悪役令嬢

Open App
6/30/2024, 6:45:13 PM

『赤い糸』

「おばあさま、遊びにきましたわ!」
「あら、いらっしゃいメア」

オズの屋敷に遊びに来たメアは、
オズの祖母であるおばあさまに飛びつきました。

おばあさまはとても優しくて、
メアが遊びに来る度に美味しいお菓子を
用意してくださり、ご本を読んでくれたり
お人形遊びに付き合ってくれたりします。

ある日のこと、オズとメアが屋敷で
かくれんぼをしていた時の話です。

おばあさまの部屋に迷い込んだメアは、
ドレッサーの上に置いてある可愛いらしい
コンパクトに目を惹かれました。

ハートの宝石が埋め込まれたピンクのコンパクト。
中を開けると、甘い香りが漂ってきます。
ハンドクリームでしょうか。
手首につけると、ふんわりと
薔薇の香りが広がりました。

クリームのついた手で目を擦ると、
突然、メアは赤い糸が見えるようになりました。

赤い糸は人々の小指に結ばれており、
男と女、同性同士、さらには犬や猫、
馬や鳥と繋がっている人もいました。

メアは、おばあさまが読んでくれた
ご本の話を思い出します。
運命の相手とは赤い糸で結ばれると────

「オズ、わたくし赤い糸が見えますの!」
メアの話を聞いたオズもまた、
クリームをつけてみることにしました。

「どうですか?」
「本当だ……見えますね」

オズはメアの小指に繋がれた赤い糸を
じっと見つめます。
それからオズは鋏を持ってきて、
メアの赤い糸をちょきんと切ってしまいました。

「何するのですか!」
「だって邪魔じゃないですか」
「ひどいですわ、ひどいですわ!」

わーんわーんと泣き出したメア。
オズは彼女の指から垂れ下がった
糸を自分の小指に巻き付けました。

「ほら、また結びましたから
泣き止んでください」

騒ぎを聞きつけたおばあさまが
二人のもとにやってきました。

「まあ、一体どうしたのですか?」

メアはそれまでの出来事を全て
おばあさまにお話しました。

話を聞き終えたおばあさまは、優しく微笑み
ながらコンパクトを手にして二人に説明します。

「これは『サダメの軟膏』と呼ばれるものです」

"サダメの軟膏"
古くから伝わる魔女の秘薬で、
これを目元に塗ると、
運命の相手が見えるようになるのだとか。
赤い糸は恋愛だけでなく友情、親愛、
深い絆や重要な出会いを示すこともあります。

「ですが運命とはさだめられたものでは
ありません。自らの手で紡いでいくものですよ」

おばあさまは優しく二人の頭を
撫でながら言いました。

「さあ、解呪の水でお顔を洗いましょうか」

それから赤い糸は見えなくなりました。
メアは一体誰と結ばれていたのでしょうか。
今でもあの赤い糸は繋がっているのでしょうか。
全ての真相は闇の中────

6/28/2024, 6:00:05 PM

『夏』

真夏の夜の話です。

「ひと狩りいきませんこと?セバスチャン」
「あの、どちらへ?」
「ずばり!ヘラクレスオオカブトを
捕獲しにですわ」

虫取り網やその他諸々を持って夜の海岸へ
訪れた悪役令嬢と執事のセバスチャン。

今回の標的は「昆虫王」の肩書きを持つ
世界最大級の甲虫、ヘラクレスオオカブト。

悪役令嬢は、フクロウが館長を務めている
博物館へ寄贈するため、日夜コツコツと
虫や魚を集めているそうです。
目指せ図鑑コンプリート!

この虫は夜行性で夜になると活動を開始し、
樹液が出ているヤシの木に集まります。

視界が悪い暗闇の中、ランタンの明かりと
セバスチャンの嗅覚を頼りに
樹液の出る木を探していると────

「主、いました」

ヒソヒソ声で悪役令嬢に話しかけるセバスチャン。

彼が指さすヤシの木にはアリやカナブン、
そして待望のヘラクレスオオカブトの姿が!

ランタンの明かりを落として、
そーっとそーっと気付かれないように、
虫取り網を構えながら忍び足で近づく悪役令嬢。

手に汗握る緊張の瞬間────
樹液を呑気に吸う標的の背中に
網をバサッ!と被せます。

中を確認すると、
英雄ヘラクレスの武器のような大きな角と
光沢のある黒褐色のボディがお目見え。

「やった!捕まえましたわ!」

ヘラクレスオオカブトを掲げながら、
決め台詞を言い放つ悪役令嬢。

「ヘラクレスオオカブトゲットだぜ、ですわ!」
「おめでとうございます。主」

お目当ての虫を手に入れルンルン気分な彼女は
帰り際、執事にこんな話を語り始めます。

「セバスチャン知ってますか。
木を揺するとたまにお金の入った袋や
不思議な木の葉が落ちてくるのですよ」

「へえ、知りませんでした」
「ふふん、試しにお見せしましょうか」

悪役令嬢は丁度いい木に目星をつけて
ゆさゆさと揺らします。

ドサッ!

