黒山 治郎

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6/22/2024, 2:56:21 PM

常とは、何処からが常なのか。

普通、常識、平凡、平素、当然。
そして、いつかは必ず終わりが来る日常。

母に金切り声で普通を強要される子供は
一つの異常も持たずに育つ事が出来るのか?

母や父の異常には目をつぶる様にと
呪詛の様に言い聞かされた子供は
いつか同じ事をしないだろうか?

常ならむとは、大変に愉快な言葉であると
私はどす暗い腹の内を抱えて
皮肉な事に、其れこそ常々思うのだ。

自分は変わりたくないが
他人を変えることは厭わない
そんな思想家達の渦中に溺れ
心を日々の最中ですり減らし
何時しか、直せぬ異常の数に
その身を乗り出してしまったならば
花火よりも短く、地面へと咲く。

ほら御覧よ、日常なんぞ
何とも並べず儚いだろうに…。

言葉で定義出来る事は知性の賜物
而れども、曖昧とは悪では無い。

ー 日常 ー

6/22/2024, 3:04:32 AM

小さい頃の私は、随分とわんぱく者で
外を学友達と日が暮れるまで駆け回っていた。
皆が帰った後でも、自分は家に帰るのが億劫で
家の下の駐輪場へ寄り添う様に生えていた藤の木に登っては、大きく二又に別れた幹の部分に
背中が凝り固まる事も厭わず、くるりと丸まって
夜遅くまで眠りこけていた事が良くあった。

一度だけ、私は
その場所で朝を迎えた事がある。

桜が見頃を終える、春の終わり際
瞼越しの眩さに朝を知り、木の上で目を覚ました。
寝惚ける隙すら無いままに
四季彩の濁流に強く叩き起された意識。

藤の花は淡い色ながらも確かに色付き
藤棚から数え切れぬ程に垂れ下がる。
斜め上からの朝日を透かす緑の葉や
太めの枝、支えの石柱の数々は
緻密に描かれた淡い紫を飾る為の額縁に見えた。
風に揺られる度に、その色の群れは波打ち
一瞬、また一瞬と違う作品へと変貌を遂げていた。

幼い私は、懸命に心のシャッターを切っては
一コマ一コマの表情の違いにすっかりと魅入り
数多の神聖な作品に身を置いたまま惚けて
いつの間にやら太陽が天辺へと着き
姉さんが呼びに来るまでの時間を
悠々と跳び越えてしまっていたのだ。

何故、このお題で
この様な話をしたのか。

それは、好きな色とは好きな景色と同じく
無理に一つに絞らずとも良いでしょう?と
他愛も無い、そんな話を、悪戯めいて

あなたへ投げ掛けたかったからですよ。

ー 好きな色 ー

6/20/2024, 3:21:02 AM

ふいに鳴った電話から貴方の声が届く
駅まで迎えにお気に入りの傘を開いて
一人雨の中、見慣れた道を歩いてゆく
何かを思い出しそうだったけれど…
人と雨に当たらぬ様に意識を逸らす

駅のホームで貴方が手を振っている
走り寄ってから思い出したの
家で待っている、もう一本の傘の事を
近くの店で買おうかと伝えたけれど
貴方は慣れた様子で私の傍へ寄って
たまには一緒の傘で帰るのも良いね
そう言って、優しく笑っていた。

       ー 相合傘 ー

6/15/2024, 4:01:52 PM

学生時代に知人から渡された一冊の小説
その知人は所謂、変わり者だった。

私の名前を本名では絶対に呼ばず
本名に含まれる漢字一文字で呼んだり
どれだけ友人達と話が盛り上がっても
誰一人に対しても敬語を抜けず
何処で知ったかも分からない
不思議な知識を持っていたりした。

そんな不思議な知人から
休憩時間に不意に呼び止められ
はいと手渡された小説が
乙一先生の「夏と花火と私の死体」だ。

きっとあなたなら気にいると思います
それだけ言って、手元に残された本
学生時代は活字が苦手で返したかったが
どうしても中が気になってしまった。

帰宅後は直ぐに本を開き文字に目を通す
ぺら…ぺら…ぺら、ぺらぺら
最初の活字は目が疲れる…といった
感想は読み終わると消え失せていた。

幼い子供二人、否…三人の冒険譚だと
そう語るには随分と禍々しい内容で
ホラーミステリーにしたって
こんな表現の仕方は初めてだった。

短篇小説だった事もあり
一晩で読み終わってしまい
翌日の校内で彼に返そうと声をかけたが
気に入って下さったなら差し上げます
私も好きな作品が布教出来て嬉しいので
そう言って彼は朗らかに笑っていた。

その本は今も本棚にあり
時々、内容を懐かしみ読み返している
件の彼とも、偶に連絡を取っている
だが…あだ名呼び、誰に対しても敬語
使い所に困る雑学の披露、好きな小説

私はあの出来事を感謝こそすれ
恐らくは同類として、彼を友人だとは
これからも呼ばずに知人と呼ぶだろう。

       ー 好きな本 ー

6/15/2024, 7:02:14 AM

今にも溢れ出しそうな重い曇天の下
足取りは反比例して軽快であった。

初夏の暑い日差しもなく
足を重くする湿気も少ない
少しばかり頭は重く感じるが
それでも、明度の下がった公園内は
散歩をするだけでも少し新鮮だった。

たまに顔面へ追突してくる蚊柱には
思わずと少し眉を顰めたが
これも自然の一部と思えば
自身の心を諌めるのも容易い。

いつもより落ち着いた色合いの新緑に
人通りの少なさと荒れ気味の風も
私の様な偏屈者には心地好かった。

鼻先にポトンと小さな感触に
もうしばらく堪能したかったと
無念を残した雨の日となった。

      ー あいまいな空 ー  

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