『あっ。懐かしい。』
自室の片付けをしていると、棚の方に「○○年度、△✕中学校 卒業アルバム」と書いてあるのが見えた。
中学時代の卒業アルバムだ。
引き寄せられるように、棚からとった。
ペラペラとめくると、先生や教室の写真。
クラス順に生徒たちの写真も載っていた。
私は当時B組だったので、早めに見つかった。
『みんないる……。あ、こいつ……今何してるのかな。』
自分の隣に写っている男の子が目に留まる。
出席番号も近くて、クラスも3年間同じだった。
性格は合わなかったが、よく話していたの覚えている。
いや、話していた……というより喧嘩ばかりだった。
「なぁ、数学小テスト何点だった?」
数学の授業が終わると、コソコソと答案用紙を隠しながら聞いてくる。テストがあった授業後の恒例行事だ。
『ん?普通に満点。そっちは?』
「……。一点落とした。」
『え、嘘、超簡単だったよね。』
にやぁとしながら煽っていくと、相手は顔を真っ赤にした。
「うるせぇ!!お前だって、昨日の理科の問題当てられても答えられなかったじゃねぇか!!」
『はぁ!?もう復習してバッチリだわ!!』
「おーおーそうかよ!!んじゃ次の漢字テストで勝負な!!」
『望むところよ!!』
彼は走って自分の席に座って、漢字の勉強を始めた。
私も彼に負けまいと国語のノートを開く。
きっと、クラスの生徒たちは「あぁ……またか。」と思って呆れている事だろう。
馬鹿らしいと言われても、どうしても彼には勉強で負けられなかった。
今思えば良きライバル、だったのだろう。
彼のおかげで、成績で悩むことは無かった。
基本勉強の話以外しなかった私達だったが、一回だけ違う話をした事がある。
それは珍しく朝早く登校した日のこと。
その日はたまたま早起きができて、学校で少し勉強をしようかなと思い立ったのだ。
普段より静かな通学路を歩き、まだ少ししか開いてない校門を通り、人気のない校舎へと入った。
これは一番乗りか、と少しワクワクしながら教室へ向かった。
ガラガラッ
「うおっ。びっくりした。」
そこには先客として、彼がいた。
『え、何あんた。こんな早くに。』
「それはこっちのセリフ。俺はいつもこの時間に来てるんだよ。」
彼は呆れながら、読んでいたであろう手元の本に再び目を落とす。
意外だった。確かにいつも私が教室に入る頃には、もう既に席で勉強している彼。
こんな早く来ていたとは思わなかった。
ゆっくりと自分の席へ座り、荷物を机の中に詰め込み始める。
「てか、今日は何でこんなに早いんだよ。」
『んー。気分。』
あぁそうかい、と言いながら彼は本をしまってノートや教科書を取りだした。
彼も勉強を始めるようだ。
カリカリとシャーペンと紙が擦れる音がする。
まだ早い時間のため、クラスメイトが来る様子はまだない。
つまり、彼と二人きり……な訳だが。
チラリと彼の方を見る。
集中して教科書とノートを見比べて問題を解いている。真剣に取り組んでいるのだろう。
沈黙が続く中、それを破ったのは彼だった。
「なぁ。」
『へっ。何?』
話しかけられるとは思わなくて、変な声で返事をしてしまった。
少しの間を置いて彼は口を開く。
「月は……綺麗に見えるか?」
『つ、き?』
今は朝だ。月なんて見えない。
見えたとしても白い月。
そういうのは本来、夜に言うものだろう。
『今、朝でしょ?それとも今日の夜の話?』
「いや、なんでもねぇ。忘れてくれ。」
彼はまた黙って勉強を始めた。
正直、どんな意図があってこんな事を言われたのか分からず、私はいつも通り接することしか出来なかった。
私はその朝の勉強はちっとも手につかなかった。
それからは、いつも通り過ごしてお互い志望校に合格し、卒業。
卒業式も対して話さず彼とはそれっきりだった。
あの時の言葉の意図も聞けずに現在に至る。
当時の私は、頭は良くても鈍感だったんだ。
あの言葉は彼なりの告白だったのかもしれないなと、思う時もあるが、それは彼でないと分からない。
真相は彼のみぞ知るのだ。
もし彼と会うことが出来たら聞いてみようか。
そんなことを思いながら、私はアルバムを棚に戻した。
#過ぎた日を思う
10/7/2023, 3:09:53 PM