すると鈍い音と共に蜂の巣が落ちてきました。

「えっ」

衝撃にびっくりしたスズメバチが巣から
飛び出してきて、悪役令嬢を襲い始めます。

「いやーっ!助けてくださいましっ!」
「何やってるんですか……」

悲鳴を上げてスズメバチの大群から逃げる
悪役令嬢をセバスチャンは呆れた様子で
見つめていました。

その後、セバスチャンに救出された悪役令嬢は
無事に屋敷へ戻ることができましたとさ。

6/25/2024, 6:45:05 PM

『繊細な花』

もうすぐ夏休み。
学園の中庭で、悪役令嬢は花々に
囲まれながらため息をついていました。

「自由研究のテーマはもう決めましたか?」
「それがちっとも思い浮かばないんですの」
「なんと、そんなお嬢様に
ぴったりの品がこちらに!」

見たこともない花の苗を取り出す魔術師。

「それは一体?」
「人恋花。別名メンヘラソウと呼ばれる花です」
「めっ……何ですのその名前は」


"人恋花"(別名:メンヘラソウ)
水、空気、適当な温度、日光、肥料の他に
愛がないと育たないとされる世にも奇妙な植物。
毎日話しかけてあげないと
すぐに枯れてしまうらしい。

「大切に育てると美しい花を咲かせます。
素材としての価値も高い」

「何だか面倒くさそうですわ」

「もちろんタダでとは言いませんよ。
お代はちゃんと払います。自由研究も兼ねて
高額バイトも行える、一石二鳥!」

こうして花のお世話をすること
になった悪役令嬢。

花は極度の寂しがり屋で
傍に誰かいないと不安になり、
話を聞いてあげないと
途端に不貞腐れてしまいます。

「ごきげんよう、今日も綺麗ですわね」
『どうせ他の花にも同じこと言ってるんでしょ?
アタシはそんな安い花じゃないわ』

『アタシのこと大事に扱ってくれない人
とは仲良くなれないの』

『この世で最も哀れな存在を知ってる?
それは忘れられた花よ』

『好きって10回言って』
「好き好き好き好き好き好き
好き好き好き好きですわ!」

「なんて美しい!」「可愛らしいですわ」
「エレガントですこと」「毎日頑張ってますのね」
「一緒にいると楽しいですわ」

悪役令嬢は紳士がレディを褒め讃えるかの如く、
毎日花のご機嫌を取り続けました。
そして気付けば彼女自身も花との時間を
楽しむようになっていたのです。

『……いつか離れ離れになったとしても、
アタシのこと忘れないでね』

翌朝、目覚めるとそこには驚きの光景が。
なんとあの花が、この世のものとは思えない
虹色の煌めきを放っているではありませんか。

『ありがとう。アナタのおかげでアタシ、
こんなに成長できた』

「まあ……立派になって、本当によかったですわ」

手のかかる娘を育てあげた親のような
気分になり、思わず涙ぐむ悪役令嬢。

ハンカチで目元を押さえていると、
「これはこれは、よく育ちましたね。
どうもありがとうございます、お嬢様」
どこからともなく魔術師が登場。

彼は黒いローブの下から鋏を取り出して、
ためらいもなくバチン!と花を刈り取りました。

「なっ!」
「はいこれ、お疲れ様でした」
淡々とお金の入った白封筒を手渡す魔術師。

茫然と封筒を受け取りながら、
悪役令嬢は花の最後の言葉を思い出します。

『アタシのこと忘れないでね』
「……ええ、もちろんですわ」

花と過ごしたかけがえのない日々は、
彼女の心にしっかりと
刻まれたのでありましたとさ。

6/23/2024, 6:45:03 PM

『子供の頃は』

「オズ、何してますの?」

芝生の上に寝転がって分厚い本を読んでいると、
頭の後ろに大きなリボンをつけた
セーラーワンピース姿の美少女が
声をかけてきました。
彼女は幼なじみのメアです。

「魔導書を読んでいるのですよ」
「ふうん……ねえオズ、あなたに見せたいものが
ございますの。ついてきてくださいまし!」

彼女に連れてこられた場所は、
ふわふわのクッションやぬいぐるみ、
アンティークの小物入れやオルゴールなど
ファンシーな家具がたくさん並べられた
パステルピンクを基調とした部屋。

