微塵切りの息の先
ぺトリコールの道標
天使の梯子は雲を割り
昇ってく君を遠目に見上げて
虹のたもとで一つだけの影送り
少年の強がった再会の約束は
足元の弱いライオンだけが知っていた。
ー またね! ー
花筏に溢れた道路脇の水路
田んぼ道に少し零れた薄紅色
雨上がりの朝焼けの下
花盛りな春の始まりは
天真爛漫な突風に急かされて
名も無き誰かへ報せたいと
今まさに、空を舞い進む。
ー 春爛漫 ー
いつかの光を夢見る先行きへの不安
なおも膨らみ続ける胸と鞄の中身
正しく向き直り続ける水盆の中心針
針が示すのは、方角だけではなかった。
航路から後戻りという選択肢を消して
この進路が足元を泥濘るませない事を祈る。
縮込めていた背と共に、小さな帆を風で張り
利き手の指が白くなる程、舵輪を強く握り締め
仕上げにと溺れ慣れた顔を大きく拭った。
夢物語の出航を告げる鬨の声は 一つ。
ー 羅針盤 ー
こんなに冷ややかに澄んだ空気の夜は
なんだか人が少しだけ嫌になる。
暗いコンクリートの石階段へ座り込み
冷気に熱を奪われ白く切り抜かれた呼吸が
口から延々と狼煙の様に上がるのを見ると
誰にも見つかりたくない気持ちが溢れて
情動に溺れそうな胸中を護る為に
私は一層、強く膝を抱えてしまう。
…ただひとり、君にだけ
どうしようもなく逢いたくなって
他の熱源じゃ心は冷めたままなんだと
独白で何処までも空っぽな駄々をこねた。
ー ただひとりの君へ ー
耳鳴りついでに勝手に背を押してくれるなよ
もう踏み出すつもりなんざなかったのに
全くもって要らぬ世話を焼いてくれたもんだ
背を合わせていたお前が先に逝っちまうから
背中が吹きっさらしに押されるんだろうが
追い風なんて御大層に呼ぶ気も起きない
臆した己を無機質に戦場へと追い立てる風は
盾にもなれねぇ無駄な体躯を嘲笑って刺す
ただの冷えきった突風でしかねぇんだよ。
ー 追い風 ー