黒山 治郎

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小さい頃の私は、随分とわんぱく者で
外を学友達と日が暮れるまで駆け回っていた。
皆が帰った後でも、自分は家に帰るのが億劫で
家の下の駐輪場へ寄り添う様に生えていた藤の木に登っては、大きく二又に別れた幹の部分に
背中が凝り固まる事も厭わず、くるりと丸まって
夜遅くまで眠りこけていた事が良くあった。

一度だけ、私は
その場所で朝を迎えた事がある。

桜が見頃を終える、春の終わり際
瞼越しの眩さに朝を知り、木の上で目を覚ました。
寝惚ける隙すら無いままに
四季彩の濁流に強く叩き起された意識。

藤の花は淡い色ながらも確かに色付き
藤棚から数え切れぬ程に垂れ下がる。
斜め上からの朝日を透かす緑の葉や
太めの枝、支えの石柱の数々は
緻密に描かれた淡い紫を飾る為の額縁に見えた。
風に揺られる度に、その色の群れは波打ち
一瞬、また一瞬と違う作品へと変貌を遂げていた。

幼い私は、懸命に心のシャッターを切っては
一コマ一コマの表情の違いにすっかりと魅入り
数多の神聖な作品に身を置いたまま惚けて
いつの間にやら太陽が天辺へと着き
姉さんが呼びに来るまでの時間を
悠々と跳び越えてしまっていたのだ。

何故、このお題で
この様な話をしたのか。

それは、好きな色とは好きな景色と同じく
無理に一つに絞らずとも良いでしょう?と
他愛も無い、そんな話を、悪戯めいて

あなたへ投げ掛けたかったからですよ。

ー 好きな色 ー

6/22/2024, 3:04:32 AM