黒山 治郎

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その日、産声が鼓膜を揺らした
掌に収まってしまう手は愛しく
指先には柔らかな肌の暖かさ
少し時間が経っても変わらなかった
力無く握り返された繋がりは離しがたく
飛び立たなければ、ずっと続けばいいだなんて
まだ未熟な私は自分可愛さが抜けない。

けれど、アナタは進んでゆく。

アナタは好きや嫌いを知れたのね。
アナタは一人で立てるようになったのね。
アナタは喋れるようになったのね。
アナタは歩く方向を決めたのね。
アナタは、いつか
私から巣立つのよね。

愛しい君へ
歩み方を学んだなら、休む事も知っていて。
もし、打ちひしがれて疲れてしまったなら
一時でも雨宿りにおいでなさい。
エゴだもの、愛なんて大層な事は言えない。
だから、アナタも
大層な物を返すべきなんて思わないでね。
遠い日に雲の上でお土産話が聴けたなら
手放した事への勇気には充分な応えになるから。

ー 手放す勇気 ー

5/16/2025, 3:29:31 PM