黒山 治郎

Open App
9/15/2024, 12:33:55 PM

昔馴染みから腐れ縁の通知が届く
久しぶり、今度飲もうや
たったそれだけのLINEが
時間も度外視で無作法に送られてくる

軽い頭痛にこめかみを押し
久しぶり、良いよ。日時は?

明後日の夜はどう?
あまりにも急だなと一瞬考えはしたが
いや、いつも急だったと即座に考えを改める

遠慮の無さに頭痛は消えずとも
昔馴染みからの誘いには喜びもあり
了解、明後日の21時頃に会おうと
ちゃっかりと時間指定の返信を返し
見飽きたスタンプに既読をつけて
部屋の電気を消した。

潜り込んだ布団の中で
LINEの文字を思い返す

…誘った理由には大体の察しがついていた
どうせ好きだった女子に振られたんだろう
「良い人だとは思うんだけどね」
なんて、お祈りメールにも似た
定型文も添えられたに違いない

明後日の長い夜になりそうな気配と
明明後日の仕事への一抹の不安に
目の奥が引き攣るような感覚がして
私は、こめかみを解す事に徹した。

ー 君からのLINE ー

9/14/2024, 8:21:04 PM

見慣れた庭先では狼煙が上がっている
焚き火の爆ぜる音は無音の自室に生々しく響き
その距離を忘れそうになりながらも
窓の外で景色が白に両断される様を眺めていた。


「こんな下らない物を聴いてるから
素行が悪くなって門限も守れないのよ
貴女はもっと高尚な音楽を聴くべきね」


何も知らない母の声はノイズとなり
同じ言語だと言うのに内容は理解しがたく
漸く思考が追い付き懸命に謝罪をしたが
戯言として扱われ、聞き入れてはもらえず
部屋にあった数枚のレコードの束は
乱雑にビニール紐を巻きつけられ
油の染みた新聞紙に埋められて
火種は、その上へと無情に落とされた。

親戚でも兄の様に慕っていたあの人
彼が遺してくれた素敵な四人組のレコードは
今頃、熱にぐったりと溶けてしまった頃だろうか。

勉強時間の合間にコツコツとバイトを続け
ようやく買えたステレオタイプのレコード再生機が
中身を失って夕陽を背に受け、郷愁に暮れている。

兄さんはとっくの昔に、この世を去った
それは十分に理解していた。

だけど、あのレコードを聴く度に
兄さんの心に手が届きそうで
命が灰に変わったと言う事実に
違う答えが見い出せる気がしていたんだ。

…結局、夢物語になってしまったけれど
伝える先も無い狼煙はだんだんと薄まってゆき
兄さんの命がまた燃え尽きる様子を
弱い私は言葉も失くして呆然と見過ごした。

硝子越しに風に舞い上げられ視界に映りこむ
原型を忘れた“Let It Be”のレコードの端が
手酷い皮肉の言葉に成り代わって、漸く
温度のない水滴は頬を滑り出していた。

ー 命が燃え尽きるまで ー

9/10/2024, 2:29:27 PM

情動に愛着と罪責の強い衝撃を与え
喪に服し項垂れる私を天より眺める人

渡し損ねた言葉は数知れず
たらればの懺悔も増え続け
容易く増えて、容易く割れる
そんな、儚いしゃぼん玉の様に
こちらを見下げて一瞥しては
身勝手に空気へと霧散し飽和し
湿り気ですら残りはしなかった。

只々、情動に空いてしまった空洞が
乾ききった強風を通す度に
悼みを憶えているだけだった。

ー 喪失感 ー

9/9/2024, 3:36:46 AM

木馬が回るオルゴール
馬が嘶くように動く度
コトリコトリと音がする
書き物机に頭を伏せて
たどたどしい音楽を聴く
自分の音も織り交ぜて
夢に泥濘、現に微睡む。

ー 胸の鼓動 ー

9/8/2024, 8:14:01 AM

ギリギリ予約。
ー 踊るように ー

Next