私の身体に染み渡る声で
貴方は“別れるかもしれない”なんて
ちょっぴり残酷なことを言う。
それも、酷く酔った夜に寝てしまう直前で
それが怖いなんて、怖気付きながら
心底、細く弱った声で言う。
理想と現実に苛まれる事を恐れるのはお互い様だ。
けれど、その感情を知る前に
未知だからと切り捨てるには
私達は互いに情が募りすぎた。
過去に、聞いてと誰かの裾を引いた時
幼かった手は簡単に振り払われたけど
貴方は聞く度、色んな“返事”をくれた。
振り払わない人は、それだけで珍しかった。
振り払わない理由が知りたくて
色んな時にも聞いてみた。
どんな時でも、貴方は変わらず返事をくれた。
好きだと伝えた声も言葉も欠かさない人だった。
これだけ沢山の言葉を丁寧にくれたなら
いつか、来るであろう別れの言葉も
貴方はきっと欠かさないんでしょう?
なら
私、貴方を諦める気には到底なれない。
さようならの、その後でも
丁寧な貴方なら言葉を返してくれるでしょう?
信用が拗れた確信犯へ
貴方が根負けして笑い出すまで
“友達”として傍に居座ってやるつもり。
ー big love! ー
なんて、純粋なだけでは終わらない。
微塵切りの息の先
ぺトリコールの道標
天使の梯子は雲を割り
昇ってく君を遠目に見上げて
虹のたもとで一つだけの影送り
少年の強がった再会の約束は
足元の弱いライオンだけが知っていた。
ー またね! ー
花筏に溢れた道路脇の水路
田んぼ道に少し零れた薄紅色
雨上がりの朝焼けの下
花盛りな春の始まりは
天真爛漫な突風に急かされて
名も無き誰かへ報せたいと
今まさに、空を舞い進む。
ー 春爛漫 ー
いつかの光を夢見る先行きへの不安
なおも膨らみ続ける胸と鞄の中身
正しく向き直り続ける水盆の中心針
針が示すのは、方角だけではなかった。
航路から後戻りという選択肢を消して
この進路が足元を泥濘るませない事を祈る。
縮込めていた背と共に、小さな帆を風で張り
利き手の指が白くなる程、舵輪を強く握り締め
仕上げにと溺れ慣れた顔を大きく拭った。
夢物語の出航を告げる鬨の声は 一つ。
ー 羅針盤 ー
こんなに冷ややかに澄んだ空気の夜は
なんだか人が少しだけ嫌になる。
暗いコンクリートの石階段へ座り込み
冷気に熱を奪われ白く切り抜かれた呼吸が
口から延々と狼煙の様に上がるのを見ると
誰にも見つかりたくない気持ちが溢れて
情動に溺れそうな胸中を護る為に
私は一層、強く膝を抱えてしまう。
…ただひとり、君にだけ
どうしようもなく逢いたくなって
他の熱源じゃ心は冷めたままなんだと
独白で何処までも空っぽな駄々をこねた。
ー ただひとりの君へ ー