エムジリ

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3/25/2023, 11:10:10 PM

あれは小学校4年生の時だから、もう10年以上は前の話。
クラス替えして、初めて隣の席になった男の子に恋をした。
初恋だった。

ある日の下校時間、昇降口で、
その男の子の男友達に話しかられた。
「あいつ、あなたのことが、好きだって」
女友達と一緒にいた私はとても恥ずかしくて
「ふーん、あいつがね」
と素っ気ない返事をしただけだった。
翌日、特に私と男の子の関係に変化はなかった。

しばらく経って、席替えの時期になった。
驚くことに再び、男の子と隣の席になれた。
気を利かせた先生が皆の前で、
「もう一回、席替えする?」
と、右手でマイクを握る形を作って、
私と男の子に尋ねてきた。

私はこのままで良かった。このままが良かった。
けれど男の子が「席替えしたい」と言ったから、
すかさず後を追うように「私もしたいです」と言った。

それから私は別の男の子を好きになったりして、卒業した。

好きじゃない。もう、好きじゃないよ。
でも、たまに、彼が夢に出てくる。
私の頭が勝手に彼を成長させた姿で。

夢のなかで、私は自由に振る舞う。
「私ね、昔、あなたのことが好きだったの」
そう言うと、彼はとても嬉しそうに微笑んでくれる。
私達はほんの刹那、結ばれる……

夢から覚めた後に押し寄せるのは、
どうしようもない悲しさ。
好きだった。きっとすごく、好きだった。
願っても願っても、過ぎた時間が戻ることはない。


▼好きじゃないのに

3/25/2023, 3:09:12 AM

──ぱち、ぴち、ぱちぱち
にわかに、瓦屋根に水の弾ける音が響きだす。

(なんで今…)
ゆっくり瞬きしてから、鋭く睨むように左を向いた。
28m先の円形の的に突き刺さる、3本の矢。
(雨が降ると、的中率が極端に落ちる…)
経験則から学んでいる、自分の悪い癖だ。

ふぅー、と深呼吸をひとつ。
会場は静まり返っている。
聞こえるのは憎らしい水音と、自分の鼓動だけ。

矢をつがえる手が震える。
じめっとした汗が、道着に、下がけに、張りつく。
笑う膝を力でねじ伏せて立ち上がった。
弓を引く、肩を開いて、均等に均等に均等に。

(いつもより、少しだけ右上を狙う)
対峙するのは、ほんの数ミリにしか見えない白と黒。
(いつもより、少しだけ右上を狙う…ここだ!)

いっぱいに引かれた弦から放たれて、矢は真っ直ぐ飛んだ。
雨に打たれ、軌道はわずか下にカーブを描く…

パァン!

的を突き抜く破裂音と共に、辺りは歓声に包まれた。
衝撃で、私はまだ残身から体を動かせないでいる。
瓦屋根に弾ける音が、祝福に思えた。


▼ところにより雨


3/23/2023, 3:08:48 PM

私にとってあの子は唯一だっけど、
あの子にとって私はその他大勢の中の一人だった

人に心を開くことが下手な私は
頑張って友達を作る度に思い知らされた

いつしか相手の顔色ばかり窺うようになって
周りが求める答えと態度を探すことに必死になって
それが上手に出来なかったときは酷く落ち込んだ

ある時疲れはてて、ついに一切の交流を絶ったことがある
そこまでして気がついたのは、
結局人は、人に依ってしか生きられないということ

今でも人付き合いは苦手
うわべの綺麗な顔しか見せられない

そんな私でも、いつか
誰かにとっての特別な存在になりたい


▼特別な存在

3/21/2023, 12:55:29 PM

(私の生きてる理由って、なんなんだろう)

そんな思考に支配される時、
決まってこの世には、自分ひとりしか
存在していないような気分になる。

窓の外を眺めれば、
ぎゅうぎゅう詰めに建てられた
住宅達には明かりがともり、
いつも渋滞しているあの道路には
今日も真っ赤なテールランプが並び、
時折、人の声さえ聞こえるのに。

「なに?また考え事?」

甘く優しく耳障りの良い音が、私の耳をくすぐる。
同時に恐ろしい程 強い力で抱きすくめられた。
私を捕らえるこの両腕は、
鉛のように重く、鎖のように固い。

「なにも考える必要ないでしょ、僕がいれば」

私を一人ぼっちの世界におとしたのは、この人だ。

「これからもずっと、ふたりっきりだね」

私はまた、窓の外を眺める。
私以外が存在する世界に救いを求めて。


▼ふたりぼっち

9/4/2022, 12:51:17 PM

「きゅうけつき」
「ん~、きつつき」
「き…きせき」
「はあ!?また『き』かよ!」
「あっはっは、ガンバー」

夕暮れ時、学校の帰り道。
会話のくだらなさとは裏腹に、私の心は有頂天。
あなたとおしゃべりしながら帰れるなんて、とっても幸せ。
難しい顔して悩む彼を、つい、にこやかに見つめてしまう。

「どうする?降参?」
「……すっごいヤツ、思いついた」
「何?」

どんな仕返しの言葉が来るかと思ったら、
急にあなたが立ち止まるから、
私は一歩進んだところで振り向いて聞くことになった。

「きみが、だいすき」

季節は秋の始まり。
私達の間に吹き抜ける風は涼しい。
でも、彼の額に浮かんだ汗が、
これはただの言葉遊びじゃないと言っている。

沈みかけの太陽が今度は私の胸に昇ったみたいに、熱い。
あなたと交わる視線が、キラキラ、きらめいている。


▼『き』らめ『き』

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