メアがお披露目したのは、
赤い屋根の立派なドールハウス。

「これが見せたかったものですか?」
「ですわ!」

~.・*✿ シルパニアファミリー
あかりの灯る大きなお家 ✿ *・.~

巷で女の子たちに大人気のおもちゃです。

お家の中では小さなうさぎの人形たちが、
テーブルを囲んだりお風呂に入ったりしています。

「こちらはうさちゃんファミリーですわ。
お父さん、お母さん、おじいちゃん、
おばあちゃん、おねえちゃん、子ども7匹
計12匹の大家族ですの」

「へえ、よくできてますね」

職人の手によって精巧に作られた
小さな家具や人形を観察するオズ。
ふとあるものが彼の目に留まりました。

「おや、この子だけみんなと毛色が違いますね」

オズが指さしたのは灰色の子うさぎ人形。
他の人形がオレンジ色の毛並みに対して、
この人形だけは灰色です。

「この子はグレイ。お父さんうさぎが外で女を
作って、そのメスとの間にできた子どもですわ」

「うわあ、複雑~」

かわいらしい見た目にそぐわぬ
ドロドロな世界観です。

すると突然メアが慌て始めました。

「ない、ゴンザレスがいない!?」
「ゴンザレス?」
「赤ちゃんうさぎ人形の名前ですわ。
どこへ行ったのゴンザレス!」

二人はドールハウスの周辺を
くまなく探しますがどこにも見当たりません。

「わたくしのゴンザレス……」

目に涙を溜めながらスカートを握りしめるメア。

「子どもなんてまた作ればいいじゃないですか」

オズがメアを慰めていると、
小窓のフリルカーテンがガサゴソと
動いているのを発見しました。

カーテンをめくると、
そこにいたのは神出鬼没の魔猫、
生後15ヶ月のチェシャーキャット。
何かをガシガシ齧っています。

よく見るとそれはメアが必死に探していた
赤ちゃんうさぎの人形ではありませんか。

「なんてこと!わたくしのゴンザレスが!
チェシャ猫、その子を早く返しなさい!」

「いやにゃ!こいつはチェシャの獲物だにゃ!」

「ムキーッ!なんて躾のなってない子!
親の顔が見てみたい!」

チェシャ猫とメアがト〇ムとジェ〇リーを
彷彿とさせる壮絶な追いかけっこをしている傍で、
オズはおやつのカンノーリを
のんびり食べていました。

6/22/2024, 6:45:05 PM

『日常』

あたしの名前はモブ崎モブ子!
私立ヘンテコリン学園に通う高校一年生。

あたしには今、好きな人がいる。
同級生のセバスチャン・フェンリル君だ。

今日こそは彼に告白しよう。
そう思っていた矢先────

「モブ崎さん、
貴女に決闘を申し込みますわ!」

高飛車お嬢様がしょうぶ をしかけてきた! ▼

どうやらあたしはこの人を倒さないかぎり
彼に想いを告げられないらしい。

今日の勝負は"テニス"
お互いテニスウェアに着替えてコートに降り立つ。

「1セット取った方が勝ちですわ。よろしくて?」
「望むところよ!」

とは言ってみたものの、
モブ子はテニスの経験が皆無。

だがここで引いたら女が廃る。
ええい、なんとかなれー!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈

なんとかなるはずもなく、ビギナーモブ子は
高飛車お嬢様にボコボコにされていた。

鋭い音とともにサーブが放たれ、
モブ子の横を通り過ぎる。

『40-0』

「オーホッホッホ!貴女相手では
ウォーミングアップにもなりませんわ」

高飛車お嬢様の小馬鹿にした発言に
モブ子は歯を食いしばる。

ムカつく~~~~!!!!

スコアは5-1。
あと1ゲーム取られたら彼女に負けてしまう。
追い詰められたモブ子はある作戦に出た。

ラリーが始まったと同時に、
モブ子は高飛車お嬢様に語りかける。

「何でそんなに必死なんですか?
彼の恋人でもないのに」

「なっ!?」

「ただの雇用主と従業員の関係ですよね?
彼のプライベートまで束縛する権利は
あなたにはないはず!」

モブ子の言葉に惑わされた高飛車お嬢様。
その隙を狙い、モブ子はドロップショットを放つ。

「くっ!」

モブ子の覚醒と言葉責めにより、
高飛車お嬢様の調子が狂い始める。

『40-30』

フォアハンドのストレート、
バックハンドのクロス。

互いに打ち合う中、
高飛車お嬢様が口を開いた。

「モブ崎さん、先程の言葉ですが、
確かに私と彼は恋人ではありません。
けどそんな事はどうでもよいのです」

「えっ」

「なぜなら私は悪役令嬢!
この世の殿方の心は全て私のものだから!」

何そのジャイアニズム!
意味わかんないですけど!!

高飛車お嬢様の強烈なボレーにより試合は決着。

「ゲームセット!メア・リースー様の勝利です」

歓声が沸き起こる。
いつの間にかフェンスの外に人が集まっていた。

負けた。
項垂れるモブ子に高飛車お嬢様が手を差し出す。

「まあ、思ってたよりは戦えましたわね。
及第点を差し上げましょう」

は?ほんと何様なのこの女!
眉間をピキピキとさせながら、
二人は貼り付けた笑顔で握手を交わした。

待っていてね、フェンリル君。
必ずあなたを解放してみせるから!

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
ぞわっ

「どうしましたか、セバスチャン」
「急に寒気が……」

一方その頃、セバスチャンは
謎の悪寒に襲われていたのであった。

Next