黒山 治郎

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落ちた海中で、もがく事も忘れて
水面の先を、ただ見つめていた。

高尚な感情群は遠にその多くを亡くしてしまった。

それでも湧き上がった酸素への渇望は
流れに追い付けず千切られる雲の様に
泡沫の形を経て、私から逃れ空へ昇る。

定められた形である事にも飽いてしまった頃
視界は泡を吐く度に白に縁取られ始め
水面鏡の私は見送ろうと笑う事を選ぶ。

酸素が減り空を溶かした青い水中の底へ進む
途中、魚群の影には擽ったい様な寂しさを見て
落ちたのが海であった事を幸福に想った。

ー 空に溶ける ー

5/20/2025, 3:00:59 PM