指摘されて怒るのはわかる。
だけれど、正しいことをしても怒られるなら、こうして頑張っても無駄なんじゃないか。
そう思ってしまった。

でも、こんな理不尽な仕打ちは初めてじゃない。

同僚にも嫉妬されて物を隠されたり、上司からのパワハラ、セクハラ……。
やりたくて入った会社の裏側を見て、幻滅したのは一瞬で、気づけばそんな会社だと見抜けなかった自分を追い詰めるようになっていた。

心が落ちていくような、何もかもがどうでも良くなっていく。そんな感覚が増えていった。

でも、それでも私がこうして立っていられるのは、今空で輝いている星たちのおかげだ。

輝きの弱い星、強い星。
どの星も星座の一部だったりする。
どんなにちっぽけでも、こうして私たちを照らしてくれるのだ。

そして、何年も輝き続け、多くの人に星座としてもその星だけでも親しまれている。
こんな遠くにいて小さいのにすごい、と尊敬してしまう。


『ん。あれ……』


昔の記憶が蘇る。
父の帰りが遅く、母と帰りを待っていた時、ベランダに出て外を一緒に眺めていた。

「おかーさん!!あの星綺麗!!」

「ん?あぁ、あれはねこうして繋げると……」



『カシオペア座……。』



M字に輝く星が見える。
そうだ、昔もこうしてみていた。
なぜ今まで忘れていたのか……。

子供の頃もこうして星を見るのが好きだった。
学業が忙しくなると同時に見なくなってしまっていたけど、今またこうして星を眺めている。

ふっ、と少し笑った。

『変わんないなぁ。』

改めて空を見上げる。
どの星々も昔と変わらぬ輝きを放っている。

『君たちは、見てられなくても輝き続けている。すごいね。』

誰かに見ていられてなくても……いや、もしかしたらこうして輝き続けていたからこそ、私や母のように見てくれる人がいたのかもしれない。

『頑張っていれば私も……?』

見てくれる人が……いるだろうか。


キラッと光の線が見える。

『えっ、流れ星?』

光の方を急いで見るが、そこには何も無くただ星が輝いているだけだった。

もしかしたら星が返事をしてくれた……り?


『ふはっ、そんなわけないか。』


少し寒くなってきたので部屋に戻る。
戻る足取りは出てくる時に比べるとだいぶ軽かった気がした。

洗面台の鏡で顔を見ると、帰ってきた時よりも明るくなっていた。
星空効果かもしれないなと、窓の方を見てニコッと笑う。

『よし。お風呂入ろ!!そして明日も頑張るぞー!!』

気合を入れて浴室へお風呂を沸かしに行った。


#星座

10/6/2023, 9:45:16 AM