エムジリ

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──ぱち、ぴち、ぱちぱち
にわかに、瓦屋根に水の弾ける音が響きだす。

(なんで今…)
ゆっくり瞬きしてから、鋭く睨むように左を向いた。
28m先の円形の的に突き刺さる、3本の矢。
(雨が降ると、的中率が極端に落ちる…)
経験則から学んでいる、自分の悪い癖だ。

ふぅー、と深呼吸をひとつ。
会場は静まり返っている。
聞こえるのは憎らしい水音と、自分の鼓動だけ。

矢をつがえる手が震える。
じめっとした汗が、道着に、下がけに、張りつく。
笑う膝を力でねじ伏せて立ち上がった。
弓を引く、肩を開いて、均等に均等に均等に。

(いつもより、少しだけ右上を狙う)
対峙するのは、ほんの数ミリにしか見えない白と黒。
(いつもより、少しだけ右上を狙う…ここだ!)

いっぱいに引かれた弦から放たれて、矢は真っ直ぐ飛んだ。
雨に打たれ、軌道はわずか下にカーブを描く…

パァン!

的を突き抜く破裂音と共に、辺りは歓声に包まれた。
衝撃で、私はまだ残身から体を動かせないでいる。
瓦屋根に弾ける音が、祝福に思えた。


▼ところにより雨


3/25/2023, 3:09:12 AM